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♰169 術式のリボンと確保。


舞蝶ちゃん視点に戻ります。




 先ずは、右のリボンを外した。

 束ねていた髪は、するりと肩を滑り落ちる。


「この異空間を閉じ込めた術具……『トカゲ』が用意したの?」

「便利だよな! あの臆病者の情報を寄越す代わりに、お前もついでに殺せって依頼された!」

「ふーん……」


 『トカゲ』の罠だったのか。どこまで知られているのだろう。

 どこかに『トカゲ』の式神の目があって、視られていたみたいだ。月斗が影の特殊能力者だと知られて、情報を売られたように。徹くんの暗殺も、散々阻止された。私が阻止したからなのか、術式使いと知った上で対策をして、こうして罠を仕掛けて吸血鬼という刺客も差し向けてきたのだ。もしかしたら、七助さんの奪還も目論んでいるかもしれない。そうなると、徹くん側も何か仕掛けていられるかも。長居は出来ないな。


「ぐっちゃぐちゃにしてやるよ、げへへ!」


 下劣な笑いを溢した肉だるまの男。

 私はそれを冷めた目で見据えつつも、左のリボンも解いた。


「ここ、術式を展開する文字を、気力で描けないよう縛りをかけているのでしょう?」

「そうだ! お前は術式も使えず、オレにぐっちゃぐちゃにされるしかないんだ!! ガハハ!!」

「要は書ければ、いいんでしょ?」

「は?」


 当たり前のことを言えば、ポカンとした声が返ってくる。


「その身体付きからして、パワー特化した吸血鬼だろうね。私をぐちゃぐちゃにするのも容易そう」


 私は興味なさげに予想を口にした。


「でも術式を完全に使えなくしたわけでもないのに、勝ちを確信するのはまだ早すぎる。頭は残念ね」

「なんだと!?」


 リボンは糊付けされているので、ペリッと剥がす。


「前回も隔離されて『式神』が出せなかったし、対策は考えていた。元々、緊急の備えがあったの。まぁ、今はそこまで緊急ってわけではないわね。でも、練習には最適ね」


 リボンの中には、術式の文字が書き綴られている。


「上級の術式使いは、気力で術式の文字を書けるから、わざわざ初歩的に札などに術式を書かない。でも、こういう空間なら、備えがあれば対処出来る」


 そして、気力を流し込み、術式を発動させた。


 先ずは『最強の式神』の氷平さんの召喚。

 リボンに書いた氷平さんの文字が浮き出て、視える。それは私の背後まで行き、黒いモヤとなって、大きくなった。それは蠢く闇となり、そこから巨人が顔を出す。巨大なガイコツだ。黒の着物を着て、さらに大きな赤黒いサイスを私を守るように構えた。

 元氷室家の『最強の式神』である氷平さん。


 緊急の備えなら、それ相応の戦力を優先的に出すべきだから、最初は氷平さんだ。こうして召喚に応えてくれたのならば、優先生の方は襲撃を受けていないらしい。


 続いて、『生きた式神』の希龍。

 リボンに綴った文字が私の周りを囲うと、白い光を放ち始めて、白く長い身体を現した。背には鱗の代わりに、黄色のダリアの花びらが散り、眉毛はガーベラで、下に黒の円な瞳の龍の姿の『式神』。


 キーちゃんは、宙に浮いたまま、私に巻きつき頭をすりすりと擦り付けてきた。心配してくれていたのだろう。大丈夫よ、と心の中で応えておく。


 続いて、同じく『生きた式神』のサスケ。

 文字は、私の頭の上に移動して、ぼんやりと小さな闇を灯して、そしてゴシック風の男の子の人形の姿の『式神』が現れた。


 サーくんは、ひしっと私の頭を抱き締める。サーくんも心配してくれたのだろう。ありがとう、と心の中で伝えた。

 それから、周りを見て欲しいと頼んだ。また『トカゲ』の『式神』が盗み視ているかもしれないから、探ってもらった。幸い、監視の目はないらしい。

 なら、いいか。


「ヒョウさん」


 カタカタと顎を揺らして笑うヒョウさんは、赤黒いサイスを振り上げた。振り下ろすと氷結が走り、肉だるまの吸血鬼に襲いかかる。

 パワー特化だけあって、肉だるまの吸血鬼はパンチをして氷結を砕いた。


 しかし、それで動じるヒョウさんではない。


 カカッ! とまた笑って、ヒョウさんは追撃する。今度は範囲の広い氷結攻撃で、吸血鬼の左右も凍らせた。左右に避けられない吸血鬼に、氷柱を多数放つ。パンチだけでは捌き切れない数だから、パンチを避けた氷柱が刺さる。流石に分が悪く感じたようで、右の氷の壁を砕いて避け始めた。


「どうしたの? 私のこと、ぐちゃぐちゃにするんじゃなかったの?」

「ッ!!」

「ぐちゃぐちゃっていうのは、こうやるんだよ? サーくん」


 サーくんにも仕掛けてもらう。

 幻覚攻撃を得意とするサーくんが、右手を上げて吸血鬼を指差した。


「!!?」


 途端に動きを止めた吸血鬼は、頭を抱えて青ざめたまま、悲鳴を上げる。


 ぐちゃぐちゃにされる幻覚を見ているのだ。恐怖で、痛覚を錯覚して、悶え回る。


 その隙に、迫ったヒョウさんは容赦なくサイスを振り下ろして、右腕を刎ねた。


「ぎゃあああ!!!」

「痛いねぇ? でも私にそうしようとしたんでしょう? 自業自得だよね。月斗のことも死ぬほど苦しませたかったんでしょう? だから、死ぬほど苦しんでよ」


 そう告げるけれど、吸血鬼は痛みで悶えていて悲鳴を上げ続けたから、私の声は届いていないようだ。


「さて、この『領域結界』は、あなたが絶命しないと破れない縛りになっているのかしら? それとも、自己再生も出来ないほどに力尽きれば、解放されるかしら?」


 こてん、と首を傾げた。そんな私の頬に、キーちゃんが鼻先で小突いて、自分は何かした方がいいかと尋ねてくるので、今はいいと頭を撫でておく。


――任せろ。


 ヒョウさんが、またサイスを振っては今度は左腕を刎ねた。


「月斗には、私ではなく、あなたの無惨な姿を用意しておきましょうか」


 歌うように笑いかける。

 ヒョウさんは、右足も左足も刎ねた。それでも叫び続けて、泣き喚く。

 自己再生で腕や足が生えつつあるので、ヒョウさんに指示をして、腹に一刺ししてもらった。


「力尽きる前に、死にそうね……。まぁいいや。私達に術具を投げた吸血鬼もいるし、あなたが死んでも」


 もう一振り、刺してもらう。グサリ。


 途端に、この空間に亀裂が走った。


 肉だるまの吸血鬼が現れた方向から、割れていく。そして、異空間は壊れた。


「舞蝶お嬢!!!」


 影を撒き散らす月斗が、泣きそうな顔で駆け付ける。


「大丈夫ですか!? 怪我は!?」


 頭の上からつま先まで確認して、怪我がないことをわかると、両腕で抱き締めてきた。


「よかった……!! ごめん、ごめんなさい! 俺のせいで!!」


 そんな月斗は、震えている。その月斗の背中に手を添えて撫でた。


「月斗のせいだけじゃないでしょ? 『トカゲ』が私の排除を目論んだのだから。でも、こうして駆け付けてくれたでしょ。月斗の方の敵は……倒したみたいね」


 月斗がこうして出てきたというなら、倒してきたのだろう。


「これでスッキリした?」

「え?」

「心配していたでしょ。自分の問題に私を巻き込むって。でも、ちゃんと月斗は勝ったみたいだし、これからも月斗は守ってくれるでしょ?」


 違法薬物の件で王家の吸血鬼も絡むかもしれないと聞いて、月斗はずっと思い悩んで気を張っていた。今回、見事に月斗の追手が『トカゲ』と手を組んで襲い掛かってきたが、ちゃんと返り討ちにしたのだ。


 少しは、スッキリしたのではないか。


 私だってタダでやられることもない。そうわかってくれたのではないだろうか。


 顔を上げた月斗に、ニコリと笑いかけてやる。

 月斗はじゅわりと顔に熱を集めて真っ赤にしては、ゴクリと喉を鳴らした。


「これからも一緒にいてくれるでしょ?」


 私と離れないといけない、と少しくらいは考えていただろう。

 これで自信がついたなら、一緒にいてほしい。


「一生いますぅ!」

「そうだね、わかってる」


 月斗なら一生いてくれると、ずっと思っている。


「好きーっ!」

「わかってる」


 月斗が私にゾッコンだって。

 よおくわかっている。


「お嬢~!」


 むぎゅーと抱き締めてくる月斗の背中を、ポンポンと叩いておく。


「コラ」


 そんな月斗の頭に銃を叩きつけたのは、息を乱した宮藤さん。

 不死身の怪物を倒してもらおうとヒョウさんにお願いしようと思っていたが、もう氷漬けにしていた。


「油断するな! 月斗! まったく!!」


 藤堂もぜぇーぜぇーと荒い息を吐きながらも、氷漬けの男に銃口を突きつきながら覗き込む。


 あれは、私達に水晶玉を投げた吸血鬼だろう。捕らえられてよかった。


 肉だるま吸血鬼も虫の息だし、確保済み。


 ……もう一人、頭と胴体が離れている吸血鬼らしき男が見えたが、月斗が仕留めたのだろう。生け捕りにして、情報を引き出したかったが、二人確保したので十分だ。


 サーくんに周囲の警戒をしてもらい、『トカゲ』の式神を見逃さないようにしてもらった。

 見つけ次第、キーちゃんにも倒してもらうつもりだ。


「みんな無事ね?」

「うん」

「殿も無事で何よりです!」


 燃太くんも常磐くんも、少し息が上がっていたので、不死身の怪物とよく戦ったのだろう。燃太くんは、汗を袖で拭っていた。


「『トカゲ』が私の命を狙って、月斗を捜していた吸血鬼に情報を売ったらしいわ。これからは外でも警戒するように」


 私が告げると、一同にピリッと緊張が走る。私の命を狙っているというなら、警戒心も引き上げるだろう。

 ヒョウさんが不死身の怪物にトドメを刺してくれて、『負の領域結界』から抜け出せた。

 サーくんが周囲をサーチしてくれている間に、徹くんに連絡を入れる。

 駆け付けた徹くんと優先生と七助さんは、無事そうだ。彼らには襲撃がなかったみたい。


「七助さん、周囲を警戒してください」

「! わかった」


 七助さんにも、周りを見てもらった。彼の目なら、『トカゲ』の式神が隠れていても視えるだろう。


「状況は?」


 徹くんは、転がっている死体と胴体と頭だけの男と氷漬けの男を一瞥しつつも、尋ねてきた。


「俺の能力を見て、捜していた吸血鬼側に『トカゲ』が情報を売る代わりに、お嬢の暗殺を依頼したそうです。昔の俺の同僚です……。王家の吸血鬼の配下です」


 月斗が代わりに答える。

 最悪な展開が訪れたことに、徹くんも優先生も顔を歪めた。


「確かに、王家の配下ではあるがっ……! 今回の件に、直接関りはねぇよ!」


 頭だけを出して、身体を氷漬けにした吸血鬼が寒さにガクガクと震えながら、口を挟んできたので横目で見る。


「調べてみろ! オレ達は、ただ……逃げ出したてめぇーを殺しに来ただけだ!!」


 あくまで独断と言い張るのか。尋問は公安に頼むが、この様子では望み薄そうだ。せめて『トカゲ』の情報を得られればいいが。


「俺はお嬢のモノだから、狙うっていうなら、容赦はしない。お前の主をお前の首で、誘き出して殺してやるよ。後継者争いに、参加出来なくしてやる」


 冷酷に告げる月斗は、立ち向かうことを決めたようだ。

 私のことも、そして月斗のことも、狙うならば誰だろうと敵判定をして、牙を向く。

 恐らく、その吸血鬼が付き従っている主人も、宣言通り許さないだろう。


「逃げ出した臆病者がっ、よく吠えるっ! むぐっ、んんー!!」


 私はとりあえず、術式で口を凍らせた。喋るなら、必要な情報だけでいい。


 吸血鬼達は、より拘束力の強い術式で捕らえて、公安に連行してもらった。『トカゲ』の情報源にも成り得るので、厳重だ。



 その後、能力向上の違法薬物を製造したのは『トカゲ』と断定。吸血鬼も加担していたとなり、斬首刑が執行された。


 『トカゲ』を捕まえるような有益な情報は得られなかったが、製造場所は突き止めて潰せた。


 王家の吸血鬼は、関与していないと犯人の吸血鬼達は主張。元々、行方をくらましていた月斗を殺せという命令が下されていたから、情報をもらう代わりに私の暗殺も引き受けて揃って殺すために実行した。そして、失敗。


 トカゲの尻尾切りだ。


 『トカゲ』と繋がっているのに、有益な情報を残さなかった。


 王家の吸血鬼が関わっていたかもしれないのに、その情報も明け渡さなかった。


 王家側も、犯罪組織『トカゲ』と協力した罪で裁いていいと許可したらしいが、さっさと口封じで始末してしまいたかったのが本音だったかもしれない。


 怪しいな、王家の吸血鬼。


 まぁ、今はそれより、目下の問題は家族会議である。


 この事件に王家の吸血鬼の関与が危惧された時と同じく、優先生が心配して緊急会議を開いた。


 とはいえ、元々徹くんだって『トカゲ』に命を狙われていたのだし、敵に敵認定されただけのことだろうと私は軽く捉えている。こっちも『トカゲ』を追い続けるのだから、望むところだ。


 けれども、優先生は王家の吸血鬼、つまりは月斗の命を狙う吸血鬼の方も懸念している。

 月斗は、俯いてしまっていた。


 そんな月斗の膝の上に座って、私はパイン味のカルピスソーダを飲んで寛いだ。


「真面目に話を聞くつもりはありますか? 舞蝶お嬢様」


 優先生に、ジト目を向けられた。


「そんなこと言われても、『トカゲ』も吸血鬼も敵になった。だったら、向かってくる敵は倒すしかないでしょ」


 私は、そう返す。

 向かってくる敵は、迎え撃つしかない。

 そうなってしまったのは、しょうがないではないか。



 


これで書き溜めた三割、更新完了です。

もうちょっと、舞蝶ちゃんの返り討ちを魑魅魍魎な『式神』召喚みたいに派手にしたかったのですが、

肉だるま吸血鬼には過多戦力だな、と冷静になってしまい、

こうなりましたね。

備えあれば、憂いなし!


『トカゲ』と王族の吸血鬼が敵対関係になった……!

このあとどうなるのか! お楽しみに!


あと七割、書き溜めてきますね!


リアクション、ポイント、ブクマで

励ましてくださいませ!

よろしくお願いいたします!


2025/09/21

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