冤罪一回につき金貨三億。断罪された保険査定令嬢は、涙を国家予算に換えて差し上げます。
「アリス・フォン・ロジカ! 貴様のような、妹のクレアをいじめる陰険な女との婚約は、今この瞬間をもって破棄とする!」
王立学院の卒業パーティー。煌びやかなシャンデリアの下、第一王子のエドワードが声を張り上げた。その傍らには、勝ち誇った笑みを浮かべて震えるフリをする義妹、クレアの姿がある。
周囲の貴族たちは、私を憐れむというよりは、厄介払いが済んだと言わんばかりの冷笑を浮かべていた。
だが、私は動じない。無表情のまま、懐から一冊の分厚い手帳──『精霊保険契約・特約条項集』を取り出した。
「左様でございますか。殿下、そのお言葉……『不当な契約破棄』および『根拠なき名誉毀損』として受理いたしました」
「ふん、何をぶつぶつと! 貴様に払う慰謝料など一銭もないと思え!」
「いえ、殿下。お支払いは……精霊様が代行されますので」
私が指をパチンと鳴らす。
その瞬間、エドワード殿下とクレアの頭上に、巨大な【※注釈】が強制表示された。
【事案番号:2026-0322】
【事象:被保険者アリスへの不当な断罪】
【損害査定:精神的苦痛(特大)、社会的信用の毀損、婚約維持費の横領】
【算定額:金貨三億枚(国家予算の年間分相当)】
「な、なんだこれは……!? この文字は消えんぞ!」
「殿下、お忘れですか? 我がロジカ家が王家に嫁ぐ際、精霊王と交わした『守護契約』には、私が不利益を被った際の【損害補償特約】が自動付帯されているのです」
ジャラジャラジャラ……!
突如、虚空から滝のような金貨が溢れ出し、私の足元に山を築いていく。
逆に、エドワード殿下が身につけていた国宝級の魔道具や、クレアの豪華なドレスの宝石が、次々と光の粒子となって消えていった。
「あ、ああっ! 俺の首飾りが!」
「ドレスがボロ布に……!」
「当然です。支払い能力のない加害者の資産は、精霊によって即座に差し押さえられます。これでもまだ、足りないようですが……」
私は、青ざめる王太子の目の前に手帳を突きつけた。
「殿下、今の罵倒一回につき、さらに金貨一千万枚の追加請求が発生しました。……次は、王宮の敷地を更地にして回収しましょうか?」
「ま、待て! 謝る! 謝るからその『注釈』を消してくれ!」
「お断りします。私は保険査定人ですので、事実を曲げることはできませんわ」
私は積み上がった金貨の山を優雅に眺めて、ソロバンを弾く。
「さて……次は『慰謝料を渋った際の遅延損害金』の計算に入りますね。……ふふ、愛より金、とはよく言ったものですわ」
泣き叫ぶ二人を背に、私は新たな「集金」のプロットを書き留めるため、静かにペンを走らせた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
「愛より金」を信条とするアリスの、徹底した損害査定はいかがでしたでしょうか。
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次の「事案」でお会いしましょう!




