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第十二話 竜の群れ

 霧に包まれた仮設住宅の窓から坊主頭がぬるりと外へ抜け出した。


「よしっ……バレてねぇな」


 謹慎中の新田カズオは音を殺しながら慎重に歩を進める。本来ならば自室で大人しくしているべきなのだが、彼の好奇心は留まるところを知らない。遠くから響く獣の唸り声が気になって仕方がなかったのだ。

 見張りもすでに買収済みだから何も心配いらない。別に悪辣な手段を用いた訳ではなく、ちょっとした『娯楽』を提供しただけのこと。

 具体的には持ち込んだ旧式ゲーム機とソフト数種類を貸与したに過ぎない。退屈な仕事への対価としては些細なものだろう。


「いーけないんだ♪ いけないんだ♪」


 猫撫で声が背後から聞こえてくる。振り返ればそこには満面の笑みを浮かべた村前カナの姿。彼女が携えているのは一冊の古びたノートである。


「よぉ副会長。随分とご機嫌じゃねぇの」

「いつもと変わらないよ?」

「お前は常にハイテンションだし分かんねぇよ」

「そんなことより生徒会長の無断外出してる現場を目撃したってことはつまり」


 副会長はニヤリと口角を上げる。


「ボクにもなにか差し入れしてくれるってことかな?」

「俺の庭だ。外出のうちには入らねえよ」

カズオはきっぱりと言い切った。

「勝手に上がり込まないでいただきたいもんだ」

「えーん」

カナは演技過剰な泣き真似をする。

「ここで副会長権限を行使することだってできるんだよ? うーん困ったなぁー」


 歩くカズオの靴がすっぽ抜ける。幾度となく靴の踵を踏み続けるカナの行為は明らかに故意だった。軽く小突くと、


「んッ♡」


 とやらしい声を漏らす。


「おいおいスケベな声を出すもんじゃねえやい」

「だって……痛かったから」

「痛い方が好きだろ? お前のブログに書いてあったぜ」

「やめてよ! あれは匿名だからいいんだってば!」


 突然足下を黒い影が横切った。


「ッ!?」


上空を見上げると数十匹もの生物が旋回している。翼竜――いや爬虫類に類する生き物だろうか。鋭い爪と牙を持つ姿形はまさにファンタジー世界にありがちなモンスターそのものだ。


「なんだいありゃあ?」

「なんか怖い……」


 カズオが腕を伸ばしカナを庇う。次の瞬間には二つの巨体が眼前に降り立った。


「グォオオオッ!!」


 咆哮と共に砂埃が舞い上がる。その勢いで近くの小屋が破壊され木材が四方八方へ散らばった。


「危ねえッ!」


 カズオは咄嗟にカナを突き飛ばした。巨体が地響きと共に着地する。


「くそっ……熊や猪と同じだ。一目散に逃げたら追っかけてくるぜ」


 カズオの方が一歩前でカナを背に庇い、じりじりと後退する。


「逃げたいよぉ……」

「逃げたい時は逃げない方が良いんだよ……ッ!」


 瓦礫の中から角材を拾い上げる。気休め程度の武装だが無いよりはマシだ。


「グルルル……」


 ドラゴンの瞳孔が収縮する。次の瞬間——


「グワァアアッ!!」


 牙を剥いて跳躍してくる!


「来るぞ!構えろッ!」


 カズオが角材を構えるが、


「あっ!?」


 何故か握っていた角材が砕け散る。いよいよおしまいだと思った刹那!


「がぼッ!?」


 ドラゴンの側頭部に瓦礫が命中した。続けて第二波第三波と石塊が吸い寄せられるようにドラゴンへ炸裂する。


「とりゃーっ!」


 カナが瓦礫を投げる。へっぽこフォームの筈なのに物理法則を無視した軌道を描き、さらに常識では考えられないスピードと威力で石礫が次々に爆ぜる。


 ドラゴンは怒りに任せて暴れ回るが、カナの投石によって動きを制限されていた。



 一方その頃、学園の警備を司る本営ではくんずほぐれつの大騒ぎであった。


「ロディニア! 今すぐドラゴン共を黙らせろ!」


 ショウタが焦燥に駆られた声を上げる。王子の狼狽ぶりにロディニアは冷静さを装いながら答えた。


「お気持ちはわかりますが殿下。無暗に動けば却って危険です。どうも人為的にドラゴンの群れを誘導している気配があります。敵対勢力による策謀かもしれません。ここは本営の警備を固めるべきです。我らチティス派にお任せください」


「……チッ!」


 ショウタは苛立ちを露わに舌打ちする。チティス派にとってボリュームリヒの身柄は最重要案件であり、学園の被害など眼中にないことは薄々気づいていた。けれども――


(これ以上好き放題されてたまるか)


 心中で決意を固めると剣を抜き放ち駆け出そうとする。


「殿下!!」


 ロディニアの制止も耳に入らない。説得を諦めた彼女の目が妖しく輝いた。


「――仕方ありません」


 彼女は即座に手を叩き衛兵隊長を呼び寄せる。


「衛兵隊長! 全軍に伝えなさい。殿下をお守りすべく布陣せよ」


「はっ!」


 隊長が駆け出した瞬間、ショウタはふと我に帰った。


(そうか……そういうことか)


 学園の命運など端から考慮していない連中に良心を期待すべきではなかったのだ。


「お前たちがオレを守りたいのなら勝手について来い!」


 彼らを無理やりにでも動かすには、ボリュームリヒを危地に追いやる他ないのだ。

 今後はクソ難しい異世界文字の書類も自分で管理しよう。そんな場違いな考えが頭に浮かんだ。


ここまで目を通してくださりありがとうございます。

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