♰161 新しい護衛の宮藤。
六章書き終わりません……が、なんとか
三割は書けたので、とりあえず更新させていただきますね!
まだ六章のタイトルも考えていない……。
2025/09/14◯
むぎゅっと締め付けてくる感触に目を覚ますと、キーちゃんこと希龍が私の枕になっている上に、私の身体に巻き付いていた。そんな私の腕の中で、サーくんことサスケがスピスピと寝息を立てている。
ガーベラの眉毛が特徴的な龍の姿の希龍。
ゴーストボーイ人形の姿のサスケ。
私の式神。『生きた式神』のキーちゃんとサーくん。
のっそりと起き上がると、キーちゃんも巻き付く尻尾を緩めてくれたし、サーくんもぽわーと小さな口を開けて欠伸を漏らし、目元を擦って起き上がった。
生きているとわかる『式神』の二人を撫でて、私もベッドから降りる。
もこもこのスリッパを履いて、寝間着のまま部屋を出ていく。一階の洗面所に向かって歩いていけば、その前に隣の部屋から影本月斗が出てきた。
「おはようございます、お嬢」
「おはよう、月斗」
「キーちゃんもサーくんも、おはよう」
柔和に笑って黄色の瞳を細めるイケメン、朝から眩しいと私も目を細める。
そんな月斗に踏み台を出してもらって、顔を洗ってから歯を磨いた。
鏡に映るのは長い黒髪と青灰色の瞳を持つ幼い美少女。異世界転生してからまだ一年も経っていないけれど、半年過ぎて毎日見ていればすっかり慣れてきた。元々、前世の自分の顔はもう覚えていないけれど。
そんな私の黒髪を、月斗は後ろでブラシで整えてくれた。
吸血鬼なのに朝から起きているのは不思議だな、と今更思いつつも月斗を鏡越しに見つめる。
淡い髪色は生まれつきらしい。黄色の瞳は、瞳孔がひし形。そして顔立ちは整っている。都会を歩いていれば、すぐに芸能界にスカウトされるくらいのルックスだろう。アイドルや男優に向いてそうな顔だ。
性格は明るいし、世渡り上手だと思う。吸血鬼の性質上、執着すると厄介になるが、月斗は上手くやれる方だ。かと言って、勧めたりはしないけれどね。月斗は身を隠さなければいけないのだから。
「ありがとう」とお礼を伝えたあとは、次は月斗が歯を磨くので私はトイレを済ませてから、リビングに顔を出す。
「おはようございます。舞蝶お嬢様。今日は体調はいかがですか?」
こちらに歩み寄ってくるのは、眼鏡をかけた美丈夫の氷室優先生。
穏やかに微笑んで尋ねてくるので「おはよう、元気です」と答えておく。
「おはよう、舞蝶」
新参者の灰原七助さんも、座っていた椅子から立ち上がると挨拶をしてくれた。
薄灰色の長髪は肩まで切って、後ろで束ねている。肌は暗い灰色で、瞳は黒。よく見れば、月斗と同じくひし形の瞳孔が見える黒い瞳だろう。
危険組織『トカゲ』の施設に監禁されていた生み出された吸血鬼。今は私に忠誠を誓う配下だ。
その首には爆弾付きのチョーカーが嵌められていた。正直、不快な存在だ。いつか、外してあげられたらいいのだけれど、今はこうして自由に生活する条件だから仕方ない。
「おはよう、七助さん」
挨拶を返して、私はダイニングテーブルにつく。
「おはようございます! 舞蝶お嬢!」
「おはよう、橘」
我が家の料理人、橘がニカッと笑いかけてきた。
今日のメニューは、ザ・海外の朝食。パンケーキにカリカリベーコンとデザートに果物だ。
私がテーブルにつけば、七助さんも椅子に座り直して、あとから優先生と月斗もついた。彼らも朝食が運ばれたので、一緒にいただきますをして食べ始める。
「おはようございますー、お嬢」
なんか元気のない声が伸びてきたかと思えば、顎髭ダンディーの藤堂が花を抱えてベランダから入ってきた。
『生きた式神』にとっての食事が花だから、キーちゃんが藤堂に頭突きをかましてしまう。
「希龍! お前、飛びつくなって言ってるだろ!!」
額を押さえて涙目になって叱りつける藤堂だが、キーちゃんは聞いていない様子で、花にかぶり付いている。サーくんも床に落ちた花を拾っては、ちまちまと食べると、すいーと宙を浮いて私の膝の上に戻ってきた。
「お嬢~」
「朝から何情けない声を出してるの?」
冷めた目で藤堂を一瞥して、しょっぱいベーコンと甘いパンケーキの両方を口に入れて咀嚼する。
「……」
じっと物言いたげな視線を注いでくる藤堂。
なんかイラッとする。いい大人が、察してくれって態度はやめてほしい。
質問に答えないなら、無視しておこう。
そうしたら、ドデカいため息を吐いた。イラッとする奴である。
席を立ったかと思えば、優先生がスパンと頭を引っ叩いた。グッジョーブ、優先生。
朝食も済ませたので、学校に行く準備を始める。
落ち着いた青色の制服と黒のフリル付きスカート。ネクタイも黒でフリルがついている可愛いもの。名札と腕章を忘れずにつけた。
今日の髪型は、黄色のリボンで二つ束ねたツインテール。月斗がやってくれた。
今日も公安雇いの運転手の車で、学校へ送ってもらう。面倒だけれど、小学校へ登校だ。
護衛のため、藤堂は車を降りたあとも校門までついてきた。この前は、従兄が私を誘拐したこともあって、警戒中だ。
吸血鬼の限られた王族の血筋のみが持つ特殊能力、影の特殊能力で月斗が車を降りる前に、私の影に入り込んでいる。暇だろうに、学校内でも警戒したいのもあるが、離れたくない月斗は、授業中も私の影に入ってついていてくれるのだ。
『生きた式神』のキーちゃんとサーくんも、サーくんの能力で姿を消して、私に付き添っている。
飛び級制度で特別クラスに属している私は、もう高学年の授業を受けていた。しかし、前世社会人にとって余裕である。流石に全てを覚えていたわけではないが、教科書を読み込んでいれば、さして難しい授業内容ではなかった。算数や理科などは”そうだった”と思い出せるし、社会は一応異世界だからか、ところどころ違っているのでそこは学んで覚えるだけ。
まだ7歳だけれど、来年は飛び級制度で中学に進学しようかな……。
中学には、私の仲間で友だちの紅葉燃太くんと常盤ノアくんもいるし、飛び級進学もいいのかもしれない。
同じ飛び級の生徒がいても、私と精神年齢が合わないので、親しくなれなそうにもない私はクラスメイトに友だちはいなかった。教室で一人暇するので、スマホを使って影の中の月斗とメッセージアプリで会話する。
【今日の放課後、宮藤さんが挨拶してくるんですよね?】
【ああ、今、藤堂からもメッセージ来た】
月斗が話題に出したタイミングで、藤堂からも連絡がちょうど来た。
【連絡失礼します、お嬢。今日の放課後、宮藤さんが来るそうです。俺と一緒に待ち合わせしてから、お迎えに上がります】
とのことだ。
【合流したら、正式に挨拶をして話をしたいとのことですが、どうしますか? どこかの店で話しますか?】
まだ私達の家には通せないから、他の店に入るかどうかを尋ねてきた。
【燃太くんと常盤くんも一緒に、おやつ食べれるファミレスでいいんじゃない?】
と返しておく。二人も放課後、合流するだろうから、学校帰りのおやつを食べることにしておく。
【わかりました】という藤堂からの連絡を受けて、それをメッセージで月斗にも伝えた。
その放課後。校門前に、黒スーツ姿のダンディーな大人が二人、待ち構えていた。通報されないんだろうか、あれ。
「舞蝶お嬢様、お疲れ様です」
「お疲れ様。駐車場に行こう」
深々と頭を下げる垂れ目の顎髭イケメンの宮藤さんと挨拶もそこそこに、移動を促す。校門に立っている場合ではない。不審に思われる前に移動すべきだ。
燃太くんと常盤くんは、まだ時間がかかると言うので、駐車場で少し待つことになった。
「改めまして、『夜光雲組』の幹部、宮藤正広です。この度、こちらの藤堂に代わって、お父様への連絡係も兼ねた護衛を務めさせていただきます」
その間、宮藤さんはそう改めての自己紹介をする。
「私の記憶はないのですが、面識があったとか?」
「はい。自分が地方で仕事に行く前に、お会いしています。まだよちよち歩きだった舞蝶お嬢を抱っこさせていただいたこともありますよ。自分のいい思い出です」
宮藤さんは幹部だったこともあり、幼かった頃にそういう交流があったらしい。前世の記憶を取り戻した私は、代わりにその頃の記憶はごっそりないけれど。
「確か、前に会った時は四年ぶりに戻ってきたと言ってましたね」
「はい、その通りです。地方の勢力を伸ばすために、派遣されていました。それも十分と判断されて、この度本邸に戻ってきたわけです」
「その矢先で私の子守ですか? 災難ですね」
「そんなことはありません、舞蝶お嬢。あなたは組長の大事なご息女です」
「絶縁状態ですけれどね」
「そうであっても、大事なご息女だということに変わりはありませんよ」
顎髭がよく似合う長身イケメンの宮藤さんは、大人の余裕のようにニコニコとして私の受け答えをした。
その横で藤堂は冷や汗をかきつつ、オロオロと目を右往左往させている。
『夜光雲』の組長である私の実の父親、雲雀草乃介は、自分の娘の冷遇も気付かなかった愚かな父親だったから、絶縁を突き付けてやった。そんな父親の話題にされて、冷や冷やしている様子の藤堂。逆に余裕綽々の宮藤さん。
同じ顎髭ダンディーでも、やっぱり藤堂は劣化版、宮藤さんは良化版って感じだ。
藤堂の女性関係は爛れているが、宮藤さんの女性関係はどうなっているか、気になるところである。……しょうもないか。
「そうですね、絶縁状態でもこうして監視されて気分悪いですね」
「あはは、そう仰らずに」
私もにこやかに棘を刺すと、しょうがなさそうに苦笑して見せる宮藤さん。
「そうですね、仕方ありません。親権はまだあちらにありますし、今後また先日のように記憶にない親戚関連でトラブルを起こされる前に対処してくださいね」
「はい、お任せください。自分は後継者候補の顔も名前も記憶しているので、舞蝶お嬢にご迷惑をかける前に対処します。後継者問題が舞蝶お嬢に降りかからないようにいたします」
しっかりと受け答えをする姿は、なんとも頼もしかった。
そこで、燃太くんと常盤くんがやってきたので、ファミレスに移動する。
月斗も影から出てきたので、ファミレスに入るのは運転手を残して、私と月斗と藤堂と燃太くんと常盤くん、そして宮藤さんで入店。ボックス席に並んで座った。
「先程話した通り、私を後継者問題で煩わせないでほしいから、護衛を認めます。でも、その護衛の範囲を決めましょう。公安で『黒蝶』という特別部隊として動くけれど、それにも同行する? あと家に入れるかどうかも迷っているところ。家は『術式結界』を張り巡らせて、許可のない者も入れないようにしています。あなたはどうしようかしら」
タブレットで注文を済ませて、早速、本題に入った。
宮藤さんの護衛は受け入れる方向で話を進めるか、藤堂と同じ範囲で同行させるかどうかを決めたい。正直、不愉快ならば、速攻で出禁を言い渡したいところだが、今のところそれはなさそうだ。
家まで入らせるのは、どうだろう。
家の中では、術式の研究もしている。私のもう一つの顔、謎の天才術式使いの『カゲルナ』としての痕跡もあるのだ。
だから、家に入れるかどうかは、慎重に決めるべきである。
この件に関しては、優先生も私に判断を任せるとのことだ。
「舞蝶お嬢にとって、自分はまだ初対面の大人ですからね。今後、心を許してもらえるようにします。家に入れてもらえるのは、それまで待ちましょう。出来ることなら、家の中でも護衛をさせていただきたいですけれどね。しかし、公安の仕事には同行させていただきたいです。一番危険な場所ですからね、お守りさせてください」
宮藤さんはそうにこやかに笑いつつも、意思は固いという眼差しで見据えてきた。
公安から割り振られる仕事は危険なもの。その同行は譲れないという。それが宮藤さんの仕事だ。
「おい! てんめぇ舐めてんのか!? 俺はヤクザだぞ!! これを見ろよ!!」
そこで店に響き渡った男の怒号。
見やると、シャツを捲って腕に入れた刺青を強面の男が、青ざめた店員に見せつけていた。
「この俺を怒らせてタダで済むと思うなよ!?」
私達は、白けた目を向ける。
そんな中、宮藤さんは「席を外します。月斗だったか? 月斗、藤堂、お嬢を頼む」と一言声をかけて、立ち上がった。





