領主の屋敷
「エクス君は基礎学部に入学するまでに文字の読み書きと、簡単なマナーを覚えてもらう」
領主は男爵という貴族だったが、本人曰くちょっと偉い平民みたいなものということで、幼いながらに親と離れなければならない俺を憐れんでくれていた。
だが、普段から放置されてた俺は、特に寂しそうにするわけでもなく、なんか新しいことがいっぱいだ!と楽しんでいた。
因みになんだが、入学するまでの三ヶ月で文字や礼儀作法を教えてくれたのは領主の善意だったらしい。
王都の学園では、大賢者持ちとはいえ平民、しかも田舎の村の農民ってことで、暴れ猿のようなのを想像していたようで、まずは椅子に座って勉強するということから教えなければ!なんて思ってたらしい。
王都までは半月かかるので、実質二ヶ月半くらいだったんだけど、まだまだ素直過ぎた俺は、教えられたことを素直に受け止めて、スルッと全部覚えてしまったのだ。
後から気がついたんだが、大賢者という職業にはアーカイブとかいう特性が付いていて、学んだことは忘れないらしい。
儀式をしてから移動したり勉強したりで、ステータスの確認を忘れていた俺が悪いんだけどな。
因みに、儀式で神父さんが告げるのは神様から授かった部分だけで、その他の自力で取得したスキル等は読み上げない。これもステータスを確認した時に知って驚いたことの一つだ。
「なんか、この子めっちゃ頭良いです!」
「文字を覚えて貴族特有の言い回しまで理解出来てる!?」
「旦那様!エクス君が訓練中の兵士に絡まれて、普通に兵士をぼこぼこにしました!」
「エクス君ヤバいです旦那様!なんか身体強化が既に使えてるし武器強化までします!木の枝で鉄の剣が真っ二つにされました!」
「二ヶ月で問題起こしまくりでは?」
次々報告される問題行動を、隠さず全て上に報告していた領主。
自主的に問題は起こしてないのに問題児だと思われたのはこの時の報告のせいだと思ってる。
領主の屋敷で二週間過ぎ、貴族っぽい生活にも慣れた頃。
領主の奥さんにお茶に誘われて、学んだマナーを実践しながらお菓子をウマウマ食べていた。
「転生者や転移者が結構な頻度で存在するから、便利なものが多いし、お食事も美味しいのですよ」
「それ習いました!転生者や転移者は不便とか不味い料理が大嫌いで、殆ど全員が楽を追求し始めるとか。そのおかげでこの世界は転生者たちも満足するような便利な道具や美味しいお食事があるんですよね!」
「よく出来ました、お食事のマナーも及第点でしょう」
「ありがとうございます、奥様!」
時々優しくテストしてくる奥さんは、正解すると追加でお菓子をくれるのだ。
その時、初めて見た、変な赤黒いオーラを纏うメイドさんが、新しく淹れたお茶を奥さんのカップに注いだのだ。
因みに、そのお茶もなんだか赤黒いモヤが出てた。
「奥様、そのお茶なんか変だよ?あとそのメイドも変だよ?」
因みに言うが、いくら勉強していても俺は素直だったのだ。素直にスルッと言葉が出ちゃうタイプで、まだ人を疑うことの無いピュアなお子様だったのだ。
俺がスルッと素直に言った途端にメイドは逃走した。俺は普通に驚いたが、奥さんの護衛は素早く追いかけてメイドを捕縛した。
「???」
「……魔眼だものねぇ」
混乱してる俺を見て、奥さんが言ったこの時に魔眼というものがあることを知った。ただ、魔眼については学園で学ぶので詳しくは教えてもらえなかった。
捕らえたメイドは領主に横恋慕して奥さんの毒殺を企んだとかいう、ちょっと頭が良くない系の人だった。
「メイドが貴族夫人になれるわけ無いじゃないの、ねぇ?」
「貴族は魔力量とか、血統とかで政略結婚が基本だって習いました!なんかマナーの先生が一応俺もハニートラップに気を付けてって言ってました!」
この時の俺は、ハニートラップを蜂蜜の罠だと思ってた。だから、貴族は蜂蜜の罠に掛かりやすいんだと思い、俺は拾い食いはしないから蜂蜜の罠にはかからない!と変に自信満々だった。