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宝石戦争(旧版・更新停止)  作者: 東条カオル
第三章 敵艦、見ユ
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第十話 空中戦艦を撃て(2)

 激しい衝撃波が機体を襲い、バランスを崩す。レオンハルトは何とか立て直したものの、何が起こったのかは分からないままだった。


 無人機を片付け、空中戦艦への攻撃にかかろうとしたちょうどその時、空中戦艦の上部甲板が開いて異様な大きさの砲が姿を現した。危険を感じたレオンハルトが緊急退避を命じた直後、凄まじい光と共に衝撃波が彼らを襲ったのである。


「皆、大丈夫か?」

『な、何とか。今のは一体――』

『こちら、エルロイ! フリゲートがいきなり粉々に爆散した! そちらで何か起こったのか!』


 突然、管制官からの通信が割り込んでくる。引きつった声のトーンもそうだが、フリゲートが粉々に爆散した、という衝撃的な内容にレオンハルトは思わず絶句した。小型艦と言われるフリゲートだが、それでもその大きさは大戦期の駆逐艦を超えている。

 それが粉々になったというのは尋常な事態ではない。


「な……」

『こ、こちら、アイギス2! 今の攻撃は敵の新兵器と思われます! とてもすごい光と衝撃波が発生しました!』


 レオンハルトに代わってカエデが直前の出来事を報告すると、にわかに管制官の背後が騒がしくなった。おそらく戦術コンピュータが送信したデータを確認しているのだろう。管制官からは、とにかく空中戦艦の撃沈を最優先とするように命令が下る。ようやく絶句状態から復帰したレオンハルトがこれに応え、通信が終了した。


「参ったな……。あの衝撃波に近づくのは難しいぞ」

『あんな兵器、そう何発もバカスカ撃てるってことは無いだろ?』


 確かにジグムントの言う通り、あれほどの兵器は続けて使用できるものではないだろう。冷却の必要もあるだろうし、砲弾の装填にも時間がかかりそうだ。とはいえ、放置しておく訳にもいかない。


「あの砲は上部甲板にある。衝撃波があの高さより下に来ることはないだろう。下から攻撃を仕掛けるぞ」

了解(ウィルコ)!』


 六機のF-18J(イーグル)は、レオンハルトの赤いF-18Jを先頭として高度を下げ、空中戦艦の艦底を見上げるように接近していく。すると、空中戦艦から多数の砲塔が迫り出し、彼らに向かって激しい砲火を浴びせ始めた。レオンハルトたちはジグザグに複雑な機動を描きながら、これを躱していく。


「全機、そのまま後ろに回り込むぞ!」


 六人は激しい弾雨をかいくぐり、何とか空中戦艦の後ろ側へと回り込む。巨大な船体によって生み出された気流の乱れが彼らを襲い、機体が安定しなくなった。

 レオンハルトはその中でも何とか機体を操り、上部甲板へとたどり着く。そして、まさに巨大な砲への攻撃に移ろうとした瞬間、艦底と同じような砲台が迫り出して弾幕を張った。


「厄介な……!」


 高度を上げて対空砲火を回避するが、なかなかの速度で巡航する空中戦艦から引き離されてしまう。あの対空砲台を何とかしなければ、本命の攻撃に取りかかることはできないだろう。

 他の五人が空中戦艦に食らいつくので精一杯な中、レオンハルトは上部甲板スレスレの高度に機体を合わせ、対空砲台へ向かって突入していった。対空砲火をギリギリで回避しながら、ロックオンすることなくミサイルを発射。機銃掃射をしつつ、機首を引き上げる。

 激しい爆風に煽られ、レオンハルトのF-18Jが空高く舞い上がった。機体は爆風や対空砲火によって傷ついているが、飛行自体に支障はない。


 空中戦艦は左舷側に配置されていた対空砲群を失い、激しく炎上している。その一方で、巨大な砲自体は頑丈に作られているのか、激しい爆発が起きたにも関わらず何の影響もないようであった。

 レオンハルトが舌打ちして再度攻撃にかかろうとしたその時、異変が起きた。巨大な砲の砲身が下がると同時にレーダーが突然回復したのである。何の前触れもなく回復したレーダーはともかく、砲身が下がった、ということにレオンハルトの背筋が凍った。


「――いかん! 高度を下げろ!」


 レオンハルトが叫び、カエデたちは反射的に機体をロールさせ、急降下する。彼らが空中戦艦よりも高度を下げた次の瞬間、凄まじい光と衝撃波が再び発生した。


『こちら、エルロイ! 二度目の砲撃を確認した! アイギス1、無事なのか!』


 ノイズ混じりの通信が聞こえる。レオンハルトはこれに応えようとするが、通信が繋がらない。砲撃の直前から一時的に回復していたレーダーも、再び使用不能な状態になっていた。


「攻撃の瞬間は電子妨害が解除されるのか……?」


 管制との通信が繋がらないコックピットで一人つぶやく。と、そこへカエデの期待が近づいてきた。ごく近距離ならば通信も繋がるため、レオンハルトは通信回線を開く。


『隊長、今レーダーが……』

「ああ。あの砲が攻撃する瞬間、電子妨害はできないのだろうな。……突破口を見つけたぞ」


 レオンハルトが小さくつぶやく。通信越しに聞いているだけのカエデには分からないが、彼の口元は不敵な笑みで歪んでいた。


『隊長?』

「とりあえず、周りの対空砲を一つずつ片付けていくぞ。――ああ、ミサイルは大事に取っておけ」

『それはどういう……?』


 不思議そうに尋ねるカエデに答えることなく、レオンハルトは空中戦艦へと向かっていく。攻略の手段を見つけたレオンハルトであるが、一方で空中戦艦も着実に連合艦隊へと迫っていたのである。




 激しい爆発と共に海が裂け、艦が大きく傾く。オペレータが椅子から転がり落ち、参謀たちは必死に体を支えている。敵艦隊との砲戦に挑んでいたHIMS大和の戦闘指揮所(CIC)は突然の出来事に騒然となっていた。

 先ほどフリゲートが消滅した時と全く同じ攻撃が、大和の右舷すぐそばに着弾したのである。


「被害報告!」

『機関部、異常ありませんが負傷者多数!』

「電子戦システムに異常発生! 電子妨害できません!」


 各所からの被害報告が届くが、その中に混じって、電子戦システムに異常が発生したという深刻な事態が明らかになる。これが使用できなければ、連合艦隊は敵のミサイル攻撃を一方的に受けかねない。


「復旧急げ! 射撃指揮システム(FCS)に異常は…… ないな? とにかく砲撃を続けて敵を近づけさせるな!」


 大和の艦長であるナガオ大佐が叫ぶ。その命令に応じて、大和の主砲は狙いを定めない、敵への飽和砲撃を開始した。僚艦もこれに続き、期せずして連合艦隊は猛烈な攻撃へと移ることとなる。


 船足を速め、敵艦隊へと迫る自艦隊の姿を戦域情報システム(WAIS)の戦域図越しに見つめるナガオ大佐が接近するミサイルの迎撃指揮などで忙しなく命令を出し続ける一方、この場の最上級者にあたる連合艦隊司令長官のヒサカタ大将は黙って腕を組んだままだ。

 オペレータたちはその異様な雰囲気に飲まれつつも、目まぐるしく変わっていく戦況に手一杯であった。


「ミサイル第一波迎撃成功! 続けて第二波、来ます!」

「引き続き迎撃を。指揮権を三島少佐に委任する」


 断続的なミサイルの迎撃を砲雷長に任せ、艦長自身は砲撃戦の指揮にかかりきりとなる。

 連合艦隊とレウスカ海軍の太平洋艦隊は、三十度の角度で激突するようなコースで、どちらも接近している。連合艦隊からの砲撃がしばしば至近弾を出す一方で、太平洋艦隊は全く狙いをつけることができないでいる。

 しかしレウスカ海軍は、大和の電子妨害が不調を来したことでミサイルの積極的な利用が可能になっており、大和の電子妨害に心理的に依存していた連合艦隊の将兵は、慣れない対ミサイル迎撃戦闘に手間取っていた。


『こちら卯月! 左舷に被弾!』


 ミサイルを捌ききれず、被弾したフリゲートも出てくる。速力が落ち、敵の攻撃が集中し始めた。さらに艦隊の将兵を驚かせる事態が発生する。


『前方より巨大な飛行体が接近! あれは―― く、空中戦艦です!』


 空母に無理矢理に翼をくっつけたというような姿の空中戦艦が、巨大な砲を背負って接近してくる。遂に空中戦艦は、連合艦隊をその視界に収めたのである。




『連合艦隊が見えてきたぞ!』

「諦めずに攻撃を続けるぞ」


 アイギス隊は空中戦艦への攻撃に四苦八苦していた。すでに空中戦艦は、その対地砲台が連合艦隊を射程圏に収め、爆撃を開始している。上部甲板のあの巨大な砲こそ二度目の砲撃以来、沈黙を保っているものの、それ以外の小さな砲台は数も多く、なかなか排除しきれずにいた。


『――アイギス1、聞こえるか?』


 空中戦艦から少し離れたタイミングで、管制官から少しノイズの混じった通信が入った。


『下は海軍に任せろ。君たちは上部甲板の排除に専念してくれ』


 通信と同時にデータリンクが行われ、WAISの情報が更新される。後ろから海軍の艦載機が接近していた。


『こちら、バイパー011。アイギス1、さっきは世話になったな。今度はこっちが助ける番だ!』


 空母ヴィエルコレウスカへの攻撃で一緒になった海軍のパイロットだ。その部下であろう、十数機のFA-3()が空中戦艦下部の砲台に対する攻撃に入った。


『空を飛んではいるが、船は船だ。対艦攻撃なら隼のお家芸だからな』

「すまん。そちらは任せた」

『任せてくれ。その代わり、あの馬鹿でかい大砲はお前たちに頼んだぞ!』


 通信を終えると、レオンハルトはその場を海軍機に任せ、自身は再び僚機を引き連れて空中戦艦の後方から巨大な砲へと迫る。まばらではあるが、対空砲台からの攻撃は続いていた。

 レーダーが乱れる。電子妨害は未だ続いているようだ。レオンハルトは通信が繋がっている間に指示を出し、巨大な砲への攻撃に取りかかった。レオンハルトは空中戦艦からの激しい対空攻撃を巧みに回避しつつ、巨大な砲へ機銃弾を叩き込んでいくが、頑丈な作りの砲はびくともしない。


 眼下に見える海上では、連合艦隊が空中戦艦からの砲撃やミサイルに苦しめられている。直撃弾を受けたフリゲートが炎上し、さらに周囲の敵艦から攻撃が集中する。空母からは断続的に艦載機が飛び出し、敵艦隊への攻撃に移っているが、大和の電子支援が途絶えている状況下では有効な攻撃を行うことができていない。

 その上、さらにこの上部甲板の巨大な砲が火を噴くようなことがあれば、連合艦隊は危機に陥るだろう。


 だが、レオンハルトはそのタイミングをこそ待っていたのである。


 電子妨害が解除され、砲が仰角を下げる。射撃準備に入ったのだ。レオンハルトはすかさずスロットルを全開にして砲の前面へと回り込み、砲口を真正面に捉える。

 ロックオンし、ミサイルを発射。猛烈な勢いで接近する砲口をギリギリで躱し、スロットル全開のままで後方へと逃れた。


「全機、退避しろ!」


 レオンハルトが叫んだ直後、レオンハルトの放ったミサイルが砲口へと飛び込み、射撃寸前の巨大な砲の中で炸裂した。爆風は砲身の中で荒れ狂い、発射寸前だった砲弾をも巻き込んで大爆発を起こす。崩れた砲身は右舷側に倒れ込み、空中戦艦の右翼を見事に打ち砕いた。

 空中戦艦はその衝撃に対応するためか、針路を直角に変更して連合艦隊から遠ざかっていく。


『アイギス1、やったのか……?』

『こちら、大和! 敵空中戦艦の砲台破壊を確認した!』

『今だ! 畳み掛けろ!』


 味方の通信が交錯し、混乱していることが伝わってくる。レオンハルトは何とか退避したカエデたちと合流した。


『隊長!』

「黙っていて悪かったな。だが、あそこしかチャンスがないと思ったんだ」

『驚いたぜ……』


 アイギス隊はそのまま空中戦艦を後方から追尾する。右翼の半分以上を失った空中戦艦は、高度を徐々に下げながらも飛行を続け、下部の砲台は対艦攻撃を続けていた。


『まだ飛べるのか?』

『アイギス1、電子妨害の状況はどうだ?』

「レーダーに異常なし。電子妨害は解除されているようだ」

『よし。今、偵察機が向かっている。空中戦艦の情報を解析するから、それまではとにかく砲台を潰してくれ』


 管制官から指示が出る。空中戦艦との戦いも大詰めだ。海上の戦いは、すでに連合艦隊優位へと変わりつつある。

 と、そこへ空中戦艦が大きな動きに出た。連合艦隊へと向かっていた南東への針路を逸れ、北東方向へと飛んでいた空中戦艦が、突然その体勢を大きく右へ傾けたのである。空中戦艦の高度は下がり続けており、このままでは連合艦隊とレウスカ海軍が戦いを繰り広げる海上へと突入しかねないコースだ。


 突入――。その二文字が浮かんだ瞬間、レオンハルトは通信回線を開いて叫んだ。


「空中戦艦は海面に突っ込むつもりだぞ! カミカゼアタックだ!」


 レオンハルトの言葉通り、空中戦艦は連合艦隊をその真正面に捉えると旋回を止め、その高度をどんどん下げていったのである。

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