♰71 『トカゲ』の襲来と銃と”火”。
残り3話だと気付きませんでした。
ので、本日2話目更新。
舞蝶ちゃん視点、戻ります。
咄嗟だった。
月斗を行かせるしかないと思った。
月斗なら、影で一瞬にして移動出来る。
でも、月斗の能力は、周囲に晒していいものではない。キーちゃんなら、いいが。
そうだ。キーちゃんは見えない。その結界を優先生がかけてくれた。ヒョウさんと一緒に完成させた術式だ。
目の前でも、優先生が使った術式を見たから覚えている。
だから、彼の名を呼ぶと同時に、その術式をかけた。
返事を聞いて見てみれば、すでに月斗は行ったあと。優先生の元へ駆けつけてくれただろう。
風間警部は、月斗の事情を知らないし、影移動にも驚いただろうな。
チラッと見れば愕然とした顔をして固まっていた。口止めついでに、事情を話しとこ。
先ずは、この戦いの行方を見終えないと。
あと優先生の無事。
聞こえてくる会話からして、優先生は無事。
月斗も参戦するが、影の特殊能力は他者には見えているみたいで、あまり月斗が能力を使って暴れるのは得策ではないな。見えてないからと言って疑惑は残さない方が、月斗のためだ。
そう思っていれば、同じ考えの優先生が月斗を止めて、自分でやるとカッコつけようとしたのだが、そこでキーちゃんのぴえぇえん! という声が放たれた。
月斗達の目の前には、キーちゃんがいる。
ピンポイントで怪物を消してくれたおかげで、よく見えるわぁ~……ってあれ? キーちゃん?
さっきまで隣にいたような、いなかったような。
藤堂と隣を見上げてしまったが、空中に浮遊している龍なんていなかった。
バッと窓の外へ目を戻す。
キーちゃんいつの間に!?
ビックリ仰天。
月斗に引っ付いて一緒に行っちゃったのかな? いや気付いてなかったみたいだから、月斗のあとを追ったのかな? なんか月斗が能力発動した影の中に、キーちゃんは入れるし……。
キーちゃん、あと何が出来るの? 謎だわ……。無敵な私の『式神』ちゃんよ。
優先生は、ヒョウさんのカマを召喚するというのでお任せした。
だいたい、もう敵はほぼ戦闘不能状態だから、ヒョウさんが『完全召喚』される必要もない。爆撃を難なく防いだあと、ザックリと宣言通りリーダーの三ノ輪の右腕を切断した優先生。
「お嬢……見なくていいんですよ?」と呆れ顔の藤堂が、気を利かせたつもりなのか、言ってくる。
戦争を見ているのだから、血を見るのは今更ではあるが、多分今日一番の過激な光景を見せているのは、優先生の腕切断だろう。
大量出血ですね。大丈夫大丈夫。望遠鏡越しなら、全然平気。
そこで、禍々しいオーラをまとう妖刀を持った父が歩いてくる姿が見えた。ポイント4も合流か。おしまいだな。
もう術式封じの効果が切れたのか、三ノ輪が自分の血を糧に不格好な『負の領域結界』を、作り出そうとしたけれど、それを一刀両断。
あれが……生気を吸うとか言う妖刀か。術式も打ち消した、いや吸い取ったのかな。
父は、月斗に影移動ではなく、飛んで戻れと釘をさしたらしい。
他に”見えている者”に能力を見られるなってことね。
待つ間もなく、月斗はキーちゃんを抱えて窓から戻って来た。
窓辺にしゃがんで、優先生の無事を報告してくれる明るい笑みの月斗。
自分の正体がバレるのも顧みずに、私の頼みを引き受けて優先生を助けに行ってくれた吸血鬼青年。
ソファーの上に立ち、首に腕を巻きつけて抱き付いて、「ありがとう」とお礼を言う。
喉を痛めないように、慎重に紡ぐ声。
あの家に戻ってから、月斗にはずっと助けられている。お礼は伝えてきたけれど、声に出すのはこれが初めてだ。
すりすりと頬擦りする月斗の頬が心なしか熱い。抱き締め返す腕は、きつめでも優しい。
この様子……もしや、と思ったけれど、やはり、月斗はゴクリと喉を鳴らす。
かなり堪えたけれど、喉を鳴らしてしまったのだ。吸血鬼の執着症状。
ここ……藤堂以外に、風間警部もいるんだけど。
「執着症状……? てか、月斗……影の中に入ったよね? 影って言ったら……いやいや、その前に! 執着症状はマズいだろ!」
風間警部がツッコミを入れるけど、月斗が放してくれないので、振り返れない。
てか顔熱いよ月斗!?
「大丈夫です……組長も知ってますんで」
と、諦めの境地と言わんばかりの遠目である藤堂の顔は見えた。
「はぁ!? それでいて許されてんの!? 二年半前の事件! 昨日会った増谷に聞いたぞ!? 吸血鬼が舞蝶ちゃんのそばについているってこと知って、心底驚いていた!」
増谷。
例のイカれた吸血鬼から身を挺して『雲雀舞蝶』を守って、瀕死にまでなった護衛の名だ。
今日増援として来ているとは聞いていたが、私の視界に入らないようには配慮したらしい。話を聞く度に、私が微妙な反応するから、トラウマとして会わせてはいけないと判断された。
見てもわからないので、別にいいけどさ。会わないに越したことはない。
「あの件では『血の治癒玉』も使われた事件だから気になってたけど、組長の娘が被害者だからって極秘扱いされてたソレ……発端は、吸血鬼の執着心の暴走! あの増谷が知ったら、切りつけてくるぞ? 大丈夫じゃないだろ?」
『血の治癒』こそが、吸血鬼の血と術式が合わさった治癒薬。瀕死の怪我も治す特効薬は、使用記録も残されるほど管理が厳重だ。
ポンポンと、月斗の背中を叩くと放してくれた。
真っ赤な顔でうるうるとした黄色い瞳で見てくる。
そんな捨てられそうな犬みたいな顔をしなくとも、捨てないよ? と頭をなでなですれば、そこにキーちゃんも顎を乗せて、その顎ですりすりと撫でまくる。
「あー……増谷は、クソ真面目なあったまでっかちなんで、あり得るかもしれませんねぇ。だから、ここでは喉鳴らすなって言ってんだよ」
へらー、と笑ったあと、怒って引きつらないようにした顔で月斗を叱る藤堂。
みんなにすぐ切りかかると思われている真面目なヤクザとは……?
「はぁーもう。じゃあ、増谷には会わせないようにな」と、肩を竦めて月斗に忠告をする風間警部。
「作戦A成功。繰り返す、作戦A成功」と、マイクで告げながら、風間警部は真っすぐと見つめる私に笑みを向ける。
ふと、違和感を覚えた。風間警部の後ろ方面。
なんだろう。術式? いや、吸血鬼の特殊能力? どの気配とも一致しないような……。
私の視線に気が付いた風間警部は振り返り、ハッと脇下の銃を取り出した。
サッと、月斗は片腕で私を庇い、銃を片手に構える。見開いた黄色い瞳で銃口の先を定めるために探す。
同時に、ライフルは置いて、リボルバーを構えた藤堂も、目を凝らして睨み付ける。
次の瞬間には、的が姿を現す。
天井に這いつくばったトカゲ人間のような怪物が三体。目はないが、牙はある大口。鋭利な爪を三本持つ両手両足。
打ち合わせることなく、左は藤堂が、真ん中は風間警部が、右は月斗が、三発以上を撃ち抜いた。銃声は抑えられた銃でも、同時に三丁が三発以上発砲されれば、外も聞き付ける。
〔銃声? 何がありました? ご無事ですか?〕
声量を抑えて焦ったように尋ねる優先生に、私は声を返せない。
「チッ!! 奴ら! マジで来やがった! 緊急報告! 『トカゲ出没』! 『トカゲ』が『出没』!」
舌打ちをして、風間警部が通信で伝えた。
「『トカゲ』さんが乱入なさったか」と、藤堂がリボルバーに弾を補充し直しつつ、優先生に伝える。
「作戦Aは成功したが、『トカゲ』に警戒しろ! 油断するな!」と、まだ部屋の中を警戒する風間警部は、通信機で伝えた。
敵を制圧した時が、気が緩むので、奇襲の絶好の機会。
公安の宿敵には、『トカゲ』という組織であり主犯格の者がいる。今のような怪物を中心に、公安と攻防を繰り広げているそうだ。術式だけど、独自に進化している技だとか。
今回、公安も動くと聞き付ければ、襲撃の機会だと怪物を送り込んでくる可能性が、僅かながらにあると危惧していた。
「『キー』と『待機組』は、今から合流して、建物から脱出する!」
風間警部は、この建物から脱出して、外の戦闘員と合流する決断をした。
中には、見せかけの囮として、まともに戦えない子どももいるから、護衛をつけてはいるけれど、外の方が安全だ。戦闘員が揃っているのだから。
ソファーから下りようとすれば、窓から入り込む目なし怪物がぐわっと大口を開いてかぶりつこうとしたけれど、咄嗟に、月斗と同じ銃を創造して、眉間を撃ち抜いた。
果たして、ヘッドショットは致命傷だったのだろうか。反動で仰け反った怪物に、一拍遅れてパパンッと左右、そして胸にパンッ。合計三発が風穴をあけて怪物を消滅させた。
「反射的に、ヘッドショットっ……!! しかも、なんで銃がっ……ええっ、色々話したいけどっ! 合流して脱出! 行こう!」
風間警部が、うずうずした後に身悶えては、移動を始めさせる。道具はこの時のために用意しただけだから、特に持たず、風間警部の部下と藤堂の部下と一緒に部屋を移動。
さっきいた待機部屋が見えてきたかと思えば、銃声が響いた。
焦った風間警部の指示で足を早めて「風間だ! 入るぞ!」と声をかけて慎重に飛び込んだ。
私達は廊下で中を覗くが、問題はないみたいだ。護衛一同が働いたようだし、真っ赤な刀を持ったグラサンの少年も活躍したらしく、悠然と立っていた。
あれも、妖刀の類だろうか。ゆらりと湯気が見えた。
「コイツら、『トカゲ』じゃん。結託、なわけないか。乗じて来やがって。作戦の方が済んだなら、俺の部下、もう呼んでもいいですよね? 俺が『トカゲ』の尻尾、今度こそ掴んでやりますんで」
今回の組織と手を組んだと一瞬は疑っても、ただどさくさ紛れの奇襲だと理解して、その『トカゲ』を自分の部下と追うと言い出すグラサン少年。
「無駄だと思うけど?」
「やってみなきゃじゃないですか」
そう言葉を交わして、横切ったグラサン少年を、風間警部は止めなかった。
部屋の中で部下達と護衛に指示し、脱出を誘導し始めたが。
「!」
廊下の先から、巨大鰐のような怪物がズタズタと二匹、前後から迫る。集中砲火で巨大鰐をハチの巣にするが、その後ろにはまだたくさんのトカゲ人間や蛇が来た。
「チッ!! 邪魔だ! 俺が消し炭にする!!」
「バッ! 若頭くんっ! それは!」
ボォッと刀に火を灯す刀を構えたグラサン少年を、風間警部は止めようとしたが、私と一緒に後ろの廊下の怪物を撃っていたために出遅れる。
業火の炎が振り下ろされた刀から放たれた。
特大の火炎放射のようにネズミ一匹通らないほどに、廊下を飲み込んだ。
お、おわぁー……”火”だな。
元護衛・増谷。伏線。
2章が残り僅かだと気付きませんでした!
明日2話更新して、2章終わりますね!
家出編の3章の準備は終えてないので、また仕事が落ち着いたら、更新再開予定にします!
2023/11/06