生まれる母性。
私の中に命が宿った。
自然妊娠ではもちろんないが、命が愛しいと思う。
母性と言うものだ。
私の中に宿る命を大切だと思うのは当然の心理であろうが、余りそういう感情を持つと、後で引けなくなってしまう。
努めて義務と思う事にした。
姉の別宅で、姉と数人のお手伝いさんと生活が始まり、少し息苦しい。
まだお腹も目立つ訳ではないので、ちょこちょこ家に帰り、子供達と会う。
まだ理解できない子供達は、私と生活できなく寂しいと泣く。
申し訳ないと思うが、許して欲しい。
我が子優先にするのが当然だが、実の姉の心情も大切にしたい。
家を後にする時は、とても複雑な気持ちになるが、進むしかない。
今住む家に帰るとお手伝いさんが夕食の準備をしていた。
悪阻はまだないが、食欲がない。
姉にそれを伝え、私は自家製のフルーツジュースを作った。
バナナとレモン、蜂蜜にミルク。
ジューサーにかけるだけの簡単ジュース。
私も子供達も大好きだ。
リビングのソファでそれを飲んだ。
姉は普通に食事をしている。
献立は、ブリ大根に味噌汁、ご飯とポテトサラダ。
案外質素?
しかし、無農薬野菜や新鮮な魚らしく、お値段を聞いて驚いた。
そりゃそうだよな。
食後は優雅にコーヒーらしい。
どこまでも違う世界にいる。
私はグラスをキッチンに持って行き、先に寝室へ向った。
姉と余り話したくない様な。そんな気がしたから。
それに、人様の命。何かあったら悪いし。
悶々としてしまうが、敢えて考えない。
命が宿るお腹に手をやると、込み上げる気持ちがあり、どうして良いか分からなくなる。
考えない。
しかし考えてしまう。
そういうのは母体に悪いから、やめておこう。
私はお風呂へ入り、早めにベットへ入った。
翌日、姉が寝室のドアをノックする音で目覚めた。
「おはよう。 気分はどう? 朝食済ましたら買い物行かない? マタニティ服買いに」
意気揚々に言った。
乗り気ではないが、退屈していたし買い物へ行く事にした。
朝食は食パンにハムエッグ、サラダと野菜ジュース。
少し食欲あるし、子供の為だし私は朝食をたいらげた。
食事の用意から、洗濯掃除。
全てお手伝いさんがやる。本当は私がやりたいのに……。
しかし、姉には逆らえない。
もしもがあったら大変だし。
朝食後、車でデパートへ行った。
もちろん運転手さん付きだ。
デパートのマタニティコーナーの特別室に通され、何点かの洋服が並べられた。
普通に店内を歩かないのか。
少しがっかりだが仕方ない。
まだまだマタニティ服は早いが、幾つか服を選んだ。
後靴も運ばれてきて選ぶ。
流石に少し歩きたい。
「ねえ、 ちょっとだけ歩いて店内見たいんだけど。 座りっぱなしは良くないし」
妊娠初期とはいえ、経産婦の私。
軽く歩くのは問題ない。
「大丈夫? じゃあちょっとね。 何見るの?」
「子供服。 あの子たちの見たくて」
「そう。 分かったわ」
少し違和感を感じたが、許可が出たので店内をウロウロした。
デパートなど滅多に行かない私。
子供服の値段を見て驚いた。
「こんなに高いの? 子供の服」
思わず声がでてしまった。
「いらっしゃいませ。 何かお探しですか?」
店員さんが話しかける。
愛想笑いでかわした。
買えるのないや……。
諦めて姉の元へ戻った。
「何かあった?」
「高過ぎて……」
「何処の店?」
姉に尋ねられ、さっきの店の名前を告げた。
ママさんに人気のブランド服。
高いと聞いていたが、ここまでとは。
「その店の服、 幾つか持って来て」
姉がお店の人にそう言った。
いや。そこまでは……。
言いかけそうになったが、すぐさま動かれてしまい、断るタイミングを逃した。
結局、お高いマタニティ服と子供服を購入し、出された紅茶を飲んで帰路についた。
気疲れしそうだ。
リフレッシュできない……。
いつもこんな感じなのかな。買い物って。
金持ちは分からない。
小さい頃。たまに出かけたデパートは楽しくてウキウキしたけど。
今は全然違う。
母に連れられ、姉と笑いながらデパートの中をはしゃぎ回った思い出は、本当にもうただの褪せた思い出になった。
家に付き、荷物をクロゼットにしまってもらう。
自分でやれるのに。
言葉を飲み込んだ。
名家とか、金持ちとかは、窮屈ではないのかな。自分でできる事さえもできなくて。
ただ言われるままに動くだけ。
自分で選んだのだから、諦めよう。
そう言い聞かせた。