♰160 大人会議と吸血鬼。(三人称視点)
第四回、大人の秘密会議は、舞蝶の入浴中に秘かに行われた。
何かと理由をつけて引き留めていた新参者の吸血鬼である常磐ノアを捕まえて、大事な話を聞かせた。
それは舞蝶が被害を受けた吸血鬼の執着故の事件について。
最初は、なんの執着かもわからないまま始末した吸血鬼。次は、加虐心の強い執着が暴走した吸血鬼。今では、三人の吸血鬼に執着されて忠誠を誓ってもらっている舞蝶。その三人には執着心が暴走して、舞蝶を傷つけないように忠誠心にしっかり執着してほしい。そう徹は、話した。
七助も舞蝶に忠誠を誓う前に、徹からすでにこの話を聞いていたので、黙って頷く。
「次は、月斗の事情だ。これは機密情報だよ」
徹は椅子を空けると、月斗が代わりに座った。
「俺は……戦闘時に特殊能力を見ればわかると思うけれど、影の特殊能力なんだ」
真剣な顔付きで告げれば、常盤は息を吞んだ。
「王族……」
「そう、俺は王族の遠縁で、影の特殊能力を覚醒させた先祖返りなんだよ。でも、後継者争いには参加しないで身を潜めている。『夜光雲組』に来たのは、身を隠してもらうためだったんだけど、それで舞蝶お嬢に出会ったんだ」
吸血鬼の中でも王族の血が流れていて、王座に就ける特殊能力を持つ月斗。
しかし、その王座争奪戦から遠く離れた日本で、身を隠している。
そんな最中で、月斗は舞蝶と出会った。
「俺も舞蝶お嬢を守るために忠誠を誓って執着しているけれど、恋愛感情もあるから。根本が恋愛感情から出てくれる執着心だから」
「は、はぁ……」
「月斗、圧が出てますよ」
無意識に威圧してしまう月斗を、優は窘める。
常盤はどんな反応をすればいいか、流石に戸惑う。
「常磐くんには、まだわからないかぁ~」
微笑ましく見ている藤堂は、端から見ればイラっとする表情であった。
そんな藤堂のスマホが着信を知らせる音を鳴らしたので、藤堂は席を離れる。
「……えっ! なんでそんなっ……! うっ……ですが……お嬢がなんと言うか……」
しかし、廊下に出る前に電話相手と話し出した藤堂は、困ったように一同を振り返った。
舞蝶の話となれば、気にしないわけにもいかない。優達は、注目する。
「明日ですか……。わかりました、話を通しておきます……」
藤堂が敬語を使って、頭を軽く下げている相手。
組長かと思ったが、それにしてはやや様子がおかしいと感じ取れた。
「……どうしよう。お嬢、俺のことクビにするかな……」
「なんですか?」
「しないよな? 流石に冗談だよな? クビにしないよな?」
「いや、だからなんですか? 説明をしてください」
青い顔をして一人でオロオロする藤堂に、冷めた目を向ける優。
「一個だけ聞いていい? お嬢は俺のことも仲間だと思ってくれているよな? なぁ?」
「ウザいですよ、ハッキリ説明してください」
「そうだよ、藤堂。ウザいから早く説明」
「冷たすぎるだろ……アンタら」
優だけではなく徹にも冷たく言われて、ガクリと肩を落とす藤堂であった。
「俺、一応、定期連絡もする護衛として組から派遣されている立場じゃないですか……」
「それがクビになったんですね」
「うっ……そ、そうだが…………代わりに、宮藤さんが護衛に就くと……」
「は? 新しい護衛を就けるですって?」
「宮藤って、あの宮藤? 『夜光雲組』の幹部のさ。確か地方に行ってって、最近戻ってきたっていう」
「その宮藤さんです」と藤堂は沈んだ様子で重く頷いた。
「お嬢がどう反応するか、わかりませんね……。宮藤さんって人なら、藤堂さんの上位互換って認識してたんでワンチャン受け入れそうですけれど」
「喧嘩売ってんのか? 月斗てめぇ」
首を捻る月斗が素直に思ったことを言えば、ガン飛ばす藤堂。
「ごめんなさい」とやっぱり素直に謝る月斗だった。悪気があったわけではない。
「藤堂殿は、『夜光雲組』から派遣された護衛であって、殿の配下ではなかったのですか?」
こちらも悪気なく、新参者の常盤が不思議そうに尋ねた。
まさに気にしていることが、グサリと刺さってしまい、胸を抑える藤堂は壁に手をつく。
「俺は配下のつもりなんだよ……お嬢に忠誠心があるんだよ……でも、嫌がられてるんだよ」
「は、はぁ……そうなのですね……」
「やめなさい、子どもに気を遣わせるんじゃありません」
困り顔の常盤を助けるために、優がピシャリと言い放つ。
「実際問題、あなたがその連絡役兼護衛をその宮藤に替えられたら、立場的にどうなるのですか? 組を正式に抜けることになるのですか?」
真面目な話と尋ねる優の横で、うんうんと頷いて徹も返答を待つ。
「そう、なりますねぇ……俺がまだ『夜光雲組』の組員にいたのは、この護衛を担うためだったんで……。それは、後日キッチリけじめをつけるが…………俺、『黒蝶』部隊の一員ですよね? 風間さぁん……」
「いや、そんな情けない声を出さないでよ……一応、藤堂は頭数に入ってるからさ」
情けない声を出している藤堂を呆れて見るのは、徹だけではない。優も橘も、だ。
「一応ってなんですか、一応って」と、ぶつくさ言う藤堂にも冷たい眼差しが注ぐ。
「そもそもなんでこのタイミングで? 藤堂、ヘマでもした?」
どうして護衛の藤堂が、このタイミングで交替を言い渡されたのか。
「それが……先日の件で、また組長の後継者争い関係でトラブルが起きた際に対処する人材を護衛にした方がいいと話し合われたみたいです。ほら……俺、あの従弟のこと知らなかったし……その点、宮藤さんの方が情報を持っていて守りやすいとのことで……本人からとりあえず挨拶に来るという旨の電話でした」
舞蝶を誘拐出来た例の従弟の事情を知らず、近付けさせてしまった失敗を犯した藤堂は、しょんぼりと俯いて答えた。ある意味、ヘマをした結果である。
「あーね、後継者争いがこれから活発にもなるし、その手のトラブルが増えないようにする対策ね」
「お、お嬢!」
そこでリビングに戻ってきたのは、湯上りの舞蝶だ。藤堂の話を聞いて、すぐに護衛が宮藤に替わると把握した。
ビクリと肩を震え上がらせるオーバーリアクションの藤堂を無視して、月斗に持っていたドライヤーを手渡す舞蝶は、月斗に濡れた髪をお手入れしてもらい始める。
手慣れた様子で黒髪をタオルドライして、洗い流さないトリートメントを塗りたくる月斗。
「この前みたいに親戚を騙る輩を退けることが出来る護衛に替えるって話だよね?」
燃太は炭酸飲料を飲みつつ、そう舞蝶に確認した。
「そうなるんだろうね。いつ来るって? その宮藤って人」
「お嬢の放課後……出来れば早く、とのことで、明日にでも」
「ふぅん。わかった」
「え、いいですか?」
「親族を騙る輩は全員蹴散らせばいいけれど、後継者争いの火の粉は降りかかるかもしれないでしょ。それを払う役目は必要で、宮藤さんは最適なんだから」
「そ、それはそうですけど……」
煮え切らない反応をする藤堂だが、舞蝶はしれっと冷静だ。
これから予想される後継者争いのトラブルを、宮藤に対処させる気満々である。
「一つ、気になることがあるのですが」
と、そこで挙手したのは、常盤。
「何?」
「親族繋がりで疑問に思ったのですが、吸血鬼の王族である影本殿は、本当に居所はバレていないのですか? 王座の後継者争いの火種の方の心配は、大丈夫なのかどうかを聞いておきたいのですが」
『夜光雲組』の後継者争いもあるが、吸血鬼の王族の王座争いもある。事情を深く知らない故に、常盤は確認のために質問をした。
「『夜光雲組』に来たのは、元々俺の母が、舞蝶お嬢のお母様の命を救ったという貸しがあったから、頼ったんだ。その母が早い段階で俺の能力の覚醒がバレる前に、って日本に送ってくれたから、後継者候補だってことも知られていないよ」
「そのお母さんとは連絡取り合ってるの?」
「えっ……あっ……」
バレる心配はないと答える月斗だったが、なんとなく湧いた舞蝶の疑問に、絶句する。
「連絡してないの?」
「はい……前の携帯電話に、年に一回くらいあったんですけど……」
月斗は、一度携帯電話を壊していた。
「変えたって連絡入れなかったの?」
「……電話番号、覚えてない……です」
しょぼんのアクションをする月斗。そもそも、連絡をする発想に至らないのは、執着していない事柄に薄情すぎる吸血鬼らしいと、優達は呆れた目で見ていた。
「連絡取れないとわかれば心配するんじゃない? 『夜光雲組』に来る可能性は?」
「どうでしょう……。母もグール退治を生業にしているし、あちこち転々としていますからね……。近くに来ないと寄らないと思います」
「そう、一応宮藤って人に言っておこうか」
「そうですね、ありがとうございます」
話は一旦中断して、舞蝶の髪を乾かすためにドライヤーをオンにした。ブオオオンとドライヤーの音がリビングに響いて、皆が黙る。
この時誰もが、フラグだとは思いもしなかったのであった。
※※※
これにて『第伍章・吸血鬼達の執着の忠誠心』は完結にさせていただきます。
次章は、毎日更新で一気更新出来るように書き溜めておきますね!
またしばらくお休みします!
フラグはなんでしょうね?
六章も練り直して書かないと……!
今年中に完結を目指したいのですが、メモにあるエピソード量からすると十章になりそうですからね……無理そう。本当はこんなに膨れ上がるつもりはなかったんですけれどね。いっぱい書ける。
まだまだ続きそうな『冷遇お嬢』です!
いいね、ポイント、ブックマークをよろしくお願いいたします!
励みにします!
また六章をお待ちくださいませ!
(2025/03/13)