♰65 粋がるバカに脅しの銃口。
その妙な空気に気付かない『夜光雲組』の部下が一人、先に到着している会合参加者の名を挙げた。
まだ来ていない組もいるが、遅れる連絡がなければ、問題が起きた連絡もないとのこと。
「では……舞蝶。武運を祈る。無理はしなくていい」
階段を上がって、連れの人達が待つ部屋に行くことになって、父達とここで別れる。
優先生も術式の確認があるので、父と一度行かないといけない。
めっちゃ作戦Aを無理しなくていいから、という気持ちがこもっている気がするが、気にせず形だけ頷いておく。
「護衛を頼んだぞ」と、加胡さんに念を押されて、藤堂と月斗も頷く。
「すぐそちらに行きます」と、優先生は微笑むので、笑みで手を振って見送った。
廊下の途中で「じゃあ、俺も例の最終確認してきます」と私に一言かけて、月斗の肩を叩いた藤堂も作戦Aのための確認へ向かう。
月斗と一緒に、部屋の中に入る。
木造の床の廊下だから、部屋の中はもちろん、畳だ。和室でも、しっくりくる大きなソファーと丸テーブルが置かれていた。
大抵は、こういう会合に連れてこられる後継者だったり、子どもが待機する場合の部屋だ。交流も好きにしていいとか。
でも、今までの『雲雀舞蝶』からすれば、交流相手なんていないだろう。
まだ記憶喪失のことを、月斗と優先生に言えていない私は、この部屋で会う人物達の情報を得るチャンスがなかった。
まぁ、関係ないだろうけどね。
会合のメンバーが揃って、動きがわかれば、私はこの部屋を出るのだから。
ソファーに座ることなく、そのまま、窓際に向かう。閉まっている窓を、月斗が開けてくれていると。
「おい。今日の会合、お前が襲われたから、呼び出されたんだろ?」
「ふざけんなよ、なんでお前なんかのために? あーあ。根暗なお前のために、『夜光雲組』の組長様も大変だぁ」
声をかけられたらしく、振り返る。
入った瞬間に、ニヤニヤしていた子ども二人。子どもと言っても、小学校高学年くらいだろうか。歳の差、だいたい五歳くらい?
お前呼びとは、ずいぶんと見下してくるなぁ……。
そのお付きの護衛らしき男性達も、バカにしたような顔で笑みで見てくる。
「誰に声をかけているのか、わかっているのでしょうか?」
月斗が、首を傾げて尋ねた。
他の人には見えていないだろうけど、希龍も揃って首を傾げる。
「はぁ~? バカにしてんのか? 根暗なお嬢様だよ! 雲雀家の落ちこぼれ!」
「この前の会合中も黙って突っ立って、僕達に何言われても言い返せなかった! まぁ、ザコな落ちこぼれだもんなぁ? 僕達の方が強いからしょーがないねー!」
……小学一年生の女の子に粋がっている少年二人を、どうしてくれよう。
ソファーには中学生くらいの少年がいて、二人を呆れた目で見るが、関わろうとはしない姿勢だ。
奥側には、暗すぎるサングラスをかけた高校生ぐらいの少年がいるが、耳にワイヤレスイヤホンを突っ込んでいるので、こちらも関わらないつもりだろう。
はぁ~、とこれみよがしにため息をつけば、目をつり上げたザコキャラタイプないじめっ子少年二人。
私は、月斗に手を出す。
「はい」と頷いた月斗が、後ろの腰から銃を引き抜いては私に手渡してくれたので、そのまま銃口を近い方の少年の眉間に突き付けた。
流石に、凍り付く少年達。
ソファーの中学生も、ギョッとした顔になる。
「お、おい! 銃なんて! この方々を、誰だと!」
少年達のお付きの護衛が、青ざめて声を上げかけた。
「あれ? やっぱり、この方を誰かご存知ない? 『夜光雲組』の組長のご令嬢ですよ? そんな方に喧嘩売ってタダで済むわけないじゃないですか。ニヤニヤ見ているだけで諫めなかった役立たずの付き人は、自分がどうなるかよく考えておいて、引っ込んでくださいよ」
冷たい笑みでしっしっと追い払う月斗。
「ま、前はっ、側付きのオバサンは何もっ」と、少年はカタカタ震えながら言う。
またあの側付きのせいか。
「前のことなんてどうでもいいんですよ。てか、前はお嬢がとっっっても優しく穏便に済ませてくれたんです。今現在、お嬢は喉の調子が悪いので、俺が代わりに話しますね? 俺がやさぁああしく、教えてあげますよ。どうして呼ばれたか? お嬢が襲われたから、こうして招集されたことの何が悪いんです? 『夜光雲組』のすごさ、わかりませんか? あなた達の親が誰を崇めていると思っているんです? 『夜光雲組』の組長である雲雀草乃介様ですね。その一人娘の舞蝶お嬢様が、奇襲に遭った。それはつまりは喧嘩を売られたってことです。『夜光雲組』は、他の組のトップです。頭。頭を狙われているってわかったら、まぁ普通は腕とかでガードしますが……今みたいに銃で狙われたら?」
おお。月斗ってば、いい説教をしてくれるじゃないか。えらいえらい。
「ひっ」と銃口にさらに怯えた少年を。
「バーンッ!」と、月斗は軽く声を上げたものだから、ひっくり返ってしまった。
「例え、ここで本当に我がお嬢に撃たれたとしても……悪いのは喧嘩を売った坊ちゃん方ですよ? そして、止めなかったアンタらが悪い。ああ、大丈夫。お嬢の手を汚させません。――――これ以上、お嬢を貶してみろよ。その口を引き裂いてやるから」
ノーダメージだと思いきや、意外と腹を立てていた月斗は、目をカッ開いて、吸血鬼の瞳も、口元をつり上げて開いた口から牙も、見せ付けては、ぱきっと指を鳴らした。その音が。爽快なほど響く。
それでまた一人がひっくり返り、ブルブルと震えた。
「なんじゃこの空気」と、そこに藤堂が入る。この人は、ノックをしない主義なのだろうか。
「そして、どうしてお嬢がお前の銃を構えてやがる? 月斗」
「大丈夫です。セーフティーかかってます。お嬢もわざと外さないで、脅していただけです」
「いや、だからなんで脅してんの?」
こっちに歩み寄って呆れた目を向ける藤堂に、ケロッと答える月斗に私は銃を返す。
「と、藤堂さん! この護衛、おかしいですよ! お嬢様に銃なんて持たせて!」
「心配しなくてもウチのお嬢は、ヘッドショットに好評しかない。変なところには当たりゃしない」
少年の護衛をそうあしらう藤堂。そういうことではないと思うんだが。
私が銃の扱いは長けている、という話に少年はえぐえぐと泣き始めてしまい、護衛はさらに青ざめた。
「泣き止ませろよ。お前、世話も兼ねてるんだろ? そこの吸血鬼もそうだ。ウチのお嬢に銃が必要になったから、そこの吸血鬼は銃を手渡した。撃たれなくてよかったな」
少年が泣いても冷たい藤堂は、けらりと笑ったあと、声を低く言い放つ。
「んで? なんでウチのお嬢が脅すために銃口を、てめーの護衛対象に向けたんだ? あぁ? 返答次第じゃあ――――俺も銃を突きつけるぜ。セーフティーを外してな」
低い声を放って、殺気立つ。
泣いていた少年達も、ピタリと固まってしまう恐怖に襲われていた。
「相手するだけ無駄だ。バカなんだから」
知らない声がそこに響く。誰かと思えば、あのサングラスの高校生くらいの少年だ。
「……『紅明組』の若頭」
藤堂は、軽く頭を下げて見せた。
新キャラ!
2023/11/01⭐︎