第一話 まずは校長とか教頭に話を聞け
まったくふざけた話だと三河ショウタは思った。彼はよくわからない言語で先ほどから詰問されているのだが、異世界人の言葉など知る由もなかった。
(まずは校長とか教頭に話を聞けよ。マジで意味わからん。やっぱ見た目か?)
文化祭準備中に突然周囲が光に包まれ――気づけば学園全体が見知らぬ山の中。
眼下に見える明らかに現代日本とは思えぬ街から大慌てでやって来た軍勢にあっという間に制圧されて、生徒教職員は捕囚の身になってしまった。
数多いる人間のなかでどうして自分が真っ先に尋問の対象になっているのか? ショウタにも身に覚えがないではない。
第一に容姿の変化だ。以前の冴えない自分とは似ても似つかぬブロンドの美少年。オマケに服装まで豪華絢爛な西洋貴族のそれである。他にも容姿が変化した者たちもいたが、ケンタウロスや人魚姫といった人外になってしまった連中ばかりだ。見た目が近しく身分が高そうな恰好の彼が、尋問の対象になってしまったのは、当然と言えば当然なのかもしれない。
最初のうちは優し気に質問されただけで、このまま何事もなく済むのではないかとも期待していたのだが、徐々に雰囲気が変わっていくのを肌で感じる。まず言葉が通じないがしばらくすると御札のようなものを貼られて言葉がわかるようにされる。そしてさらに時間が経って馴れてきたのか、言葉が強いものになっていった。
(オイオイ、殺さないよな? オレ何も悪いことしてないんだから!)
しかしショウタの焦りとは裏腹に、状況は悪化していく。
「貴様、本当は何者なんだ? なぜこんな所でこのような恰好でいる?」
「だから本当にわからないって言ってるじゃないですか! 第一お宅こそ何者なんですか?」
「この期に及んでシラを切るか!」
「ぐへぇ!?」
そうこうしているうちに、薄着の鎧をまとった20代ぐらいの兵隊から肩に重い蹴りを入れられてしまい、思わずうめく。どうやら目の前の人物は相当高い地位にある人間らしい。容姿からしても騎士だろうとショウタはあたりをつけた。
「王子なのか? ならば言葉が通じないのはおかしい。他人の空似だとしても我々の国にこれだけ服飾が許される人間などいるはずもない! まさか魔法で変装しているのか!?」
(コイツ、完全に暴走してやがる……誰だよ王子って?)
「ずいぶん手こずっているようね」
「ロ、ロディニア様!?」
突然扉を開けて入ってきたのは、見目麗しい女性だった。
銀色の長い髪が印象的な美女で、瞳は金色に輝いている。しかしその雰囲気にはどこか恐ろしさを感じさせるものがあった。ショウタは彼女のことを知らないが、その立ち居振る舞いと様づけの呼び名からして騎士より立場は上と見て間違いない。
「ここは私が預かるわ。あなたは引き続き下々の人たちを尋問しなさい」
「そ、それは構いませんが……彼は一体?」
「詳しくは後で話すけど……今は緊急事態なの。お願い」
「ハッ!」
騎士と思しき男が退室すると、改めて女性はショウタの方を向き直った。ショウタのことをまじまじと見ている。
(こいつもどういうつもりなんだよ……なんでオレのこと知ってるみたいにしてんだ?)
彼女の視線を受けながら、ショウタはどうしたものかと考えを巡らせていた。
「では、お互いに自己紹介をしましょうか? 私はロディニアと言うの。貴方のお名前は?」
「三河ショウタです……」
前髪を弄りながら、
「ミカワ・ショウタね。あなた以外からの聞き取りや種々の調査を総合的に判断するに、少なくとも彼らは異なる次元からこちらの世界に飛ばされてきた人間であるというのは間違いなさそうね。それでもミカワ・ショウタ。あなただけはそうはいかないの。この国の王子にしか許されない所持品を持ち、名前以外はその人の特徴と一致しているのだけど? 貴方は一体何者なのかしら? このままだと身分詐称と不敬罪で極刑もありうるんだけど?」
と、ロディニアと名乗る女は淡々と言い放つ。まるで法官のように。
「な、何を言ってるかさっぱりわかんねぇよ!? 確かにあの騎士も王子王子って言ってたけど!? オレはフツーの高校生なんだよ!!」
普通の定義はともかくとして、少なくとも世間一般から見れば、公的な肩書きといえばそれしかない。いきなりあなたは王子だなんて時代劇やおとぎ話じゃあるまいし信じるわけがない。
それに自分が王子様だなんて言われるとなんか気持ち悪い。
「まあいいわ。私の目的は別にあなたを責めることではないもの」
「ハァ? じゃあ一体何しにきたんだよ?」
怒りに任せて口の利き方も相応になってしまうが、止める術を知らない。
「取引」
「取引ぃ?」
こちらの早口とは対照的に彼女はゆっくりとした口調だ。
「私は貴方を助けてあげたいと思っているの。けどそのためには条件があるのよね」
「どんな?」
「王子になりすまして」
「いや、だから人違い、人違いだって! オレは別に王子様なんて柄じゃないんだって! 第一この学校も保護してもらわないといけないから、それどころじゃ―――」
「彼らのことは責任を持って保護させていただくわ。『ボリュームリヒ殿下のご意向』でね。むしろ貴方がボリュームリヒ殿下として振る舞ってくれればくれるだけ、貴方の国の者たちは安全な待遇で迎えてもらえるでしょうね。逆に言えば、貴方がここで抵抗すればするほど、あなたの同胞の扱いがひどくなるとも言えるのだけど?」
と、ショウタが反論しようとするのを遮って脅しつけた。
「アンタ本気かよ!? なんでオレがそこまでしなきゃいけないんだよ!」
「残念ながらこれは決定事項よ。私も『殿下』の素性が明らかになるのを待っていたのだけど、もう猶予はないわ。ボリュームリヒ殿下には一刻も早く御帰還頂かないといけない。貴方には『殿下』として働いてもらうしかないの。ついでに私の所属する宗派がおこぼれを授かる。断れば……」
ここまではっきり言われてしまえば最後まで聞く必要などない。
「オレと仲間たちの首が飛ぶって言うのか!?」
「ええ、そうなるわね」
ショウタは歯噛みするしかなかった。もし本当に自分が王子を演じなければ、この場にいる皆が危険に晒されることになるのだ。それは避けなければならない。しかし、だからと言って自分が王子様として振る舞うなどとんでもないことだ。
「……わかった」
「ありがとう。話が早くて助かるわ。それじゃあ早速だけど、今からいくつか質問をさせてもらうわね?」
ロディニアはニヤリと笑った。
ここまで目を通してくださりありがとうございます。
異世界系の作品を始めて書きました。感想・アドバイスが貰えると作者の励みになります。




