未来への寝言
なろうラジオ大賞6への応募です。1000文字。
「むにゃむにゃ……もう腹一杯で食べきれないぜぇ……」
お気楽な寝言に、思わずため息が落ちる。
ついでに拳も落とした。
「こら。寝ぼけていないで、明日の準備はできたの?」
「うぎゃ! 敵襲か!?」
「味方よ。もう一発欲しいの?」
リザは拳をもう一度握って見せた。
大して力を入れていなかった一発は痛くなかっただろうに、ロンは頭を押さえて激しく首を横に振る。
しかし、リザがもう片方の手に握っているものに気づくと顔をしかめた。
「まさか、おまえも参加するのか?」
「当たり前でしょう。一緒に邪竜を倒すって、子どものとき誓ったじゃない」
「そうだけど……。……無茶するなよ?」
「しないわよ、あんたと違って」
「まぁ、そうだけどさ……」
剣の手入れをするリザを見て、ロンは複雑そうな顔をしながらも、リザが一度決めたことを変えない性格と知っているため、自分も剣を取り出して手入れを始めた。
二人が生まれた辺境の町は、二人がまだ子どもだった頃に邪竜に襲われた。
それ以来、町は邪竜を追い返し、町を守り、再び邪竜に襲われることの繰り返しだった。
邪竜に荒らされた土地では十分に食べ物を作れず、子どもの頃から空腹だった。
幼かったロンは、俺が邪竜を倒して腹いっぱい食べさせてやる、と言うのが口癖だった。
ひと月違いで生まれ、いつだって側にいた半身のような幼馴染に、リザも一緒に邪竜を倒すと誓った。
あれから十数年がたった今でも、誓いは変わらない。
「リザ」
「なに?」
ロンがリザの名を呼んだ。
子どもの頃は邪竜を倒すと言って木の枝を振り回していた手には、今は鋭い剣が握られている。
長年、邪竜の侵攻を必死に食い止めてきた町は、倒すため戦うことを決意した。
「邪竜を倒したらさ、一緒に飯食いに行こうぜ」
「今だって同じ釜の飯を食べているじゃない」
「そうだけど、そうじゃなくて……二人でさ、洒落た店とかで、さ……」
ロンは照れくさそうに口ごもりながら言った。
いつも無鉄砲なくらい自信にあふれているのに、初めて見たその姿が何だかおかしくて、張りつめていた緊張が解けた気がした。
「……うん。行こう。二人きりで、食べに行こう」
リザの返事にロンの顔が輝き笑みを浮かべた。
どちらからともなく、肩を寄せ合う。
平和になったら町中で祝杯を上げて。
二人でお洒落な店で食事をして。
そして、いつか子どもが生まれたらたくさん食べさせたい。
寝言を確かな未来にするべく、邪竜を倒すために明日立ち向かう。
読んで頂きありがとうございました!