表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

第六話 下剋上志願者

 ようやく辿り着いた目的地は思ったより小規模な村だった。貧相な建物が密集しており、それらを囲むように築かれた城壁らしき構造物が目を引く。近づいてみると城壁は土を押し固めただけの原始的なもので、所々が崩れかかっていた。


「のどかだなあ」


 ショウタの率直な感想を聞いたロディニアは静かに首肯する。その瞳には故郷を思い起こすような穏やかさがあった。しかしその感情は束の間で、村に入った瞬間から場の空気が一変する。


「聖女様お帰りなさい!」

「おかえりなさいませ!」

「聖女様万歳!」


 村人総出と言っても過言ではない人数が道沿いに並び、彼らの中心にはロディニアがいる。その存在感は圧倒的で、誰もが彼女に熱い視線を送っていた。ボリュームリヒとしてのショウタは完全に蚊帳の外だ。敬愛の対象は明らかにロディニア一人に集中している。


「姉様!」


 幼い子供たちの甲高い叫び声と共に数人の少年少女が駆け寄ってきた。一瞬だけ姉と呼びかけて周りの大人から窘められたのだろう、すぐに表情を変え「聖女様」と言い直す。


「大きくなったわね」


 ロディニアは優しく微笑みかけながら膝をつき、彼らと目線を合わせる。その慈愛に満ちた姿はまるで別人のようでショウタも思わず目を見張った。


 村人たちに見送られながら一行は中央の建物へ向かう。どうやらこれが教会か神殿に相当する場所のようだ。荘厳というには些かみすぼらしい建物だが、内部には意外なほど豊かな装飾が施されていた。


「どうぞお掛けください」


促されるままに席に着くとロディニアが正面に立つ。その凛とした佇まいに場の空気が引き締まる。


「改めて説明いたします」


 チティス派の歴史について語り始めるロディニアの声は落ち着いていた。


「私たちの祖先はかつて魔族に雇われた傭兵でした。初代皇帝陛下に叛旗を翻したこともあります。しかし──」

「敵ながら天晴れってわけか」


 ショウタの要約にロディニアは小さく頷く。


「その通りです。当時の皇帝陛下は我々の忠義を認めて処刑を免れさせたのです。以来、代々この地を守ってきましたが……」


 彼女の声色が暗くなる。


「他の宗派からは邪宗と蔑まれています。それでも──」


 ロディニアの目がショウタを捉える。


「それでも私たちは諦めません。いつの日か必ず聖地を取り戻してみせます」

「ちなみにその聖地ってのはオレがどうにかできるもんなの?」


 ショウタの率直な問いにロディニアは僅かに眉を顰めた後、静かに答えた。


「はい。殿下が国王となれば可能です」

「オレが!?」


 あまりの突拍子もない発言に思わず声を荒げる。


「そのうち王様になれるものなのか?」

「なりません」


 ロディニアの口調は厳しかった。


「ボリュームリヒ王子の父君であるモアラーズ公爵は辺境を治めていますが、しょせんは非嫡流の出。王位継承権はあっても現状ではほとんど意味をなしません」

「じゃあどうやって……」


 ショウタの疑問を遮るようにロディニアは続けた。


「方法はあります」


 鋭い眼光がショウタを射抜く。


「ただし容易な道ではありません」

「具体的には?」

「下剋上です」


 あまりにも単刀直入な回答にショウタは絶句した。


「いやいや……冗談だろ?」

「冗談ではありません」


 ロディニアの表情は真剣そのものだった。その瞳の奥には計り知れない意志が宿っている。


「私はボリュームリヒ王子こそが真の支配者となるべきだと信じています」

「まあ、うん……本物ならきっとカリスマ性? とか実績があったのかもしれないけど、ここにいるのは三河ショウタだし」


 自己卑下のような言葉が口を突く。しかしロディニアの態度は揺るぎなかった。


「関係ありません。重要なのはあなたがここにいるという事実です」

「でもさぁ……」


 なおも言い淀むショウタに対し、ロディニアはさらに踏み込んだ。


「自信がないのなら私がお力添えします。どうか聖地奪還の夢を叶えるために力を貸してください」


 圧倒的な存在感で迫られショウタは言葉に詰まる。


「……考える時間が欲しい」


 それが精一杯の返事だった。ロディニアは無言で頷くと部屋を後にした。


 一人残されたショウタは沈思する。異世界に飛ばされたと思ったら王子に仕立て上げられ、今度は下剋上を持ちかけられている。あまりにも非現実的な展開だ。


「どうしろって言うんだよ……」


 溜息混じりの呟きが誰もいない空間に虚しく響いた。窓の外では夕暮れが迫りつつあった。村人たちの聖女への崇敬の眼差しを思い出し、改めてロディニアという女性の底知れなさを感じる。


 そのときふと思い出したのは訓練の時に見た奇妙な光景──彼女の服の下をまさぐる触手モンスターの姿。あれが何を意味するのかは分からないが、少なくとも普通の聖女ではない。


(あいつは一体何なんだ?)


 疑問符だけが増えていくなかでショウタは自分の中で答えを模索する。


 下剋上……それが本当に可能かどうかはともかくとして、今の状況を打開するには何かアクションを起こさなければならない。そのためにはまず情報を集めるしかない。


「仕方ねぇな……」


 自嘲気味に笑いながら椅子から立ち上がる。まずはこの異世界での自分の値踏みをすることだ。ロディニアに頼らずとも自分で調べられる範囲は限られているが何もしないよりマシだろう。


 神殿に祀られている彫像を見据えながら、ショウタは物思いに耽るのだった。


ここまで目を通してくださりありがとうございます。感想・アドバイスお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ