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♰67 迎え撃つ作戦Aの開始。



 こちらの空気が張り詰めると、グラサン少年は。


「おかしいと思ったんですよ。絶対に会合という名の戦場で迎え撃つだろうって思ったのに、俺には声をかけないし、戦闘準備を言いつけないから。きっとなんか極秘の作戦組み立てて、秘密裏に動いていくと思って。だから部下は置いてきました。でしゃばって台無しにしちゃ悪いですから。俺の部下、優秀すぎて、飛び出すの早すぎだって、風間警部も知ってるでしょ?」


 と、頬杖をついて得意げに笑う。


「若頭くん……そのイヤホンで、()()()()()()?」


 苛立ちを堪えて、なんとか笑って見せる風間警部も耳にイヤホンをつけているが、デザインは違う。

 でも、その通信内容を、グラサン少年は聞いているということか。

 平然とつけたまま会話をすると思いきや、音楽を聞いていたわけじゃなかった。


 オッケー、と背中でサインを送る風間警部。

 彼らの通信内容から、私のことはバレないとのこと。


 そもそも”希龍で術式無効化”という事実は一握りしか知らない。

 表向きは、優先生の研究成果で今回は術式無効化を可能に出来るって作戦だ。それに盗聴の術式もあるから、作戦内容がバレないようにこの場ではもう内容を知っている者にしかわからないように、暗号めいた通信会話となっているはず。

 術式無効化も、”キー”と呼ばれている。必殺の鍵みたいに。

 術式を一時封印効果があるから、あながち外れていない必殺技名よね。


 私も、これ以上表情を読まれないようにしよう。

 優先生の肩に腕を乗せて、その腕で鼻の下まで隠してそっぽを向いた。


「じゃあ。イヤホン没収です。若頭くん」

「嫌でーす。部下が、離れる条件にこれでしっかり確かめろって言ったんで、だめでーす。さもないと、俺の部下が乱入しちゃいますよ?」


 手を出す風間警部に、グラサン少年は腕でバッテンを作って拒否。


「ちょっと待ってください! なんも聞いてないんですが!?」


 中学生が声を上げた。何かが動きつつあると、危機感で焦って問う。


「ぶぁーか、ここまで来てまだわかんねーの? これから来る敵さんを迎え撃つんだよ。ここはもう敵さん待ちの戦場だ」

「き、聞いて、な」

「聞いてどうすんだ? どっちにしろ、役目は大人しくここにいろって言われるだけだぜ。囮は、大人しく囮をこなそうぜ? なーに、簡単だ。ここでお菓子食って、待ってればいいんだから」


 青ざめる中学生は、激しく動揺。

 気にせず、テーブルの上の包み紙のチョコをとって食べるグラサン少年。


「こんな風にバラされたら仕方ない。各組長は承諾済み、これから襲撃を受けると思いますので、安全のため、この部屋から出ないように。建物内には入れる気はサラサラありませんが、護衛も気を抜くことがないように。廊下にも部下を配置して守りを固めます」


 はぁ、と肩を竦めて、待機組に告げる風間警部。

 元から戦闘が始まっても、こうして安全だと言い聞かせるつもりが、その前に囮として招集されたと知らされてしまう子ども達。

 不自然にならないように、同行させたけども…………子どもには、優しくしよ?


 と、いうところで、感知。


 振り返り、窓の外を見る。

 一瞬、紫のドームが見えた。あれは、『負の領域結界』だろう。

 今のところ、一個か。来たな。


 グイッと優先生の白衣の襟を引っ張り、気を引く。


「風間警部」と、窓の外を睨みつけながら、強張った声で呼ぶ優先生は、私を月斗に渡した。


 二人でキーちゃんを見たが、じっと『負の領域結果』を見ても、怯えた様子がなくて一安心。


 失敗の不安要素。キーちゃんが、敵の領域結界に怯えて合図なしで、鳴くことだ。

 念のため、術式なしでは戦えない味方には、武器で戦う味方と行動するように配置したから、大丈夫だとは思うが……。タイミングの悪い誤爆だけはやめてほしいもの。


「敵さんをお出迎えしてきますんで、待機を。くれぐれも、邪魔にならないように」


 風間警部は、グラサン少年に一番キツく釘さす。

 結局、作戦の邪魔をさせないために、イヤホンは取り上げないらしい。

 彼もむやみに自分の部下を突入させないだろう。こっちの作戦の全容もわかっていないのに、乱入されては整えた作戦が乱れるし、普通に死ぬこともあり得るからやめてほしいものだ。


 彼こそ、パワーバランスを崩すような野望でも持っていたら、嬉々として崩しにかかったり作戦を台無しにいかねないが、そんな風には見えないのは幸い。胸を撫で下ろしていいだろう。


 しかし、護衛一人も連れずに戦場の囮にわざと来るとは、素晴らしく肝が据わっている若頭だ。高校生の時点でそう呼ばれるだけあるのかな。

 でも、念のため、風間警部は部下に彼の専属護衛を一任した。


「作戦A開始。『キー』が配置につく」


 通信機に告げる風間警部と目配せをして、優先生と私を抱えた月斗と藤堂も動き出す。


「あれ? 雲雀のお嬢様まで行くのか? なーんだ。お喋りしたかったのに」


 いい暇潰しがいなくなることを残念がるグラサン少年に、誰も反応を示さないまま、待機部屋をあとにした。


「なーんか。『紅明』の若頭に、気に入られちゃいましたね? お嬢。縁談が来たら、どうします?」


 冗談を言いながらも、もう戦闘モードで目をギラつかせた藤堂。


 月斗は”縁談拒否”と言わんばかりに私を抱き締める腕に力を込めては、藤堂から離すように少し腰を捻る。



 到着した私達の配置場所。

 大きな窓際にソファーの背凭れを壁に合わせて配置。窓辺にタブレット端末とキーボードを設置。サイズのあった黒の望遠鏡も固定されている。私の要望通りだ。

 そのソファーに下ろしてもらい、望遠鏡を覗きやすいように調整をしては、タブレットも表示されることに満足して頷く。


「『キー』配置完了」と、風間警部はそう通信機で告げた。


「今のところ、ポイント5で『負の領域結界』が発動されて、門番が6名と他7名が閉じ込められているもよう。手筈通りに動いてもらっていますので、直に知らせが来るかと」


 現在の状況説明をしてくれる。

 窓から見えた『負の領域結界』は、恐らく侵入するためか、または最初の一手の攻撃開始合図か、引き付ける囮か。

 どちらにせよ、まだキーちゃんが鳴く時ではない。合図はまだだ。


 戦状は、すぐに動き始めた。

 四方から攻撃が始まったのだ。塔の屋敷を取り囲み、確実に攻め落とす気か。

 そして狙うは、大物の組長達。特に父だろうし、公安のトップツーの山本部長も来ている。


 ここまで来るなら、そろそろ使いそうだな。

 完全に四方に散って応戦するこちらの戦力を閉じ込める『負の領域結界』。


 ポチッと予め用意していたメッセージを表示して、優先生に見せた。


【優先生、頑張ってくださいね】という文字を見つめて、フッと微笑むと優しい手付きで頭を撫でられた。


「はい。お任せください」と頷いたあと、月斗に目配せ。


 頷いた月斗は藤堂にも目をやり、軽い反応を確認したあと、私に”やります”と合図を送る。


 月斗から影が伸びて、私達の影は繋がった。それから何もなかったかのように影は戻る。でも、繋がっている。これで、月斗次第で会話が聞こえてくる。


「行って参ります」と、私の右手の甲に軽く口付けをしてから、白衣を靡かせて、大立ち回り役者を引き受けた優先生は表舞台へ向かった。



 


準備完了!


次回、敵sideの三人称視点です!

2023/11/03

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