仮住まい
縄張りからほんの少し外れた場所に具合のよさそうな巻き貝が落ちていた。右回りにくるりと幅広く、目立ちすぎない琥珀色。てっぺんはツンと上を差し、いかにも強そうだ。
持ち主が中に潜んでいるかもしれないので丸一日様子を見た。深夜、でかいやつが上をよぎった拍子にひっくり返ったので、中身は空だと分かった。狭くなって脱ぎ捨てた殻なら取り返しにやってくるようなことはないだろう。
急いで岩陰を出、潜り込む。思った以上に肌馴染みがよく、すぐ気に入った。少しばかり隙間は残るが、知らぬ間に抜け落ちるほどではない。じきにぴったり落ち着くだろう。
餌場で会った仲間に自慢をして歩いた。やあ、ついに念願の棺桶を見つけたぞ。
第12回 毎月300字小説企画、お題は「装う」でした。