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婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く  作者:


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7 イーラスの買い物

 老齢の執事に叩き起こされたイーラスは寝ぐせがついたボサボサの赤茶の髪をかきながら庭に出た。

 そのまま早足で目的地へ向かうと、そこにいたのは……


「えっと……これは、どういうことかな」

「あ、おはようございます」


 ホウキと雑巾を手にしたティリア。

 その表情は昨日より少しだけ明るく見える……が、今はそれよりも場所が問題だった。


 ここは屋敷の庭にある動物小屋。

 犬や鷲、蛇やカエルなど様々な生き物を飼育している。


 その小屋の掃除をティリアがしているという報告が朝一に執事から入ったイーラスは髪をかき上げながら訊ねた。


「それは使用人の仕事のはずなんだけど」

「私の実家の領地にも家畜がいまして。動物の世話には慣れています」


 たしかに報告では使用人より手つきがよく、動物たちの扱いに慣れていたため強く止められなかったという。


「でも、ここの動物たちは初対面の人には警戒心が強いんだけどねぇ」


 そう言いながらイーラスは小屋の中へ視線を向けた。

 だが、ティリアは無表情のまま不思議そうに白銀の髪を揺らしながら話す。


「そのようなことはありませんけど。あ、でも最初に犬たちが跳びかかってきた時は驚きました」


 その発言にイーラスが慌ててティリアの全身を見る。


「もしかして、犬たちの自由時間だった!? 怪我はないかい!? 昨日のうちに説明しておけばよかった」


 焦るイーラスに対してティリアが平然と頭を横に振った。


「いえ、私に怪我はありません。一緒に遊びたかっただけみたいでしたので」

「わふっ! わふっ!」


 その通りと言わんばかりに嬉しそうにティリアの足下で跳ねながら可愛らしく吠える大型犬たち。


 番犬である犬たちは体が大きく目つきも鋭いため一見するとかなり威圧的で怖い。

 だが、今はそんな気配は微塵もなく尻尾を振ってティリアの足下をウロウロしており、隙あらば体を擦りつけて明らかに懐いている……というか全力で甘えており、子犬に等しい。


 他にも侵入者や見知らぬ者にはけたたましい鳴き声をあげて襲い掛かろうとする鷲も平然と羽繕いをして、警戒心のけの字もない。


 そもそもここの動物たちは警戒心が強いため、世話をするには数年がかりで信頼関係を築く必要がある。そのため、世話ができる使用人は限られており、ここの動物の世話ができる人材はかなり助かるのだが……


「……おまえたちまで、どういうつもりだ?」


 イーラスの小声にティリアの足下で甘えていた犬たちがツンと顔を逸らす。

 まるで言葉を理解しているような動きだが、そのことに気づいていないティリアが無表情のままフンッと胸の前で両手を握った。


「それに働かざる者食うべからずです。これなら私でもできますので、精一杯動物たちのお世話させていただきます」


 自分の仕事を見つけて喜々とするティリア。

 思っていたより逞しい様子にイーラスは苦笑した。


「でも、蛇やカエルもいるし毒もあるよ」

「私の実家にも毒蛇や毒カエルはいましたので、扱いは慣れています」

「……そうなんだ」


 どんな実家だったの? という疑問を呑み込んだイーラスが軽く頷く。


「じゃあ、私は出かける準備をするから。君もキリが良いところで屋敷に戻っておいで」

「あ、そうですね。わかりました。もう少ししたら戻ります」


 昨日より活気のある声にホッとしながらもイーラスは屋敷へと戻っていった。


~~


 身支度を整えて朝食をとったイーラスはティリアとともに街へ買い物に出かけた。


 ボサボサに伸びていた髪は整える程度に執事に切られたが、前髪だけは死守して顔を隠している。あと、無精ひげは当然のように剃らされたため、顎がスースーして心許ない。


 そんなイーラスの隣ではティリアが無表情のままキョロキョロと街を観察していた。


 領地とは比べ物にならない店の数と街の大きさ。

 馬車が通る道は石畳でしっかりと整備されており、通りに沿って建物がみっちり建っている。そして、客を呼び込む商人や、荷物を運ぶ人。それから、忙しそうに早足で歩く人やのんびりと買い物をする人まで。

 ティリアは人の多さと活気に無表情のまま紫の目をパチクリさせていた。


 表情はないが愛らしさが漂うティリアにイーラスは自然と声をかけた。


「気になる物があったら教えて」


 メイド長のマギーから、ティリアは遠慮してほしいものを言わないだろうから、これらを買ってきてくれ、とメモを渡されていた。それは少ない荷物の中になかった、これから必要となる必需品たちで。


(これをさりげなく買ってこいって、なかなか無茶な要求をするよね)


 そう考えながらイーラスはティリアと並んで歩いていた。


 通りは広いが中央は馬車が通るため歩く人は自然と端に集まる。

 その中で人波に押されたティリアの足がふらついた。


「おっと、大丈夫かい?」


 サッと細い腰を支えたイーラスが腕を差し出す。


「こういうところを歩くのは慣れていないんだよね? 私の腕に掴まって歩くといいよ」

「で、ですが……」


 ティリアの戸惑うような声にハッとしたようにイーラスが腕をさげた。


「あ、ごめん。こんなオジサンと腕なんて組みたくないよね」


 配慮が足りなかったと頭をかいていると、ティリアがバッと腕に飛びついて勇気を出すように言った。


「あ、あの、そのようなことはありません。私が、その、このようなことは初めてで慣れていなくて、そのどのように腕に掴まったらいいのか分からなくて……」


 表情を隠すように白銀の髪が俯く。

 だが白い頬が少しだけ赤くなっているように見えたイーラスは誤魔化すように咳払いをした。


「私の腕に軽く手を添えるだけでいいから。あと、嫌になったらいつでも離していいからね」

「わ、わかりました」


 こうして二人は並んで街の散策をしていった。


 イーラスはマギーから頼まれたものを買うため、さりげなく目的の店へ誘導して、目的の品の好みの色や柄を聞き出し、ティリアに気づかれないように買っていく。

 それは服や靴、タオルや櫛などの日常品が多かった。


「あとで屋敷に届けて」

「かしこまりました」


 それだけで贔屓にしている店の店員には伝わる。

 こうして買い物を順調に続けていたイーラスはとある店の前でティリアに声をかけた。




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