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第十一話 新事業より愛をこめて

 ある程度生活インフラの整備が終わりつつある今、暇を持て余す人間が増え始めていた。

 大した娯楽もないので風紀は乱れきっている。兵士や人足を相手に自分から売り込みをかける女子生徒まで現れる始末だ。おかげで厳罰主義のロディニアを宥めるのにショウタはひどく骨を折る羽目となってしまった。


「どうせならオレに売り込め」


 小言を言いながら始末書にサインする。


 次に生徒会が提出したアンケート結界を読むと、将来への不安や娯楽の少なさに対する懸念が多くを占めている。内容よりもショウタが驚いたのはこのアンケート調査を主導したのが生徒会という点だ。

 彼の知る限り生徒会にはさしたる権限もないはずだったが、行動力がものを言ったのだろう。しかし教職員を通さずに王子と直談判に及んだのは相当に先生方の怒りを買ったらしく、生徒会長の新田カズオは謹慎を命ぜられたと聞く。


 とにかく新しい仕事を与え眼前の空白を埋めてやらないことには、今後もトラブル対応に追われるのは必然だ。今までは状況に流される向きが強かったショウタも、いよいよ己が知恵で課題に取り組む時が迫っていた。


「諸君! 聴け!」


 ショウタが演壇に立つ。周囲には楽器が得意な生徒たちが集まっている。司会は新田カズオの謹慎で副会長の村前カナが代役を務めていた。もっとも、その彼女も遅刻している。


「これから各々の知識を活かし、地球のあらゆる楽曲を再現してもらう。それを書き起こした楽譜は貴重な財産となるだろう。報酬はもちろん出す」


 彼は胸を張って宣言した。


「完成品には金一封。上手くいけばボリュームリヒお抱えの楽団として街へ出向き興行も可能だ」

「やったー!」


 歓声が上がる中、


「お待たせ―!」


 元気よく現れたのは村前カナ。その股関の真下には……異様なシルエットが。


「紹介します! 我が校の吹奏楽部を率いる岐野レンコさんでーす!」


 カナが颯爽と下馬すると黄色い悲鳴が上がる。いや、厳密にはケンタウロスから降りたのだが、黄色い悲鳴は村前カナの誇る人気の証左だ。そして音楽と無縁な野次馬の一部からは熱烈なファンらしき女子生徒が興奮気味に声援を送っている。


 その傍らで牧草を無心に咀嚼するケンタウロス姿の岐野レンコ。半人半馬の四足歩行であることを度外視すれば、人間と変わらず表情も豊かだが、首の角度が妙に低い。


「皆さんこんにちは〜」


 口いっぱいに干し草をほおばったまま喋るので危うく喉につっかえそうになった。慌てて飲み込んでから再度挨拶を始める。


「岐野レンコでえす。こう見えても地球生まれ地球育ちの平凡な女子高生です。ただ今見ての通り馬部分が完全に定着してしまいましたが……」


 自嘲気味に笑いながら蹄を掲げてみせる。周囲はどよめくが本人は至ってマイペースだ。


「ちなみに現在はケンタウロスから進化してユニコーンを目指しております! 今のところまだツノは生えてきていませんけどね!」


 冗談なのか本気なのか判断しかねる発言に拍手もまばらだ。だがショウタは笑みを崩さない。


「早速だが君の腕前を見せてくれるか?」

「もちろんでえす」


 彼女が背中に担いでいたトランペットケースを下ろし中身を取り出す。魔法のような速度で組み立てていく様は見事だった。


「まず定番から始めましょうか」


 まるで映画のワンシーンのような演奏が始まった。技巧的かつ情熱的。馬体を自在に操る脚捌きは一種のパフォーマンスすら兼ね備えている。素人のショウタですら、他の参加者と比べてレンコの技量が飛びぬけていることがわかるぐらい、圧倒的であった。


 次は図書室で翻訳事業を立ち上げる。会話にはおよそ不自由しなくなったものの、文字に関しては未だ隔たりがある。専門的な資料を共有するには文字資料が必要不可欠だ。


「日本の文献だけでなく、異世界の文献も解読していく」


 生徒側から希望者を集めるとともに、異世界側からも識者たちを迎えての共同研究が決定された。


「まずは簡単なものから」ショウタが提案した。「例えば民話や童話など伝承物から着手するのが妥当だろう」


 このアイデアは好評を得たようで両陣営から次々と志願者が現れた。文化の垣根を超えた協力体制の構築は、今後の外交関係にも大きな影響を与えるはずだ。


 さらにショウタは美術部や絵を得意とする生徒たちを集め漫画制作プロジェクトをスタートさせた。異世界人向けに日本のカルチャーを発信する手段として有望視されていた。


「絵心のある者は全員参加だ! 過去の作品を持ち寄るのも良いだろう」


 即席で行われた採用試験では驚くべき才能が多数発掘された。特に同人活動歴の長いメンバーはプロ顔負けの技術を披露して場を沸かせる。


「完成した作品は特別イベントで展示販売したいと考えている。利益は制作チームと割り勘だ」


 再び歓喜の声。娯楽不足に苦しむ生徒たちへの需要も見込まれるだけに即戦力として期待は大きい。


 これらのプロジェクトを独断で進めてしまったことで、遂に教育者サイドから正式な抗議文が届けられた。


「何故学校長を通してもらえなかったのです!」


 その場に駆けつけた校長は憤慨しながら訴える。


「我々教師陣には事前に通知があってしかるべきです!」


 ショウタは静かに答える。


「緊急性を鑑みて即断即決したまでだ。教師陣には後日詳細を報告しよう」

「そもそも学生たちは授業を受ける義務があります! 勝手に芸能活動など……」


「校長殿」


 ショウタの声が一段階低くなる。


「生徒たちの士気向上こそが最優先事項だと思うが」


 反論しようと口を開いた校長だったが、ショウタの威厳ある視線に圧倒されて言葉が出ない。


「今回の企画は生徒たち自身の意志でもある。彼らが望まないなら当然止めることにするが……どうなのだ?」


 その問いかけに集まった生徒たちは一斉に賛意を示す。校長の顔が紅潮する様は憤怒か羞恥か分からない。


 結局、校長は渋々ながらも了承することになった。ただし「定期的な報告」を条件にしたためショウタとしては内心不満だった。


 こうして異世界での学園統治は新たな局面を迎えつつあった。最初は戸惑うだけだった立場も次第に足元が固まる手ごたえを感じていた。


 だが用意できた仕事なぞ、生徒全体から見ればごく一部に過ぎない。


ここまで目を通してくださりありがとうございます。

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