第一話
この世界の名前は、マクシアという。
大きく分けると人族、魔族、亜人族、妖精族が存在している。
個体差があるが、戦闘能力に限って言えば、優秀なのは魔族に多く人族は、この4大種族の中で一番人口が、多いが戦闘能力としては低い。
今現在この世界では、人族と魔族による争いが起こっている。
正確には、人族と魔族の一部である魔人族と呼ばれる種族との争いだ。この魔人族という種族は、選民意識が強く排他的で、また強力な能力を持った種族であるらしい。
昔から人族と魔人族は、小競り合いのようなことを続けていたらしいが、人族の数が魔人族に対し圧倒的に多いこともあり、魔人族も正面切って人族の領土に対し戦闘をしかけてこなかった。
しかし、ここ3年程前に魔人族側に絶大な力を持つ先導者が現れてから、状況は一変した。
その先導者は、自らを魔王と名乗りその絶大な力でもって人族に対し大規模な宣戦布告を行った。
当初は、事態を軽く見ていた人族側の国々だったが、魔人族側は、魔王の力を背景に次々と前々から人族に不満を持っていた魔族の種族を纏めあげ、強大な軍隊を作りあげついに一年前に人族の国をひとつ落としたことで人族側は、重い腰を上げ連合を立ち上げるに至った。
魔王対策として連合国側のひとつの国に伝わる勇者召喚の儀式を用いて事態の打開を図ることにした。
約一年間の準備期間がかかったが、連合国側全ての国で勇者召喚の手筈が整い連合国側のひとつであるカレラ王国も予定通り勇者召喚を行ったというのが今回の経緯だ。
既に勇者召喚を成功させている国もあり今のところ召喚された勇者達は、皆協力的でかつ凄まじい力を持っているという。
余談だが言語の問題は、召喚魔法の恩恵のひとつである、意思疎通効果により解決されている。
今回の召喚の経緯は、まとめるとこんな感じらしい。
この話は、会議用のテーブルを挟んで今僕の目の前にいるこの国の姫であるエル様、そして近衛騎士隊長が語ってくれた。
二人共真剣な眼差しで嘘をついているようには見えない。
二人のこちらを探るような目線に居心地が悪くなり、僕はちらりと同席している横のクラスメイトの反応を見た。
隣には、今回一緒に召喚された同じクラスの橘勇、結城茜、神城リサが座っていて三人共真剣な表情でエル様達を見つめている。
橘勇がエル様達の視線に応えるように口を開いた。
「つまり僕達は、簡単にまとめると勇者として召喚され貴方方を助ける為に魔人族と闘うことを期待されているんですね?」
「ええ、そうです。勝手なことを申し上げているのは、承知していますが、私たちもそれ程に必死なのです。どうかお願い致します。」
エル様が頭を下げると隣に座っている騎士隊長も頭を下げ、さらに後ろに控えている近衛兵達も一斉に頭を下げた。
橘は、慌てた様子で頭を下げたエル達に声をかけた。
「じ、事情は分かりましたから頭を上げてください。俺いや僕達も出来る限り協力をします。な?みんないいだろ?」
「そうだね。正直いきなり勇者だとか言われてよく分からないけど、このまま何もしないのなんかもやもやするし。」
「しょうがないなぁ、勇は。いつもそうなんだから。でも私も勇がやるなら協力するよ一緒に頑張ろ!」
橘が、勝手に協力する旨を伝えると他二人も賛同する。
そう言えばこいつらは、クラスでもいつも一緒にいる仲のいいグループだった。
橘は、クラスでも人望のあるイケメンで、結城と神城も学年で一二を争う美少女だ。
俺は、友達がいないわけではないが、クラスの中で地味な方なので今回召喚された中では、なんか浮いてしまっている。
橘の主人公補正が眩しい。
「えっと?八神だっけ?八神もとりあえず協力するってことでいいだろ?」
橘は、爽やかな笑顔を浮かべながら僕にも同意を求めてきた。
橘の後ろでは、神城と結城が何を考えているか分からない目で僕をじっと見ている。
さらに目の前には、瞳を潤ませながら、エル様が僕の反応を待っていた。
「い、いいんじゃないかな?」
僕は、苦笑いをしながら返事をした。
……同調圧力って怖い。