泣いた第二王子
まぁ、泣きわめく声がすれば人は集まって来るもので、何故か宰相さんまで出てきてしまった。さすがに王様は来ないらしいが、宰相さんでも大概である。
「いったい何が?」
宰相さんはたぶん侍従さん達に聞いたんだと思う。けど、俺が当事者だったので俺が答えなければと考えて、スルッと口から出た。
「第二王子様が出会い頭に失礼なことを言ったので、礼儀がなってないと注意したら俺は偉いんだぞと怒ったので、親が偉いだけで功績が無いなら子供の第二王子様は偉くないって王国法に書いてありますって言ったら泣きました」
「…………そうか」
一応チラッと侍従さんを見て確認したみたい、侍従さんが頷いたので何も言えなくなったらしい。
確かに王国法でいえば、子供に権力は無いということになっている。しかし現実はそうじゃない、貴族の子供は大人になれば貴族になるのだ。つまり将来のことを考えると従っているのが吉なのである。
皆わかっていることなのだが、そういう暗黙の了解的なことを知らない異分子である農民が王国法だけを知った状態が今だった。
「わからないんですけど、なんで泣くんですか?」
この時、宰相さんは言いにくいことを聞くんじゃないよ!と思っていたらしい。
「……恐らくだが、王子ということで、殆ど逆らう人間は居ない中で君に否定的な言葉を言われて『何故自分の思い通りにならないのか』と癇癪を起こしているのではないか?」
しかし、宰相さんも誤魔化さずに本音言い過ぎだったと思うんだ。子供の俺を躱すことなんて容易だった筈なので、宰相さんも第二王子のワガママっぷりには思うところがあったようだ。
「へぇー、子供なんですね!」
この時お前はいったいどの立場でものを言ってるんだ!とかお前も子供だろうが!とかツッコミたいのを我慢したんだと集まった人達に後から愚痴られることになる。
そして、俺は何だかえぐえぐと泣いている第二王子がウザったいなと思ってしまったのだ。
「泣けば思い通りになるとか思ってる自称偉い殿下は、いい加減泣いても思い通りにならないことを学んだ方が良いです」
「うぇっ…」
「泣いて思い通りになるのは言葉が話せない赤ちゃんだけだって父がチィ兄さんに拳骨してたんですけど、王様は拳骨しないんですか?」
宰相さんに確認したんだが、確認された宰相さんも困っただろうなぁ。でも何故か宰相さんは止めることはせずに俺たちに付き合うことにしたらしい。
因みにチィ兄さんは次男のことだ。ヤンチャで怒られた次男が泣いて、それを父が叱りながら拳骨していたのだ。
「拳骨はしないな、陛下はお忙しく殿下方との交流の時間がなかなか取れない。殿下方には教育係がついていて、その報告を確認してはいるが、直接の指導となるとなかなか…」
「………報告があるなら教育係に問題が無いということで、あ!第二王子様はチィ兄さんと同じく『そういう病気』なんですね!じいちゃんが言ってました!何でもかんでも敵に見えて反発したような態度をとっちゃう病気は大人にならないと治らないので無視しとけって!」
俺はにこやかに納得した。生意気で両親に反発ばかりする次男そっくりだったので、何だかウザったいなと思ったのだと納得した。
次男が問題児だったせいで、俺の放置が加速したといっても過言ではないし、煩くて粗暴な次男を好きじゃなかったのだ。
特に大剣豪とかあるわけ無いじゃん!訓練なんてダッセーことしてばっかじゃねぇの!と言われたことは忘れない。明らかに馬鹿にした態度だったので、さすがの俺も信じなかった。
というか、じいちゃんが先んじて『次男はそういう病気なので相手にせんで良い!』と言っていたので、それを信じていた。
「な、なるほど?そなたの、っ、祖父は、なかなか…ものを知っているのだな……ブフッ」
その時はなんか震えてる?と思ったんだが、思い返してみれば宰相さんは笑ってたと思う。
「はわっ!はい!じいちゃんは何でも知ってて、大剣豪の秘伝の訓練とか生活魔法とか教えてくれる凄いじいちゃんです!」
俺はじいちゃんが褒められた!と嬉しくなって余計なことを言った。後日、どういうことだ!?とじいちゃんに確認しに偉い人が行ったらしい。
でも、実際じいちゃんのやらかしだと思うので、謝ってはいない。