宰相クオリティー
大剣豪仲間が増えるかと思ったけど、遠慮されたので少ししょんぼりした。何故だか会う人皆、石を斬るというと変なものみる目で見てくるのだ。
それを、大剣豪は凄いから都会の人が目指すものじゃないんだな…と解釈してたのはポジティブ過ぎたと思っている。
「……なんか、俺は父上に会えないのに平民が会えるのが、なんか嫌で、色々言ってごめんね?」
殿下が急に謝ってくれたんだが、この時は『なんか凄い職業だけど頭が残念な子だから父上達が管理しなきゃいけないんだな』と思ってたらしい。
殿下は冷静になれば自分の立場や権力というものをちゃんと理解出来てる子供だったのだ。
「ふむ……殿下、一つ私から頼みがあるのですが」
「なんだ?」
「殿下も理解しているでしょうが、このエクスは貴族や王族というものを素直に勉強した内容そのまま受け取っているようなのです」
「あぁ、うん。そうだろうな」
「まぁ二ヶ月で農村の少年がこれ程出来ているというのは奇跡としか言えないのですが、これだと支障が出ると思うのです」
「…え、俺にこれのお目付け役しろって?」
「いえいえ、お友達になって差し上げるというのはどうでしょう?実のところ、偶然にも同じ年齢の殿下が、国の事情で一人王都に来なければならなかったエクスに慈悲を示し第二王子の名で保護するという名目で城に呼ぶ理由をつけてくれると私が楽なのです」
「宰相!?」
殿下は俺が目の前に居るのにそんなに明け透けに言って良いのか、という意味で宰相さんを止めようとしていたらしい。
でも俺は、この会話をこう解釈したのだ。
「宰相さんは、友達のお家なら殿下が呼べば俺が来れるから、俺と会いたい時に今日みたいに色々待ったりする必要無くなっていいな!って言いたいんですよね!」
宰相さん的には俺に殿下という紐をつけといて、他国に行ったり他の貴族に利用されたりしないようにしたいなという思惑もあっただろうが、俺はそのまま受け取った。
「…その通り」
なんか一瞬間があったが、にこやかに同意した宰相さん。
「殿下も学園に行く時に顔見知りであるエクスが居た方が気が楽でしょう?」
「………わかった」
この時、宰相さんの笑顔から『断らないよな?』という圧を感じたと、後で殿下から言われた。
どうやら宰相さん、俺の素直なところに不安を感じたらしい。これは程よく性格の悪い第二王子と一緒に居てもらった方が良いとの判断だったようだ。
ついでに、なんか役にたって無さそうな第二王子の付き人も変更して、俺と友達になったという理由で第二王子の身の回りの人事整理も行う気満々だった。大賢者の少年に対応出来る人間をつけなきゃいけないとかで理由は充分らしい。
というわけで、これにより侍従さんが部署異動して第二王子のお付きになった。侍従さん的には出世なのか左遷なのか判断に困る人事だったらしい。
これを聞いたとき、俺は王子の付き人なんだから出世では?と思ったんだが、当の殿下が侍従さんに理解を示していたのが解せなかった。
「私はジーク・トクガーワ。トクガーワ王国の第二王子だ」
「将来の夢は大剣豪!職業大賢者のエクスです!」
「……本当にエクスは転生者ではないのだな」
ちょっと意味がわからず、首を傾げたら説明はしてくれたんだ。
「転生者や転移者ならトクガーワという国名を聞いて、何らかの反応が有るらしい」
説明されてもちょっとよくわからなかったけど、宰相さんは一応の確認というだけだったようだ。