揺れる母性。
母としての実感は自ずと心に付きまとい、私を苦しめる。
この子が無事に生まれたら私の役目が終わる。
そして親戚としての付き合いになるだろう。
居た堪れなくて、歯がゆくて。
日に日膨らむ自分のお腹を優しく撫でる。
しかし、どんな気持ちで撫でれば良いか。
戸惑うばかりだ。
我が子だけれど、我が子ではない。
曖昧な命が私の中で育っている。
「だいぶお腹目立つ様になったわね」
不意に姉がお腹に触れた。
「うん……。 順調に育ってるよ」
姉はどんな気持ちで私のお腹に触れているのか。
嫌ではない? 嫌な筈はないか。自ら望んだ子供だもの。
この子は姉の子供。そう思う気持ちで自分を支えてきた。芽生えてしまう母性を押し込めて。
「今度の検診いつ? エコー写真をあちらのご両親に渡さなければならないのよ」
「一週間後かな? 貰ったら渡すね」
辻褄合わせも大変だ。
表向きは姉が出産する事になっているので、色々と私に質問したりする。
エコー写真も全て姉が管理していて、私の手元には一枚もない。
まあその方がいいが。
「早く生まれてこないかな。 楽しみね」
何気ない言葉さえ複雑な心境になってしまう。
やはり妊婦特有の物なのだろう。
「焦らなくてもきちんと出てくるよ」
一言だけそう言った。それ以上の言葉は何故か言いたくない。
「少し休むね」
リビングに姉を残し、自室へと向かった。
息が詰まる思いがする。
姉夫婦の為にと覚悟を決めたけれど、まさかここまで行き詰まる生活になろうとは。
けれど歩み始めてしまったのだから、今更後戻りはできない。
ベッドに横になり、なるべく気持ちを落ち着かせた。