原点
俺の原点が何かと聞かれたら、それは祖父の言葉だと答えるだろう。
大人になって思い返してみると、祖父はテキトーなことを言う人だったし自分は単じゅ…素直過ぎる子供だった。
そう、素直過ぎた幼い俺は祖父の言葉を鵜呑みにして頑張り過ぎたのだ。
あれは五歳の頃だった。
田舎の小さな村の農家の三男だった俺は、母が四人目を妊娠し、父と畑仕事、長男は村の自警団、次男は他の子供たちと遊びに出かけるため放置気味だった。
その俺の相手をしてくれていたのが祖父だったのだ。
「エクス!じいちゃんはな、若い頃は大剣豪と呼ばれてバッタバッタと魔物を倒してたんだぜ!」
「ほえぇっ、じいちゃんスゲェ!俺もじいちゃんみたいなだいけんごうになるぅっ!」
因みに、祖父は村から出たこともなく、ずっと村で農家やってると後で親に確認した。
「おう!じゃあじいちゃんの秘伝の鍛え方教えちゃろう!」
「ひでん?ってなに?」
「秘密ってこった!」
「おぉ!ひみつ!何するの?」
「まずは足腰を鍛えることだ!そんで柔軟もしっかり!あとは父ちゃんの手伝いでクワを振る!雑草を抜いて指の力を鍛えるのも大事だぞ!」
「???」
「よし!まずは畑の周りを走ってこい!」
「はいっ!」
本当に、俺は素直過ぎたのだ。祖父は腰をやってしまったので父の手伝いが欲しかったらしい。
長男は自警団に参加しているし、次男は生意気盛りのきかん坊、素直に話を信じる俺は五歳でも居ないよりはマシだと、特訓のふりして畑仕事を手伝わそうとしたらしい。
そして、俺は祖父の言葉を信じて畑回りを走り、子供の体を痛めないように柔軟体操をして、昔長男が使ってたらしき子供サイズのクワで畑を耕し、指の力で雑草を抜くことを繰り返した。
「じいちゃん!大剣豪の技教えてー!」
「おう!大剣豪ってのはな!この世に斬れぬもの無し!ってやつだ!」
「おー?」
「いいか?大剣豪は何でも斬れる!岩だろうが鉄だろうがドラゴンだろうがだ!」
「スゲェッ!!」
「だろぉ!大事なのは斬れるって思いだぜ!斬れると思えなきゃ斬れねぇからな!何でも斬れるって思いが大事だぜ!」
「わかった!俺何でも斬れる!」
「だが何でも斬れるだけじゃねぇ!大剣豪くらいになると、斬るものと斬らないものを自由に選べるんだぜ!」
「そうなの!?」
「まぁ見てな!」
祖父は石を取り出して、地面に置き、その辺に落ちていた木の枝を石に向けて振り下ろした。
一見何も変わらなかったが、祖父が石を触ると、真ん中からぱっかりと割れたのだ。
「ふぉぉぉっ!」
俺は大興奮だった。祖父の話しは本当で、秘伝の訓練を頑張れば俺も出来るようになると、本気で信じてしまったのだ。
因みに、祖父の斬った石の正体は石芋という川原の石そっくりの芋だ。先に斬っておいたのをくっ付けていただけだった。
この芋は中まで石のような見た目で、斬ってから三秒くらいでカチカチに固まって食べられなくなる。
食べるには先ずそのまま煮て火を通してから斬るしかない上にクソマズイ。
勿論、当時の俺は石芋なんて知らないので普通に信じた。
祖父の言う訓練以上に訓練した。勿論祖父はテキトー言ってるだけだったので石が斬れるようになるわけないのだが、素直過ぎる子供の俺は毎日畑仕事以外の時間を訓練に当てたのだ。
「じいちゃん!石斬れない!」
「おう!まだまだだからな!斬れないとか言ってるうちは斬れねぇよ!心の眼で見て境界を斬るんだ!」
祖父は本当にテキトーだった。俺があしらわれ過ぎとも言うが、当時七歳だったので仕方ないと言えば仕方ない。
妹が産まれてそっちに興味がいったってのもあったらしい。
そして九歳の頃、祖父に言われたこと以外にも村にやって来ていた冒険者なんかに訓練方法の話を聞いたり、村の小さな教会で生活魔法の手習いを受けたりと忙しくしていた俺は、完全に何でも斬れると思い込み、俺が未熟だから斬れないのだと頑張りに頑張っていた。
この頃にも祖父はやらかしていた。
「エクス!生活魔法習ったんだよな!」
「うん!着火と給水!」
「知ってるか?生活魔法ってのはそれだけじゃねぇんだぞ?」
「えぇっ!?神父さん教えてくれなかったよ?」
「まだお前がちいせぇからな!でもじいちゃんは特別に教えてやろう!」
「教えてー!」
「生活魔法には着火や給水以外に、送風と盛土、更に洗浄と収納があるんだぜ!」
「スゲェッ!」
「送風と盛土は簡単だけど洗浄と収納は魔力を自在に操れないと使えない技だ!だからちいせぇお前には教えなかったんだな」
因みに、送風と盛土は本当に生活魔法にあるがそよ風を吹かす魔法と土を盛ってかまどを作る魔法なので村では使わない。だから教えてなかったらしい。
洗浄と収納は完全に祖父の創作だった。
でも信じてしまったのだ。ついでに魔力を動かす訓練も追加して、その最中に身体強化が出来ることに気がついたので、勘違いが加速した。
そして、何故か、出来てしまったのだ。
「じいちゃん!俺生活魔法マスターしたー!」
「は?」
「送風!盛土!洗浄!収納!」
そよ風を起こし、土を盛り、体を綺麗にして、謎の渦巻きから木の枝を取り出した。
「う、うぉぉぉっ!」
それを見た祖父は、叫びながら何処かに走って行った。
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