第三話 王子メシ
本営が置かれた体育館は物々しい警備が敷かれており、高級そうな垂幕が掛かった入口をくぐり抜けるだけで緊張する。何せどういう挨拶をしたものかさっぱりわからない。ショウタはこの場所ではより厳密にボリュームリヒという王子様として振る舞う必要がある。そのための特訓がこれから待ち構えている。
「……以上のようなものでしょうか。どうでしたか殿下?」
「なかなかの授業だったよ。ロディニア殿」
「これはこれは嬉しいお言葉です」
椅子に座り足を組みながらショウタは微笑する。その姿はどこからどう見ても高貴な出の人間のそれだ。しかし、本来の三河ショウタであれば、こんな風に振る舞えるはずもない。この演技力は全てロディニアの指導によるものである。
(疲れた……早く終わってくれ。このままじゃ脳みそパンクする)
「今日の分はこれくらいにしておくかな」
「えっ? もうですか?」
「だって時間も時間だし、あまり長時間やっても集中力が続かないだろう?」
ショウタはこめかみを押さえながら言った。
「では、本日はここまでに致しましょうか」
「うむ、ご苦労であった。下がって良いぞ」
「かしこまりました。それでは失礼致します」
恭しくお辞儀をすると、ロディニアは部屋を出て行った。それを見届けるとショウタは大きく欠伸をする。複数の仕切りによって内部から体育館とはとても思えぬ部屋が形成されている。おかげでとても快適だ。
(さてと……飯でも食うか。そういやこの世界の食文化ってどうなんだろ? 正直あんま興味無いけど、せっかくだしよく味わっておくか)
この一週間、未知のアレルギーやウイルスを恐れるあまり食べ物といえば学園に備蓄された非常食しか口にしていなかったのである。ようやっとまともな食事にありつけると、涎を垂らしているが一向に料理が運ばれて来る気配がない。
非常食の頃ですら決まった時刻に食事が始まっていたはずなのに、妙なこともあったもんだと首を傾げながら呼び鈴を鳴らす。
「どうなされたのですか殿下?」
「あれ? ロディニア殿だったのか」
「ロディニアでよろしいですよ」
「そうか。それならロディニア。なぜ食事が来ない?」
「……?」
ロディニアは怪訝そうにこちらを見つめている。そしてこう言い放った。
「軍旅における王族の食事に関しては食糧課が制定した規則に従うことになっております。殿下ともあろうお方がまさかそれを破られるようなことはあるまいと存じますが」
「……いちおうどんな規定かお教え願えるか?」
「簡単なことです」
ロディニアは懐から一枚の紙切れを取り出すとそれを読み上げ始めた。
「本日は水とレーションのみ。以下略」
「おい!」
「なにか?」
「いくらなんでもこれはあんまりじゃないか」
「どうして?」
「だって俺は王子様なんだぞ!? もっとマシなものを食べるべきだろうが!」
ショウタはテーブルを叩いた。
「いいえ違います。ボリュームリヒ殿下は王子であって同時に一軍将でもいらっしゃる。常在戦場を忘れてはならないというのが初代皇帝の遺訓なのです。この国において最高権威たる存在が率先して民を率いる姿を見せる必要があります。それはいかなる理由があっても揺るがないのです」
(理不尽だろ)
とショウタは思うものの口には出さなかった。下手に意見しても無駄だと分かっていたからだ。それに自分は仮初の王族だ。本物が戻ってきて咎められるのも面倒だ。
(本物か。生きてるんだろうか?)
「ところで一つ提案なのですが、学園の方々も非常食から通常の食事に切り替わったおかげか、少々盛り上がりを見せております。ここは親睦のため殿下自ら演説のひとつでもしてみては如何でしょう?」
「提供される料理のメニューは?」
「は?」
「料理のメニューは何だと聞いている」
「シチューですが、それが何か?」
「それをもっと早く言うべきだったな」
ここはどさくさ紛れに何としてでもまともな食事にありつかなくてはならない。そう、例えば不安を覚える者あらば自分が率先して安全であることを示すのだ。
がんばって投稿が途切れないようにします。




