【第2章】問題はAIじゃなくて、“詰まった循環”だよ
現代に落とされるたびに思う。
この時代は、どこか“張りつめた糸”のように感じる。
怒りでもなく、悲しみでもなく、
ただ――停滞している。
今日も街を歩いていると、路上で議論している若者たちがいた。
「AIが働き方を壊してるんだよ!」
「全部自動化されて、人間が置いていかれるって!」
またAIの話か……と思いながら聞いていると、
彼らは“ある一点”を完全に見落としていた。
「……それ、AIのせいじゃないよ。」
口に出した瞬間、三人が一斉にこちらを向く。
「どういう意味だよ!?」
「人間の仕事が奪われてるだろ!」
「循環が壊れてんだよ!」
最後のひとことに俺は苦笑した。
「いや、それ “循環が壊れた”んじゃなくて――
“元々詰まってたのが、AI登場で可視化されただけ” なんだよ。」
◆ “テンション”が消えた社会は、必ず腐る
「いいか、現代の仕組みってさ……」
俺は近くのベンチに座り、三人を手招きした。
「張り合いもなく、反発もなく、
一方的に“上から下へ流れるだけ”になってる。」
三人が首をかしげる。
「例えば――」
労働者 →(労働)→ 企業
企業 →(最低限の賃金)→ 労働者
「この流れ、一見“循環”してるように見えるだろ?
でも本当は 循環じゃなくて往復 なんだ。」
「……同じじゃないのか?」
「違う。
往復ってのは “戻るだけ” で、エネルギーが生まれない。」
俺は指を鳴らした。
「テンション理論の基本だ。
反発があるから流れが生まれ、
流れがあるから新しい価値が生まれる。」
若者の一人が眉をひそめる。
「じゃあ、今は反発がないって言いたいのか?」
「そう。
働いても働いても生活は苦しく、
それでも仕組みは変わらない。
反発しても吸収される。
意見しても上に届かない。」
俺はため息をついた。
「テンションが生まれない構造ってのは、
一言で言えば、“詰まってる”んだよ。」
◆ AIは“溢れた圧力が漏れ出した場所”
「でね、詰まった循環に圧力がかかり続けるとどうなるか。」
三人が息を呑む。
「どこかから“亀裂”が入る。」
そして俺は言った。
「その亀裂が――
AIの登場というかたちで現れただけだ。」
「……AIが悪いわけじゃないってことか?」
「そう。
AIは“詰まりを暴いた存在”であって、
詰まりを作った張本人じゃない。」
若者の一人が呟く。
「じゃあ……AIを規制しても何も解決しない?」
「しない。
穴を塞いで見えなくするだけだから。」
◆ 本当に悪いのは“閉じた循環”だ
「循環主義の基本は単純だ。」
俺は手のひらで円を描いた。
「開け。
流せ。
詰まるところをなくせ。
還元を増やせ。」
「循環が閉じれば閉じるほど、
効率化の圧が強まり、
最後に爆発する。」
AIは、その爆発の最初の破片だ。
「人間の創造性を奪ったのはAIではなくて、
循環が閉じていった社会構造の方だ。」
「……確かに、そう聞くと納得するな」
「つまり?」
「AIは敵じゃなくて、
“現状を暴く鏡”だった……ってことか」
「そういうこと。」
◆ AIと戦うんじゃなく、“テンションの流れ”を取り戻せ
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
一人が真剣な顔で問う。
「答えはシンプルだよ。」
俺はコーヒーの空カップを捨て立ち上がる。
「AIで時間を浮かせ、
本当に好きなことへ“エネルギーを流す”。」
「好きなこと……?」
「テンション理論では、
好きなことは“最も効率の悪い選択”として見られがちだ。
でもね、未来では逆だ。」
俺は続けた。
「好きでやることの方が循環を生む。
嫌々やる仕事は循環を腐らせる。」
「……だから未来では、
AIの効率化と、人間の“好き”が共存してるのか?」
「そう。
AIは土台を作り、人間がテンションで世界を揺らす。」
そこで、俺は少しだけ笑った。
「効率化の果てに残ったのは、
“人間の感情”だけだったからね。」
三人はしばらく黙っていたが、
最後に一人がぽつりと呟いた。
「……それ、未来の方がよっぽど人間的じゃん」
「未来はね。
人間が“流れる方向”さえ間違えなければ、
ちゃんと人間的になるようにできてるんだよ。」
そう言い残して、俺は光の中へ消えた。




