【第6章】売れる構造に縛られていたのは、AIでも人間でもなく“表現”そのものだった
長い旅だった。
AIを悪者にしていた人々。
効率化に怯えた芸術家。
怒りをSNSに投げ続けた人々。
循環が死んだ創作現場。
どこへ行っても同じだった。
“誰も悪くないのに、何かが壊れている”という空気。
――その原因を、今日ようやく口にする。
最後に落とされたのは、巨大な都市の夜景を臨む高層ビルの屋上だった。
眼下には、光の海。広告。ランキング。PV数。売上の折れ線グラフ。
未来人
「……全部、売れる“型”だな」
振り返ると、これまで出会ってきた現代人たちがいた。
アニメーター、芸術家、SNSのユーザー、学生、サラリーマン。
「未来人さん、結局……何が悪かったんですか?」
「AIなんですか? 効率化ですか?」
「SNSですか? 資本主義ですか?」
全員が期待と不安の入り混じった目を向けてくる。
俺は夜景を見下ろしたまま静かに言った。
◆ “資本主義は表現を殺した”……と、みんな言いたがるけど
「確かに資本主義は、創作を“売れるかどうか”で判断しがちだ。」
売れないものは切られ、
評価されるものが偏り、
市場に合わせてジャンルが均一化し、
反発のない安全な作品だけが量産されていく。
「資本主義が表現を縛った……それは事実だ。」
みんなうなずく。
だが俺は続けた。
「でもね――それは“原因”じゃないんだ。」
「え……?」
◆ 資本主義が“表現を抑制しているように見える”だけで、実際には…
「資本主義が表現を抑えていたように見えるのは、
単に“売れる構造の中に表現が閉じ込められて”いたからだ。」
「閉じ込められて……?」
「そう。
表現の自由が奪われたんじゃない。
表現の向く場所が“売れる方向”に固定された。」
俺は夜景の広告に目を向けた。
「ランキング、PV、フォロワー、バズ、売上。
これらが“創作のゴール”だと誤認され続けた。」
「それが……抑制?」
「循環が停滞した時点で、
人は“売れる表現”以外にテンションを向けられなくなる。
だから、多くの表現が“自分が本当に語りたいもの”から遠ざかった。」
◆ 本当の問題は“構造”ではなく、“向けていた矢印”だ
「資本主義の問題は、
効率化でもAIでもSNSでもない。」
俺はゆっくり振り返った。
「“表現の矢印が自分の内側ではなく、
外側(市場)に向いていたこと”だ。」
人々が息を呑む。
「売れる作品を作ろうとした。
評価される作品を作ろうとした。
叩かれない作品を作ろうとした。」
夜景を照らす数字たちを指さす。
「その結果――
本来の“語りたいもの”が薄れていったんだよ。」
◆ 人間の創作は“効率化”で死んだわけじゃない
「創作の敵はAIでも資本主義でもない。」
俺は静かに告げる。
「創作の敵は“自分のテンションが外に奪われること”だ。」
売れるかどうか。
批判されないかどうか。
フォロワーにウケるかどうか。
アルゴリズムに拾われるかどうか。
「その外側の矢印に創作のテンションを使いすぎた結果、
本当に語りたいことが薄まった。」
「だから、作品が疲れていく。
作り手も疲れていく。」
◆ AIが現れたのは“矢印を内側に戻すため”だった
未来人
「AIはね、創作から“外向きの作業”を奪ったんだよ」
驚いたように全員がこちらを見る。
「構図を描く時間、資料を集める時間、
売れ筋を分析する時間、
トレンドに合わせる時間。
そういう“外向きのストレス”をAIが背負った。」
「つまり――」
俺は手を胸に当てた。
「AIは、表現の“内側の矢印”を取り戻すために現れたんだ。」
◆ 最後の結論:
創作は、『語りたいものがあるか』でしか決まらない
「資本主義が表現を抑制したように見えるのは、
外側の尺度にばかりテンションを向けたからだ。」
「SNSで怒りが暴走したのは、
内側に使うべきテンションを外側に向けすぎたからだ。」
「創作現場が疲弊したのは、
内側から湧く表現より、
外側の締め切りと市場にテンションが奪われたからだ。」
未来人として、
ここを言わなければ旅は終われない。
俺は夜景の果てを見つめながら、最後の答えを告げた。
「創作で一番大事なのは――
“語りたいことがあるかどうか”。
その一点だけだ。」
「売れるかどうかなんて、あとでいい。
AIが使えるかどうかなんて、どうでもいい。
効率化も、資本主義も、SNSも、本質じゃない。」
「創作の原動力は、
『これを伝えたい』というテンションだけ。
そこから始まったものは、必ずどこかで循環する。」
全員が静かにうなずく。
◆ 未来人、旅の最後に
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
俺は光の裂け目へ歩き出す。
「この時代は詰まりが多いけど、
テンションと循環さえ戻れば、
必ず再生する。」
「だって……」
俺は振り返って、少し笑った。
「人間って、語りたいことがある限り、
何度でも創り直せる生き物だからね。」
光が閉じ、時空が静かに消えた。




