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♰68 奇襲の最上級のおもてなし。(敵組織side)


戦闘開始!


三人称視点、敵side!




 裏の世界の転覆を狙う組織。彼らは皆、周囲からいい評価を受けなかった術式使いだ。

 その主犯格であり、リーダーである三ノ輪(みのわ)は、想定通りの野心家の男だった。


 高みを目指しているのに、手が届かない。

 どんなに努力をしても、結果は満足いかない。


 高みを目指すために、模索しているうちに、この組織が出来上がった。

 似たような術式使い達を集めて、そして密かに力を蓄えていた。ひとえに、裏の高みにいる連中に一泡を噴かせるためだ。

 それはパワーバランスを崩すという野望に変わり、自分達こそが新たな頂点に君臨すると、組織の者達は野心に酔った。


 初めの奇襲で『夜光雲組』の組長の娘という大物がいたのは、幸先がいい。

 ただ、運悪く()()()()使()()()()()がいたことは、災難だ。

 あの『負の領域結界』なら、引きずり込んだ者を皆殺しにしてくれただろうに。

 そして、正体不明な襲撃者に危機感を抱いて、怯えてくれたはずなのに。


 でも、いい方に考えた。

 天才術式使い氷室優も、巻き込めたのだ。

 いかにもエリートな術式使いであり、研究者として開発もするような鼻につく氷室優も、始末が出来るいい絶好の機会。


 思惑通り、襲撃に最適な会合が開かれた。

 『夜光雲組』は周辺の組を集めて、今回の奇襲についての会議をするはずだ。トップの『夜光雲組』と実力主義な『紅明組』と中堅『七夕(ななゆう)組』の三つを潰せれば、日本の裏のパワーバランスは切り崩したも当然。



 なんて楽勝! いいや、自分達が最強なのだ!



 三ノ輪は、優越の笑みを堪え切れず、会合場所の敷地内に乗り込んだ。四方で戦闘要員が出てくるから、適当に戦いながら、戦闘員をおびき出すまで待つ。


「(しっかし、チョロい。手ごたえが思ったよりない)」


 これでは、溜め込んだ『負の領域結界』を使うまでもないのではないだろうか。

 なんて思っていれば、その姿を見た。

 白衣姿で、氷の足場で着地をして派手に登場した天才術式使い氷室優。涼し気な美丈夫。


「氷室優っ!!」


 才能をひけらかしたムカつく登場には、腹が立つが目の前に出てきて嬉しいことこの上なくて、三ノ輪は笑みをつり上げてしまう。


「三ノ輪、でしたね。とっくに挫折して一般人になったのかと思っていましたよ。揃いも揃って、落ちこぼれた者同士の集いですか?」


 カチン!

 微笑で侮辱発言をする氷室に、見事に怒りを湧かせる三ノ輪達。


 彼らの地雷だとわかっていて煽っているのだ。

 放たれた釘の攻撃を、腕一振りで氷柱を放って相殺する氷室。


「やめろ!」と、三ノ輪は止めた。

 まともにやり合っても勝てない相手だと、三ノ輪はよく知っているのだ。

 だからこそ、『負の領域結界』を取り出して使おうと構えた。

 濁る歪な紫の水晶。『負の領域結界』の術式道具だ。


「『負の領域結界』ですか? 一体いくつ備えているのですか」


 それを一瞥して、眼鏡をクイッと上げて尋ねる氷室。


「ははっ! いくつだと思う? この前の『負の領域結界』には運よく巻き込まれたようだが、楽しめたか?」


 皮肉たっぷりに尋ね返す三ノ輪。


「ええ、あれはとても追い込まれましたね。すごいすごい」


 拍手をする氷室だが、小バカにした感を全面に出していた。


「何がおかしいんだ!? なんでてめぇ元気なんだよ!」


 キレて問い詰める。

 あの『負の領域結界』に閉じ込められたくせに、そんな形跡もないほどにピンピンとした氷室が、不思議でならない。


「なんでって、苦戦はしましたが、こちらが圧勝したので、こうしてピンピンしているのですよ? ああ、そうだ」


 氷室は、スッと右手を頭の位置まで上げた。


「落ちこぼれ者達に冥途の土産に素晴らしい物を見せて差し上げましょう。『最強の式神』の一人。その『()()()()』を」

「……はっ?」


 氷室のその言葉を理解出来ずに、ポカンと口を開いてしまう。

 『最強の式神』の一人と言われれば、氷室家の『最強の式神』が真っ先に浮かぶ。

 『古の式神』であり、現在では『完全召喚』も不可能で、天才術式使い氷室優ですら、武器だけを召喚してその力を振るうのが限界だと云われているはず。



「せっかくの奇襲ですからね。最上級のおもてなしをして差し上げましょう」



 笑顔の氷室の上から、空間が闇に染まり、のっそりと巨人のような骸骨が大きなカマを背負って出てきた。

 真っ黒な着物とカマと頭蓋骨。強者の風格をまとう『最強の式神』。


 それには、味方ですらも、後退りしてしまいたくなるほど気圧された。


 三ノ輪も、仲間と青い顔をして現実を疑う。が、その『最強の式神』を前に、余裕綽々に佇む氷室の勝ち誇った笑みが、怒りを急激に沸騰させた。


 天才術式使い。格上。上の者。

 自分達を見下す者。それは宿敵。


「臆するな!! あの『式神』から叩き潰すぞ!!」


 そう指示を下した。

 先ずは、この場の強敵。『最強の式神』を破壊するしかない。もしくは、術者である氷室を潰す。

 しかし、『最強の式神』がいる以上、それはほぼ不可能。


 カタカタカタカタッ! と、顎を鳴らした『最強の式神』は愉快そうに笑っては、大きくカマを一振りすると、一斉攻撃で放った術式が相殺された。


 一斉攻撃が、一体のひと振りだけで相殺……!


 その『最強の式神』は、自ら前に出ては、敵の『式神』を切り裂いて破壊し始めた。

 蹂躙が始まる。どんな大きな攻撃も『式神』の一振りで終わってしまう。

 『恐怖』が、笑いながら暴れている。


 『最強の式神』が、離れているのはチャンスだ! と、三ノ輪は犬型の『式神』を『召喚』して、白衣のポケットに手を入れたまま、余裕に佇む氷室を襲わせた。


 しかし、氷室が何かした素振りはなかった。

 飛びかかった犬型の『式神』はピキンと頭が凍ってしまい、もがいている間に、どこからか狙撃されて破壊されたのだ。




 塔内の窓辺。


「アイツがリーダーみたいですけど……狙っちゃだめですかい?」


 スナイパーライフルを構えた藤堂が尋ねた。

 犬型の『式神』を撃つようにポインターライトで指示した隣の舞蝶は、ふるふると首を振って軽くツインテールを揺らす。だめである。


「お嬢はだめって言ってますが、先生は平気ですかね?」


 月斗が、この場の二人に言っているように見せかけているだけで、本当は影で繋がっている氷室本人に教えて尋ねた言葉だった。





 頭の中で直接、影で繋がっている藤堂と月斗の声が届く氷室は、眼鏡を上げる仕草で、口元を隠す。


「リーダー格だからこそ、狙わない方がいいかと。この単細胞は、挑発を続ければ好都合に動いてくれるはずです。まぁ、お嬢様も、そうお考えかと」


〔あ、頷きました〕と、月斗の声が響く。


 もっと、現状を報告する風間達が聞いていても不審に思われないやり取りをしてほしいものだ、と思う氷室。

 でも、やはり、自分と同じのようだ。

 この組織を潰すためには、頭を切り落とすのは、まだまだ早すぎる。もっとこちらの都合のいいように動いてくれるはず。


 『最強の式神』の蹂躙に、このままではこの場の負けを予期した三ノ輪は「連絡しろ! 合図だ!」と、仲間に指示を飛ばす。

 そして、紫に濁った不格好な水晶を掲げた。


「氷室!! てめーの『最強の式神』は、この前の倍強い『負の領域結界』に、無事に打ち勝てるか!? ああん!?」


 カッと鈍い紫の光りを放ち、そして、紫の空気でこの場を飲み込ませた。

 『負の領域結界』。複数人で気力を込めて作り上げた敵を閉じ込めて、領域内で不死並みの怪物も出現させて襲わせる術式だ。

 もうこの場にいた全員は、領域内に取り込んだ。


「ハハハッ!! 俺の得意分野だ! 味方を除外も出来るが、別に害はないし、それどころか……俺が自在に操れるッ!!!」


 にやけた顔をした人型の怪物が沸いてきたかと思えば、三ノ輪の後ろでどんどん塊となって、巨大化する。『最強の式神』に対抗して、さらに大きく巨人化させる。

 この『負の領域結界』は、三ノ輪の支配領域ということ。沸き上がる怪物も、三ノ輪の意思で姿を変えて、動かせるのだ。


 カタカタッ。

 笑った『最強の式神』は骨の右手を突き付けると、巨大な氷柱を三本、放っては巨大な怪物を貫いた。


「へっ……? ……氷の……術式……?」


 呆けた声を零す三ノ輪は震えた。


「気付きませんでした? 先程の犬の『式神』も、彼が術式で守っているからですよ」


 『最強の式神』を、親指で差してから、自分の周囲を指差す氷室。余裕綽々で突っ立っていたのは、守られていたからだ。


 ようやく理解した三ノ輪は「氷の術式が使えるからってなんだ!! こっちは無限再生するぞ!!」と叫ぶ。三つの風穴が開いた巨大な怪物は、それを塞いで両手をカマに変化して襲い掛かる。

 それをいとも簡単に一刀両断した『最強の式神』は、カカカッと笑った。


 そこに、ドドーンッ。


「!? 外で爆音!?」


 耳に届いた爆音に、真上を見上げた。


「残念でしたね」


 と言う氷室の声に反応する前に、紫の視界は晴れてクリアになる。


「なッ!?」と絶句する三ノ輪は、巨大な怪物も周辺に湧いていた人型の怪物も消えたのを見て「『負の領域結界』を、打ち破った!?」と信じられないと声を上げた。


「あなたの得意分野は、これで終わりです。呆気なかったですね」

「っ……!! 何をした!?」


 絶叫のように問い詰めても、笑みの氷室は腕を組んで佇むだけで答えない。


「リーダー! 他の領域も消えたと!」

「閉じ込めたはずの連中が出てきたって!」


 次々に、他の負の領域結界すらも打ち消された報告を受けて、ワナワナと震えた三ノ輪。

 さらに、『最強の式神』は、敵の『式神』を狩り始めた。

 ぶっ飛ばしては、切り裂く。

 突っ立っている場合ではない。


「全員こっちに集まれ!! ここを突破しねぇと!! 今すぐ来い!!!」


 三ノ輪は、目の前の一番の脅威である『最強の式神』をどうにかしたいがために、バラけて戦う仲間を集めた。

 氷室の予想通りに動いてしまったとも知らず――。


「――フッ。()()()()()()()()()()()()()


 嘲笑は隠し切れないが、片手で口元を隠して、伝える。

 舞蝶に、思い通りになったという意味を伝える言葉を――――。



 

2023/11/04

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