♰63 勘付いて考察する公安のエース。(公安side)
ハッピーハロウィン!
三人称視点、公安side⑤
夜更けの秋の空の下。
「あ~楽しかったぁ」
雲雀家をあとにした風間は、グッと背筋を伸ばして、笑みを零す。
「何が楽しかった、だ。腰が抜けるかと思ったぞ。雲雀家でも電話で指示を飛ばしまくったというに、元気だなぁ……若いっていいなぁ」
仕事で疲れ切った山本部長は、しょげた。
「いやいや、彼女の才能には称賛の嵐を巻き起こすべきでは? みんなにたった一人の力だって自慢出来ないのが悔しすぎますよ。俺達、伝説に会っちゃいましたね」
意に介さず、飄々と笑って退ける風間。
「確かにそうだが……氷室以上の天才が現れるとはなぁ」
「しかも数段は軽く上でしょ。絶対、術式の常識を変えてそうじゃないですか?」
「……おじさん、ついてけねぇなぁ」
遠い目をして現実逃避する山本部長。
「しっかし……なんですか? あの空気の悪さ。親子喧嘩でもしてるんすか?」
風間は、組長と舞蝶の関係について持ち出した。
雲雀家では触れる間もなかったが、明らかに何かあるし、悪いとしか思えない。
「う、うーん? さぁな。奇襲事件のあとに雲雀家で話を聞いた時も、妙に舞蝶お嬢さんが組長を見る目が冷めている気がしたが……月斗と名乗る吸血鬼のせいかもな」
「月斗? ああ、希龍を宥めていた右隣の吸血鬼の青年ですね。俺が会う度、お嬢様のそばにいますね」
風間の頭に、ポンと浮かぶのは、街中で見付けた舞蝶の元に駆け付けた吸血鬼の青年。
あの時は、青年の方に駆け寄って抱き付いたが、今日は自分に抱き付いてくれたことを思い出して、へにゃりと口元を緩ませる。
「……そーいえば、最近、組長って家を長く空けてたりします?」
「は? 何を言ってるんだ? あの組長が長くいなくなるなら、連絡するに決まってるだろ」
「……ですよね」
変だな、と風間は首を捻る。
「じゃあ、雲雀家に何か事件とかありませんでした?」
「はぁ? 聞いてはいないが……何を疑ってるんだ?」
怪訝な顔をする山本部長に「いや別に」と首を振っておく。
「(俺が初めて街中で会った舞蝶ちゃんは……服こそ綺麗だったが、髪がろくにケアされていない、あの家のご令嬢とは思えない身なりだった。月斗が大事に抱えていたから心配しすぎたと思ったし、次にショッピングモールで会ったら身なりは整っていたし、大事そうに護衛も主治医までついていた。……だが、何かあるみたいなことを隠せていなかったな。舞蝶ちゃんが歳より小さいのも軽すぎるのも……まるで虐待にでもあったみたいな)」
風間は、一人考察する。
「(だが、雲雀さんは確かに舞蝶ちゃんを心配していた。最後まで作戦を渋っていたのは、ひとえに参加させたくなかったからだ。でも結局、会合という罠でおびき出して叩き潰す方が、今後の舞蝶ちゃんの安全も確保出来るってことで、折れた。……が、あの二人、どうもなぁ。いや、二人じゃないな)」
組長と舞蝶。その二人だけではない。
「険悪ではありましたが……なんか、親子喧嘩とは、ちょっと違いましたよね? 組長に噛み付く氷室を加胡さんが睨んで、氷室を援護するみたいに舞蝶ちゃんが冷めた目で見て……なんの対立です? アレ」
「お、俺に聞かれてもなぁ」と、ポリポリと頬を掻く山本部長。
「藤堂は間でヒヤヒヤはしていたけど、どっちかっつーと、護衛するお嬢様側として立ち回ってましたね。月斗は完全に傍観して希龍に構ってましたけど。あの四人が中心になって動くんですから、まぁ当然の仲間意識かもしれないですが……だからって組長と対立するのはおかしな話ですよね? 組長も、意地やら罪悪感で妙な出方と構えでした」
「……分析するのやめないか。人様の家を」
山本部長はこれ以上はやめろ、と咎めた。
「いや、俺、関係あるかもしれません」
と、風間は自分の顎をさすっては、口元を押さえて考え込む。
「(俺に電話がかかってきたのは、この件でも公安側の中心人物として動くとわかっていたからだろうが……部屋に入った瞬間の舞蝶ちゃんの視線。これ見よがしに見えない状態で冷気をまとった希龍を俺に近付けたのは、気付くかどうか試したかったのもあるだろう。……そして、希龍を見せた時も、氷平さんすらも、俺は意識されていた気がするんだよなぁ)」
向けられた笑みを思い出すと、またゾクッとしそうだ。
あと『最強の式神』の氷平さん。頭蓋骨でわかりにくいが、思い返せば、自分を見ていたと思う。
ヘッドショットを見せて大笑いしていた巨大な骸骨。
「(初めて会った時、グールを華麗にヘッドショットしたことを知って、訓練所を貸してあげて練習でもして腕を上げてほしいとか思って声をかけたけど……”ソレ”か? 自分の能力を見せつけて、売り込んだ? あの雲雀さんの娘が? ……いや、妙な空気でギクシャクした親子。対立した幹部と主治医。下っ端組員がこっそり街に連れ出していた時の痛んだ髪のご令嬢。……何かがあって、家を出たい、と? ――――頼る相手は、俺ってことか)」
これほどの情報なら、そこまで予測が出来た。
「おい、悪い顔してるが、何か企んでないか?」と、ジトリとした目で心配された。
「いやですね、悪い顔なんて。真面目に可愛い女の子を救出する正義の味方の顔をしてました!」
言い張ったが、山本部長は胡乱気な目を向けてくる。心外だ。
「あぁー、早く聞きたいなぁ、舞蝶ちゃんの話♪」
またぐーっと背を伸ばして、夜に染まった空を見上げる。
「(あんなとんでもない超絶特別な才能の舞蝶ちゃんが公安に来るなら大歓迎。十中八九、教えているどころか切磋琢磨才能を伸ばしつつある天才術式使いであり研究者の氷室もついてくるし、吸血鬼の王座争奪戦から逃げた強力な能力持ちだっていう吸血鬼の月斗もついてくる。とんでもないセットだ。まぁ一番は……くぁあいい舞蝶ちゃんが俺の助けを求めている!)」
がしっと、拳を固める。
可愛い女の子に助けを求められているのだ。一番興奮する点が、そこだったりする。
「先ずはいっちょ、悪い奴らをぶっ潰しましょうか!」
ニヤリと口角を上げた風間は、目をギラリと光らせた。
短いので、出かける用事を済ませて落ち着いたら、もう一話更新する予定です! 舞蝶ちゃん視点に戻ります!
ハッピーハロウィン!