第五話
召喚されてから、3週間がたった。
今僕はさんさんと空を照らす太陽のもと、ぜいぜい肩で息をしながら、王宮のだだっぴろい騎士訓練所を走っている。
僕が、こんなことをしているのにはもちろん訳がある。別に急にスポーツに目覚めたわけでは断じてない。
これは、戦闘訓練の一環として体力をつけているのだ。
つい先日まで普通の高校生だった僕達は、いくら高魔力保持者(僕除く)とは言え、訓練もなしにいきなり魔法、ましてや魔人族との戦闘なんて無理な話だ。
そこで有難いことにカレラ王国が、気を効かせて魔法の訓練、さらには戦闘の訓練を僕達にしてくれることになった。
正確には僕は勇者じゃないのだが、この世界で何かあってもいいようにと僕も訓練に参加することになった。
ここまではまだ良かったのだが、いざ実際に訓練するにあたって魔力の無い僕は、戦闘の基本中の基本である身体強化の魔法を使うことが出来なかった。
もちろん他の三人は、この世界では規格外の魔力と魔法適性を持っている為に訓練初日から身体強化の魔法を使うことが出来た。この時点で僕は、彼らのお荷物になってしまい、戦闘訓練をしてくれる騎士団長のノイマンさんのとりあえず走っとくかのひと言で僕は、まずは体力を作るため走り込みをすることになった。
あの時のクラスメイト三人の気まずそうな顔は、僕の新しいトラウマになりそうだ。
「一回休憩していいぞー!」
「……はぁはぁ。」
ノイマンさんから休憩の合図をもらい僕は、訓練場のベンチにへたり込んだ。
汗でへばりついた前髪をかきあげ用意してあった飲み物の入った水筒に口をつける。
爽やか柑橘系の味が口一杯に広がり乾いた喉を潤してくれる。
「うむ。ヒカルも大分体力が着いてきたな。いやーやっぱり若いと違うな!」
いつの間にか近づいてきたノイマンさんは、いかつい顔を綻ばせながら、満足そうに僕に話しかけた。
「ええ、まぁ。あれだけ走らされれば嫌でも体力つきます。」
なにせここ二週間は、毎日朝から晩まで走り込みをさせられもう訓練場を何周走ったか数えるのも嫌になったくらいだ。
ここ4、5日こそ自力で歩いて部屋まで帰っているがそれまでは、ノイマンさんや橘に肩を貸して貰わないと歩けないような状態だったのだ。
ちなみに橘達は、訓練開始から二週間ぐらいで魔法、戦闘技能共に王宮騎士を上回るほどに成長し今は、午前は訓練場でノイマンさん達騎士と本格的な戦闘訓練をし午後からは、実戦として冒険者ギルドの簡単な魔物討伐クエストを行っている。
この分だとあともう二週間もすれば、実際に戦場に出ることになりそうだとノイマンさんは、言っていた。
さすが、勇者は違うな。
「ヒカルもそろそろ魔法は無理だが、剣の使い方くらい覚えるか。せめて、王都周辺の魔物ぐらいからは、身を守れるようにならないとな!」
「そうですね。是非お願いします。」
僕の返事にノイマンさんは、満足そうに頷いた。
「よし。そうと決まれば、武器を用意しないとな。姫様からは、それなりの物を用意するように言われているから期待してるといいぞ!まぁ、最初のうちは木剣で素振りでもしよう。」
ノイマンさんと今後の訓練計画を話しいるとちょうど昼御飯の時間になったので、王宮の食堂に向かうことにした。
「おーい!勇達もそろそろ切り上げて昼食に行くぞー!」
ノイマンさんは、大きな声で訓練場の真ん中で模擬戦をしていた橘達に声をかけた。
派手に魔法やら斬撃やらをぶっ放していた橘達は、こちらの声に気づいて動きをとめた。
「「「はーい」」」
「分かりましたー!今行きますー!」
三人は、返事をし各々手にした武器をしまいこちらに向かって歩いてきた。
彼らの模擬戦の戦闘の後を見ると地面に大きな穴が空いていたり、地割れが起きていたりと悲惨な状況になってしまっていた。
そう言えば、僕が前に勇者だった時の仲間の魔術師が、魔法を使うとあんな感じになっていたなと懐かしく思った。
あまりの威力に初めて見た時は、腰を抜かしてしまったくらいだ。
しかし一回、仲間の一人に高位の魔力保持者は、人間辞めてるんじゃないかと冗談めかして言ったら、聖剣を扱って闘う僕の方がよっぽど化け物だと本気で返されてしまった。
彼らからしたら、聖剣を扱えることの方が凄いことらしい。
隣の芝は、青く見えるというが、僕は、なんとなく釈然としない感じをその時受けたのを思い出した。
「お疲れ!凄い汗だねー」
昔のことを思い出していると、いつの間にか隣に結城がきていて話しかけてきた。
「そっちこそお疲れ。なんか最近ますます結城達は、人間離れしてるな。」
「な、失礼だな八神君は。私達は、れっきとした人間だよ!ね、そうだよね?」
学校では、あまり接点がなかったが、僕はあの夜以来結城と少し仲良くなり冗談を言えるくらいには、なっていた。
「八神君、女の子にそういうこと言うのポイント低いよ?」
「でも、ま、確かにちょっと梓やリサの魔法を見ちゃうとそう思うのも無理はないなー」
そんな僕達を見て、橘と神城も軽い感じで会話に入ってきた。
「いや、それを言ったら橘もそうなんだけど……」
「え、俺もかよ⁈まじか、なんか同じ世界の人に言われると結構凹むなー」
橘が冗談めかして肩を落とし、結城は、市民権得たとばかりにうんうん頷いた。
「だよね。八神君ひどい。今後変なこと言ったら、私の魔法の実験台に付き合って貰うからね!」
そう言って結城は、笑いながら僕の背中をぱしんと叩いた。
……えっ。何それ怖い。