表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母の定義  作者: 七草せり
6/11

生まれる母性。

私の中に命が宿った。


自然妊娠ではもちろんないが、命が愛しいと思う。


母性と言うものだ。

私の中に宿る命を大切だと思うのは当然の心理であろうが、余りそういう感情を持つと、後で引けなくなってしまう。


努めて義務と思う事にした。


姉の別宅で、姉と数人のお手伝いさんと生活が始まり、少し息苦しい。


まだお腹も目立つ訳ではないので、ちょこちょこ家に帰り、子供達と会う。


まだ理解できない子供達は、私と生活できなく寂しいと泣く。

申し訳ないと思うが、許して欲しい。


我が子優先にするのが当然だが、実の姉の心情も大切にしたい。


家を後にする時は、とても複雑な気持ちになるが、進むしかない。



今住む家に帰るとお手伝いさんが夕食の準備をしていた。


悪阻はまだないが、食欲がない。


姉にそれを伝え、私は自家製のフルーツジュースを作った。


バナナとレモン、蜂蜜にミルク。


ジューサーにかけるだけの簡単ジュース。

私も子供達も大好きだ。


リビングのソファでそれを飲んだ。

姉は普通に食事をしている。


献立は、ブリ大根に味噌汁、ご飯とポテトサラダ。


案外質素?


しかし、無農薬野菜や新鮮な魚らしく、お値段を聞いて驚いた。


そりゃそうだよな。


食後は優雅にコーヒーらしい。


どこまでも違う世界にいる。



私はグラスをキッチンに持って行き、先に寝室へ向った。


姉と余り話したくない様な。そんな気がしたから。


それに、人様の命。何かあったら悪いし。


悶々としてしまうが、敢えて考えない。

命が宿るお腹に手をやると、込み上げる気持ちがあり、どうして良いか分からなくなる。


考えない。

しかし考えてしまう。


そういうのは母体に悪いから、やめておこう。


私はお風呂へ入り、早めにベットへ入った。




翌日、姉が寝室のドアをノックする音で目覚めた。



「おはよう。 気分はどう? 朝食済ましたら買い物行かない? マタニティ服買いに」


意気揚々に言った。


乗り気ではないが、退屈していたし買い物へ行く事にした。


朝食は食パンにハムエッグ、サラダと野菜ジュース。


少し食欲あるし、子供の為だし私は朝食をたいらげた。


食事の用意から、洗濯掃除。

全てお手伝いさんがやる。本当は私がやりたいのに……。


しかし、姉には逆らえない。


もしもがあったら大変だし。



朝食後、車でデパートへ行った。


もちろん運転手さん付きだ。


デパートのマタニティコーナーの特別室に通され、何点かの洋服が並べられた。


普通に店内を歩かないのか。


少しがっかりだが仕方ない。


まだまだマタニティ服は早いが、幾つか服を選んだ。


後靴も運ばれてきて選ぶ。



流石に少し歩きたい。



「ねえ、 ちょっとだけ歩いて店内見たいんだけど。 座りっぱなしは良くないし」


妊娠初期とはいえ、経産婦の私。

軽く歩くのは問題ない。


「大丈夫? じゃあちょっとね。 何見るの?」


「子供服。 あの子たちの見たくて」


「そう。 分かったわ」


少し違和感を感じたが、許可が出たので店内をウロウロした。


デパートなど滅多に行かない私。

子供服の値段を見て驚いた。


「こんなに高いの? 子供の服」


思わず声がでてしまった。


「いらっしゃいませ。 何かお探しですか?」


店員さんが話しかける。


愛想笑いでかわした。


買えるのないや……。


諦めて姉の元へ戻った。


「何かあった?」


「高過ぎて……」


「何処の店?」


姉に尋ねられ、さっきの店の名前を告げた。


ママさんに人気のブランド服。

高いと聞いていたが、ここまでとは。



「その店の服、 幾つか持って来て」


姉がお店の人にそう言った。


いや。そこまでは……。


言いかけそうになったが、すぐさま動かれてしまい、断るタイミングを逃した。



結局、お高いマタニティ服と子供服を購入し、出された紅茶を飲んで帰路についた。


気疲れしそうだ。

リフレッシュできない……。


いつもこんな感じなのかな。買い物って。


金持ちは分からない。


小さい頃。たまに出かけたデパートは楽しくてウキウキしたけど。

今は全然違う。


母に連れられ、姉と笑いながらデパートの中をはしゃぎ回った思い出は、本当にもうただの褪せた思い出になった。



家に付き、荷物をクロゼットにしまってもらう。

自分でやれるのに。


言葉を飲み込んだ。


名家とか、金持ちとかは、窮屈ではないのかな。自分でできる事さえもできなくて。


ただ言われるままに動くだけ。


自分で選んだのだから、諦めよう。


そう言い聞かせた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ