原点2
「えぇぇ……」
走り去った祖父に、喜んでくれなかったとがっかりした俺は、気落ちしながら日課の石斬りを行った。
この頃には身体強化に武器強化と、知らずに魔力で強化しまくりだった。
そして……
スパッと石が斬れちゃったのだ。
「あれ?斬れた?斬れたぁぁぁっ!ひゃぁぁっ!俺も大剣豪になったー!」
大興奮だった。これによって俺の『何でも斬れる』という思い込みが根強く、大人になってからも常識で覆せない程に根強く、むしろ魂に刻まれたレベルで根強く残ったのだ。
その頃祖父は、走って畑に行き、父に俺が天才だ!と叫び、走って家に行き母に俺が天才だ!と叫んだそうだ。
だが、いつもテキトーなこと言う祖父なので父も母も相手にしなかった。それに気を悪くした祖父は、せっかく教えてやったのに!とへそを曲げて詳しいことを伝えるのをやめてしまったそうだ。
ついでに俺も生活魔法をマスターしたのに褒めて貰えなかったので石が斬れたことも褒めてくれなかったらどうしよう?と悩んで黙ってた。
さて、石が斬れた俺だったが、勝手に作ったイメージの大剣豪は慢心しない!となっていたので訓練は継続していた。むしろどんどん負荷をかけたりしていた。
祖父が大剣豪と聞いていたのに、何故かイメージの大剣豪は全く祖父とは違う渋い感じのイケオジに代わっていた不思議。
幼いながらに祖父は大剣豪ではないと感じとっていたのだろうか?
それとも家族の誰もが俺を半ば放置していたので寂しかったから幻視でもしていたのか?
俺の想像の大剣豪はあらゆる助言とともに、夢の中で鉄を斬り、滝を斬り、魔法やドラゴンすら斬っていた。人質は斬らずに悪人だけを斬る大剣豪、人を斬ったが取り憑いた悪霊だけが斬れる大剣豪、ちぇぇいっ!とツボを突くと病人が元気になっちゃう大剣豪。
そう、夢の中の大剣豪によって俺の『斬る』という想像が補強された。大剣豪が斬ってるから斬れるんだと思い込みが増したのだ。
時々、なんか違う?という大剣豪もいたが、おおよそ夢の中の大剣豪は凄かった。子供の想像力は無限大だ。
幼い俺は、夢の中で大剣豪と戦ってた魔法使いを見て魔法もスゲェ!と浮気したが、最終的に大剣豪に戻った。
そうこうしていたら十歳になった。
十歳になると、誰もが教会でステータスを貰うのだ。職業やスキルを神に授けられる儀式である。
儀式で授けられる職業やスキルは、その人に向いている職業だったり、持ち得る才能や得意なことを示してくれているだけで、やりたいことをやれないということはない。
この時の俺は、きっと大剣豪だ!とワクワクドキドキしていた。
教会で儀式を行うのは俺を含めて三人だった。他の二人は教会の無い隣の村からやって来た子達だったので、この村では俺だけだ。
だから俺は友達も居なくて訓練ばかりだったんだけどな……
それでも、十歳の儀式は娯楽の無い村の一大イベントみたいなもので、村の暇人達が集まっていた。
先に二人を済ませるということで、俺は待っていた。なんか神父さんが奥から出した石板に手を置いて、神父さんが祝福の言葉を言うと石板が光るのだ。
「ニシノ村のレナは職業回復術師、スキルは回復魔法を授かった!」
神父さんが厳かに告げると、見学に来ていた村の皆が『おぉぉぉっ!』みたいな感じで驚いていた。
当時の俺は良くわからなかったんだが、田舎の村に回復魔法が使える人が居れば、村人の生存率が上がるのだ。
村の皆からすれば、回復魔法良いなぁって感じだったらしい。
「ニシノ村のマイクは職業剣士、スキルは剣術を授かった!」
またしても『おぉぉぉっ!』となっていた。剣士が居れば村を襲う魔物や盗賊等に対する戦力が増えるかららしい。
そして、とうとう俺の祝福だ。当然この時の俺は大剣豪を授かると思っていたし、大剣豪になる気満々だった。
村の皆も俺が剣の訓練をしているのを知っていたので、剣士じゃないか等と話していた。
「ココノ村のエクスは……なッ!?これはっ!」
神父さんは驚きながらも俺に告げたのだ。
「エクスは、職業大賢者!スキルは創造魔法!」
一瞬何を言われたのかわからなかった。俺もだが、村の皆もだ。だがじわじわと理解が及ぶと村の皆は驚愕の悲鳴を上げた。
そして……
「大剣豪じゃなかった!なぁんでぇっ!やだぁ!大剣豪がいい!だいけんごうぅぅぅっ!うぇぇぇんっ!」
俺はギャン泣きした。