♰52 脅迫される護衛・藤堂海空。
フッと笑みを浮かべた藤堂はかっこつけて、ジャケットを正した。
「では俺の番ですね?」
「「「……?」」」
ドヤ顔しているところ悪いが、三人揃ってわかってません。
「次は俺の名前呼びでしょ! 俺の名前、読めます? ん?」
満面の笑顔の藤堂。
そういえば、メッセージアプリでの登録名は確か……海と空って漢字? ……なんて読むんだっけ、とは思ったけど、藤堂は藤堂呼びでいいやとスルーしたんだっけ。
「確か、海と空と書いて、カイル、でしたっけ? バリバリのキラキラネームじゃないですか、ヤンキーの」
「偏見だぞ、ドクター。確かに俺の親はヤンキーだ」
「図星じゃないですか」
へぇ。カイルって読むんだ? ヤンキー家のキラキラネーム。……ヤンキー両親がヤクザかぁ。口の悪さは、産まれと育ちにあったんだろうなぁー、とこちらも偏見。
【で。会合場所で最適なところってどんなところ?】
「スルー!? なんでですか!? ここは俺も名前呼びするところでしょ!? なんでそうお嬢は! 俺に! つれないんですか!?」
「さっき優しい言葉をかけても喚いたからですよ。どうしたって喚くんですね、はぁ」
代わりに優先生がため息を吐いて呆れてくれる。
「俺だって側近ですよ!? 護衛責任者ですからね!? えらい立場でお嬢を守ってる俺だって、心を許してくれてもいいじゃないですか!!」
わんわん喚く藤堂。絨毯の上で蹲って、床を叩く仕草をする始末。
【藤堂】と、私はメッセージを送りつける。グスンと拗ねる大人がスマホを確認したところで、次を送信。
【加胡さんは、もちろん複数の使用人と身体の関係を持っているって知らないよね?】というメッセージを見て、ヒュッと喉を鳴らす藤堂。
【しかもこの私がそれを知っているし、その使用人を使って私の世話をさせているなんて……ね?】
ギギギ、とこちらを見た藤堂は、青い顔をしつつ、そっとその場で正座した。
藤堂の直属上司である加胡さん。
あの人、結婚指輪つけていたし、見た目からして生真面目そうだからね。絶対に怒号と特大の雷が落ちるだろう。
弱いであろう藤堂は、ダラダラと汗を流しながら、おふさげをやめた。
よろしい、と笑みを見せておく。
藤堂、泣きそうだ。
「お嬢様は、素晴らしい」と、何故感動しているのでしょうか、優先生。
右隣では、ゴックンと喉を鳴らしては「す、すみません」と照れて赤くなる月斗。
な、ぜ???
【藤堂は予想がつく? 会合の場所。おおよその広さや、迎え撃つ場合の作戦とかも知りたい】
「ええっ! そんなに知ってどうするんですか!? マジで参加するなんて、くみちょぉ……いや、えっと、本当に危ないんで、連れて行かないと思うんですよね……」
情報を得るために、今までの傾向やらも把握しようとしたが、情報源がしぶるので、冷たい眼差しで射貫く。
身を縮めた藤堂は、弱々しい声で、打開策を考えているもよう。
目が泳いでいる。なんかヒントを探そうとしている。
「現時点では、『夜光雲組』のお嬢様が乗ったリムジンが奇襲に遭ったことが公になり、それがとんでもない威力の負の領域結界だったわけですから、その報告と情報共有のために少なくとも周辺の組を集めるでしょう? その場にお嬢様がいても不思議ではないですし、むしろ、離れる方が心配だと連れて来るのは自然なこと。他の組もいますし、安全な会合場所となる。そう敵に思われるからこそ奇襲を許して迎え撃つ」
「っ」
優先生が、代わりに説明をしてくれた。
そう。私がいた方が自然だ。藤堂も理解して、苦そうな顔をする。
「敵の規模や脅威にもよりますが、脅威なほど、お嬢様のお力が必要でしょうね。だからこそ、今回の会合場所の候補でも教えてもらいたいのですよ。お嬢様が力を振るうために、どんな練習が最適か、知るためにも」
「いやいや、お嬢が前戦に出るなんて認められるわけがっ」
「私が隠れ蓑を務めます。先ず、敵にはあの負の領域結界を打ち破る術式使いがいると警戒をされているでしょう。それが私だと自ら明かします。そして、『完全召喚』を見せつけて、大立ち回りをするのです」
「はっ!? 『完全召喚』って……アンタ出来ないんじゃ?」
「ええ。だからお嬢様がいかにも私が操っているように見せるのです」
ニコリ。優先生は、笑顔で眼鏡をクイッと上げた。
「『最強の式神』が『完全召喚』で大暴れすれば、あの負の領域結界を打ち破ったことを納得して、そして先ず私を狙ってきます。出し惜しみなく、敵の術式使いが術式を発動した瞬間を狙って――」
パチン、と優先生が指を鳴らす。
「お嬢様が希龍の鳴き声で、術式使い達を戦闘不能にするのですよ。成功すれば、こちらは最早勝ちです。希龍のひと鳴きで、主戦力は術式を封じられて、大打撃。畳みかけて、終わります」
「あの鳴き声でそんなに……? いやいや、もしも、鳴き声を響かせるだけで効くなら味方の術式使いが巻き込まれるじゃないか。術式使いの組織なら、こっちも術式使いは揃えるんだし」
「ええ。でもどうやら、希龍の術式無効化は、その術式を無効するだけではなく、発動させた術式使いも少しの間、術式を使えなくする効果もあるようです。だから、合図が必要です。敵が十分に大勢が術式を使っている瞬間に、味方は術式を引っ込めて、希龍に鳴いてもらうのです」
「……」
「もちろん、その鳴き声は私が開発した術式と銘打ちます。お嬢様が陰に隠れるのはもったいないとは思いますが、この才能を明かさないために私が表に立ちます。お嬢様が会合場所に行くことは自然ですし、またあのような負の領域結界がまだあるというなら、お嬢様の力は必要不可欠ですよ。多くが死にますので、その場にいるのにお嬢様に何もさせないのも酷かと」
優先生はそう言って、私の頭を撫でた。
確かに、昨日の負の領域結界だけでも、本来なら、隠れた最強の影の能力を持つ吸血鬼と、天才術式使いも一緒に全員殺せてしまったものね。私が『完全召喚』を発動できたから、九死に一生を得たけども。
……でも、ごめん! ぶっちゃけ知らない人達が死んでも、酷とか思わないかな!? 薄情でごめんね!
でも、大半は私を守るために戦うとかじゃないでしょ!? 言い訳御免!
「もちろん、敵の術式が、もうあれほどの脅威はないという証拠があるなら、お嬢様の出番などありませんし、お嬢様の作戦が上手くいかない場合は、自力でやってください。お嬢様も幼いので、そこは失敗したら作戦Bで臨機応変に片付けてください。大人ですから、子どもが失敗したら私達で頑張らないとですよね?」
ニコリ、笑顔で威圧的な優先生。
「むちゃいうなー」と、棒読みで困り果てている藤堂。
「いえいえ。真面目に言ってますよ? お嬢様がいようがいまいが、敵は敵。迎え撃つなら、お嬢様の力で楽勝で勝利出来る作戦を組み立てておきたいのですよ。だから情報をください。いざって時にはそれを整えて、作戦Aとしましょう。そして作戦Bは、お嬢様が失敗した時でも勝利治める戦い方を用意」
「そりゃあ、こっちの被害が少ないまま、楽勝に勝利出来るにこしたことねーけどよぉ……。その作戦、立てたところで俺は上に通せないぜ?」
明らかに逃げ道を見付けて、笑顔になる藤堂。
「……藤堂」
ふわりと微笑む優先生に、悪寒を感じたのか、ぶるりと震え上がる藤堂だった。
「舞蝶お嬢様。藤堂が脅しが足りないみたいですよ?」
「ひっ!?」
真横の私に優しく声をかける優先生に、藤堂は悲鳴を上げる。
私は一つ、頷いてやった。
はい、脅しメッセージを送信。
【いざって時は山本部長と風間警部に話し通すけれど、藤堂が作戦立てるのに協力しないなら、悪事がバレて加胡さんに怒られるだけ。チクられたい? 協力したい? どっち?】
「ヤクザかよ!!」
いや、お前がヤクザだろ。
そりゃ、私は組長の娘だけども。ヤクザ本人が、そのツッコミはどうなの。
正直、藤堂の評価がわからない作者です。脅迫までされるアホないじられキャラ……? で、やる時はやる……?
悪い奴では、ない……かな……?
(2023/10/20⭐︎)