三話 誰だ?
「えーと、頑張ってくださいね」
この言葉の意味どうり俺は、頑張って来なければならない。
そして、俺は、階段を降り真白に手をふった。そう、あいつの名前は、真白なのだ。
俺は、階段を降りながら、やるべきことを振り返える。
まずは、ひとつ。この神社に人々を集めることだが、まず、真白の失われた魔力を回復しなければならない。
神社での魔力の使い方は、来社した人々についた悪霊を取り払い、そして悪霊にとりつかれにくくする。つまり、お祓いということだ。真白のいる神社は、お祓いの効果が薄い、いやもっと言うとお祓いの効果がゼロと言うことで来社する人が少なくなったわけだ。
通常ならば、真白は、魔力を失わない。でも昔、ここの神社で火事がおきて、その火事と共に魔力が灰になったらしい。で、その魔力回復には、木の精霊の加護をうけないと魔力は戻らなく、俺は、中国地方のどこかにいる木の精霊を探さなければならないのだ。
「あっ」
結構、大事なことを忘れていた(急に思い出したので声を出してしまった)。今から行く目的地についてだ。
俺は、俺の記憶力の悪さを、改めて知る。
えーと確か、真白の友達(神に友達がいるのか?)に会いに行けと言っていたな。理由は、確かそいつが木の精霊の居場所を知る手がかりになるはずと言っていたな。
俺は、鞄をおろし周りを今どの辺にいるのか辺りを見回した。そこには、見慣れない住宅街が、あった。
空は、昼下がりごろなのに赤く。太陽は、紫色で不気味にきらめく。どこからか、聞こえてくる赤ん坊の泣き声。
俺は、この情報だけで異世界にいることをなんとなく悟り、恐怖も感じた。まるで、死の縁際にいるような。
「あなたも仲間なんでしょ」
仲間?意味がわからない上に、しゃべってる奴がどこにいるのか分からない。
「ん!!」
俺は、前から飛んでくる何かを反射的に避けた。飛んできたものは、風を切りながら、コンクリート地面に突き刺さる。
「人間とは思えない反射神経だわ。おめでとう。合格だわ」
髪が黒く、長い女性が前から拍手を交えながらゆっくり歩いてくる。またしても、意味がわからない。
「なんだよ。お前、誰なんだよ」
その女性は、気品な笑みをうかべる。
「女性に向かって、お前はないでしょう。もっと言うべき言葉を選ぶべきよ」
第一声がそれだった(いや、第二声か)。
「なんだよ。コロコロ性格を変えて。お前、誰なんだよ」
俺の質問に答えず、笑顔で問いかけられる。
「問一」
なんだいきなり、「問一」とか言い出して、我を貫くってか。こんなことは、口が悪い俺でも決して言わない。
「私があなたを襲った理由を答えろ」 攻撃を止めて、こんなことを聞いてくるから敵ではないと思うが、真面目に答えるのもしんどいので適当に答えておくか。
「うーん、わからない」
黒髪の女性は、不満そうだ。
「本当に真面目に考えているの?」
「あぁ、真面目に考えているさ(嘘)」
何か思い付いたのか、ピンッと人差し指を立てて
「じゃあ、ヒント。坂上くんがここに来るまでに会った人を考えてみて」
俺がいままでに会った人?誰だ、誰のことだ?
「うーん、その様子じゃわからないようね。じゃあ、もうひとつヒントを」
そう言い、彼女は黒髪を揺らす。
「神社。これがヒント」
神社、神社......。真白?このひとつのワードで思い出す。まるで、なにかが頭の中で生まれたかのように。
そうこいつは、
「私は美和、真白の友人」
黒髪は、いや美和か。美和は美しく、気品に充ちている笑みを浮かべてくれた。
「やっと、分かってくれたようね。あなたの反射神経は、認めますが、頭の方は真白から聞いた通り空っぽのようね」
真白が頭のほうは空っぽといったのか。あんなに敬語を使っておきながら。
「さてと、次の目的地を説明する前に私の霊力について説明するわ」
「霊力?」
真白から何も聞いていないな。そう思ったのを美和は勘づいたのか。
「真白から何も聞いていないの?」
「おう、何も聞いていないが」
美和は、呆れた顔をしながら霊力について説明を初めてくれた(させられたのほうが正しいか)。
「えーと。まず、幽霊についてからね。もちろん幽霊は知っているよね」
問いかけられるが、俺は答えるのが面倒なので相づちだけをうった。
「その様子じゃ分かってるようね。で、それが、人間の体の中にあって思考をすることができるんだよね」
「なるほどな。つまり、霊力が中身で今使っている体が服みたいなもんということだな」
美和は、霊力について俺が理解したことに対して嬉しかったのか、「ご名答」と指をたてる。
「それを使うことで武器にできるわけ」
「それじゃ、長時間使かえば最強になるんじゃないのか?」
美和は、少し残念がるようにため息をつく。
「そんなに世の中甘くないのよ。霊力っていうのは、坂上くんが
いった通り、体の中身なんだよ。
つまり、精神を使うわけだから、長時間使えば当然疲れてきて、めまいなどの症状も引き起こして精神面が脆くなるのよ。そして、最悪の場合死に至るのよ。だから、使ったあとは、休憩が必要になってくるわけ」
なるほど、これは面白い。
「その霊力は、どうやって使うんだ?」
早く使いたいと思ったから、ついつい子供っぽい素振りで聞いてしまった。
「うーん。それなんだけどね」
美和は、言いにくそうな顔をしてから少しずつ話をしてくれた。
「私が、真白から聞いた話は、霊力の儀式をしたと聞いたけど、霊力が目覚めてないということは、真白の霊力が相当弱っていることか」
「そんなこと言われても、意味わかんねーよ。俺に分かるように説明してくれ」
美和は、少し考える素振りを見せてから
「分かりやすく言いますと、坂上くんの霊力が弱くなっているから、坂上くんの霊力が完全に目覚めていないんだよ」
「まじか、俺は霊力を一生出せないのか」
美和は、それを否定するかのように、言葉を発した。
「いいえ、違うわ。私は完全に目覚めてないだけといったでしょ。だから、霊力は時間と共に戻るから安心して」
「つまり、時間と共に回復するんだな」
これだけのことに、またしても美和は、言いにくそうな顔をした。本当に、美和は不思議なところが多いな。
「そうなんだけど。それが生きている内に霊力が開くとも限らないのよ。仮に、私が霊力を解放してやることもできないのよ」
「なんでなんだ?」
「私たちが、使っている霊力にも宗派があって、陽波と、陰波とそれ以外で成り立っているの。基本的に、自分の属している宗派は、相性が悪くて、特に霊力の儀式を自分の属している宗派をしちゃうと精神崩壊に繋がっちゃうから絶対できないのよ」
「ちなみに、美和と真白の宗派は何に当てはまるんだ?」
美和は、胸に手を当て
「私は、陽波で、真白は、無いわ」
「無い?」
美和は、笑みを浮かべているが、その瞳の奥は、悲しく、泣いているようにも見えた。
「そう、あの子は、無」
無?美和どういうことだ。どう考えても分からない。
そして、美和は俺の心を読んだかのように
「そんな顔しなくてもいいの。今は、わからなくてもいいのよ。時期が来ればわかるから.......」
美和は、言葉に余韻を残した。