♰164 相談女の誘いより優先すべき。
月斗に声をかけた女性は。
「よかったら、連絡先を交換してくれませんか!?」
熱に浮かされたような顔で言い出した。
月斗は困り顔だが、女性は「お願いします!」とごねる。
「お礼がしたいんです!」
「! あー……じゃあ、それなら」
「!?」
冷めた目でやり取りを見ていたが、渋っていた月斗が何故が首を縦に振ろうとしたことにより、ギョッとしてしまう。
なんで女性の誘いに乗ろうとしているんだ、月斗!
あなたは私に執着するほどに恋しているでしょうが!!
私の気持ちが伝わったのか、キーちゃんが月斗の頭に頭突きをかました。
体幹のいい月斗でも少しよろめいては、視えているキーちゃんを不思議そうに見やる。キーちゃんは怒った様子で尻尾を振り回した。月斗はますます、戸惑った顔になる。
やがて、ハッとして私を振り返った。私が冷めた目で見つめていることに気付くと、顔色を悪くする。
「一目惚れしたんです! 私にチャンスをください!」
「あっ、俺! もう一生愛する人がいるので、無理です! ごめんなさい!!」
がばっと頭を下げて、告白を断る月斗。
「で、でも、さっきはお礼をすると言ったら、何かを言いかけたじゃないですか」
「あー、それは……その愛する人に贈る物の相談に乗ってもらおうかと思って。でも一目惚れとかいう話なら、だめですね。ごめんなさい」
……私に贈る物の相談?
「い、いえ! 大丈夫です!! 相談に乗らせてください!!」
あん!?
下心ありありの女性は、グイグイ行く。
相談だけでは終わらせるつもりがないくせに!! 腹立つ女だな!!
「だめだ、やめとけ、月斗。お嬢さんもワンチャン狙うのやめといてくださいな」
まぁまぁ、と宥めに入ったのは、藤堂だった。藤堂が言うと、なんだか説得力がある。
藤堂なら、ワンチャン狙ってグイグイ行くのだろう。
逆に言えば、月斗とワンチャン狙っているということで、不快感が沸騰していく。
「お嬢が不機嫌になってんだから、やめとけ」
ボソッと月斗に言っているのも、バッチリと聞こえているからな、藤堂。
月斗も色の悪い顔で振り返って、私の顔色を伺っている。私は少し考えてから「ん」と、両腕を広げた。抱っこの要求。すぐさま私のところに戻ってきた月斗は、私の脇に手を差し込むと抱き上げた。
ぺちっと、両手で月斗の頬を押さえ込む。むぎゅむぎゅと揉み込む。
「お、お嬢……?」
「……」
戸惑いの声を出す月斗に何も応えず、首に腕を回してぎゅっと締め付ける。
「えっと……よしよし?」
ポンポン、と背中を撫でる月斗。
「じゃあ、帰りましょう。お嬢さんも解散!」
藤堂が仕切って、女性をこの場から離れさせようとする。理由は。
「いいですかい、宮藤さん。お嬢は攻撃的ですから、気を付けてください」
とのことだ。
今日は大人しく月斗にしがみついただけだが、普段なら攻撃していてもおかしくないと言いたいらしい。失礼な。私だってあっちから攻撃されなければ、反撃もしないわ。
護衛が護衛対象の攻撃性を気を付けるってどういうことだ。
何はともあれ、犯人確保をしたので、今回の仕事は終わり。
でも、私や月斗はともかく、他は何もしていないも同然だったので、何かしようと話となった。
射撃場で訓練しよう、ということで、宮藤さんも一緒に行くことに。徹くんは仕事の後始末だ。
事件は解決したけれど、月斗に言い寄る女性が現れたから鬱憤が溜まっている。
動く的を相手に、バンバンと弾を撃ち込んでいく。あまりにも、ムカついたので、的が一つ壊れるまで弾を撃ち続けた。
「お嬢、怒ってんなー……」
「月斗のせいですよ」
「俺ぇ……」
「他の子どももなかなかですが、舞蝶お嬢の銃の腕前、すごいですね」
「お嬢様は天才なので」
「なんで氷室がドヤ顔を決めるんだよ」
「何話しているの?」
「宮藤さんがお嬢様の銃の腕前を褒めていたところです」
藤堂に優先生に月斗、そして宮藤さんが並んで話している様子だったから、銃を下ろして尋ねてみれば、私の話をしていたとのことだ。宮藤さんには、初披露か。
「殿、七助殿と手合わせしてきていいですか?」
常盤くんが七助さんを振り返って、私に頼んできたので、別のトレーニングルームに行く許可を出しておいた。私はもう少し、鬱憤晴らしに撃ち続けておこう。バンバンと的を壊していると。
「舞蝶お嬢、自分と勝負しませんか?」
宮藤さんが歩み寄ってきて、柔和に笑いかけた。
「……いいですよ。一対一で勝負しましょう」
「え? 一対一?」
「ペイント弾で戦り合いましょう」
「……」
まさかそんな勝負になるとは思わなかったのか、呆気に取られた表情になった宮藤さんを気にせず、藤堂と月斗に目配せをする。二人は、いそいそとペイント銃を用意してくれた。
それを持って、トレーニングルームに移動。
「あの、舞蝶お嬢。防弾ベスト、着てくれませんか?」
もう勝負する覚悟は決めたが、私に防弾チョッキを着てほしいと宮藤さんが言い出す。
「当たらないのに、着る必要あります?」
私はにこりと微笑み、煽っておいた。
宮藤さんは困り顔で頬を掻いたし、藤堂はあちゃーと額を押さえて天を仰ぐ。
護衛対象相手に銃口を向ける羽目になって、大変だねぇ~。
「では、私が審判を務めます」
審判を買って出てくれたのは、優先生。
距離を開けて向き合って立つ私と宮藤さんの間に立った優先生は、右腕を上げた。銃をしっかり持った私達を確認すると、その腕を振り下ろす。
「始め!」
宮藤さんの動きは、早かった。迷うことなく、私の銃を撃ち抜いた。――――と思う。
サーくんの幻影を見せていたので、私に彼のペイント弾が当たることはない。
逆に私が宮藤さんの心臓を狙って、胸を撃ち抜いた。胸元にべったりと青のペイントがつく。
「!?」
当然、何が起きたかわかっていない宮藤さんは、目を見開く。
「私の勝ちですね」
ペイント銃を月斗に返してもらって、私は常盤くんと七助さんの観戦をしに向かう。
それについてくる優先生。
残った藤堂は、宮藤さんにペコペコしていた。
「すんません! お嬢は人をからかいたがるというか!」
「幻覚の術式か……?」
「えーと、まぁそんなところですね」
「術式発動の素振りがなかったが……」
「お嬢は、術式も天才的ですからね」
アハハ……と乾いた笑いを溢す藤堂に対して、宮藤さんは何か言いたそうにしていたように見えたが、私は常盤くんと七助さんの木刀での対決を観戦。
それが終わったら、帰宅。宮藤さんは、家の前までついてきては帰っていった。
「お嬢……宮藤さんは幹部ですよ? もっと心開きましょうよ」
「なんでよ。宮藤さんは、ただの護衛だよ。心開く必要は今のところ感じないけれど?」
家にも入れていない人に心を開くつもりはない。
「幹部に媚びてみっともないですね」
冷たく言い放つのは、優先生だった。
「まだ『夜光雲組』のつもりなら、さっさと帰ったらどうですか?」
「俺はお嬢についていくって決めたんだ! お嬢!! 俺、組長のスケジュールが空き次第、組抜けてきますんで、受け入れてください!!」
「……」
「嫌そうな顔しないでくださいよ!!!」
いきなり大声を出すから、ウザくて……。
熱量が、ウザい……。思わず、げんなり顔になってしまう。
「わかったよわかった」と言いながら、しっしっと手を振っておく。
藤堂を追い払って「月斗」を呼ぶ。
「月斗。なんであの人と連絡を交換しようとしたの?」
「えっと……お嬢へのプレゼントに、女性の意見を聞こうと思って……」
それは聞いたけれど、なんだかまだモヤッとするのよね。
私が腕を組んで見据えているせいか、月斗はガチガチに固まって座っている。
「そういうのは誤解を生むからだめだよ?」
「はい。ちゃんと断りました」
「そうだよ。月斗は、私のモノなんだからね?」
「ンンッ!! ……はい、俺はお嬢のモノです」
「勘違いだってさせちゃだめなんだからね!」
「ゴクリ!」
月斗は頬を真っ赤にさせて、喉を鳴らした。
「それでなんで私に贈り物をしようとしたの? 私の誕生日は秋なのに」
「いやぁ……日頃の感謝を込めてプレゼントしたくなって」
「じゃあ、一緒に選ぼうよ。買い物デート、放課後に行く?」
「買い物デート……ゴクリ!」
黄色の目をキラキラとか輝かせて、五回目のデートに大いに食いつく。
「保護者が付くの、忘れないでくださいよ。お嬢」
リビングから聞いている藤堂が口を挟む。
「宮藤さんが護衛につけば十分でしょ」
「お嬢様。月斗がいるからと言って、部外者の護衛のみはよくありません。いつ『トカゲ』の襲撃があるかもわかりませんしね」
同じくリビングでノートパソコンをいじっていた優先生が注意してきた。
月斗と宮藤さんだけでは、心許ないということらしい。
「じゃあ七助さんもお買い物についてくる?」
「俺か?」
ソファーでサーくんと寛いでいた七助さんに振る。
吸血鬼二人の護衛がつけば、十分の戦力だろう。
優先生は少し悩んだ素振りを見せたが、コクリと頷いて許可してくれた。
月斗は私だけのもの、な舞蝶ちゃん。
なかなかの独占欲。
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2025/09/17