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♰159 吸血鬼達の歓迎会。



 七助さんの忠誠を受け入れて従者にした次は、保留中の常磐少年だ。

 何度も断ったけれど、経緯はどうあれ執着症状が出るくらい本気で忠誠を誓いたいと言っているので、まだ考えてやろうと思う。助けに来てくれたお礼もあって、月曜日は燃太くん経由で家に招待することにした。その前に、車の中で軽い面接でもしようと思う。


 そういうことで、月曜日。

 燃太くんといつものように駐車場にやってきた常磐少年を車に乗せた。

 そこで私の隣に座ってもらい、改めて先日のお礼から伝えることにした。


「先日はありがとうございました」

「いいえ、殿のためなら当然のことをしたまでです」


 ……殿呼びは、そのままでいいか、もうめんどい。

 キリッとした顔の常磐少年。背筋もシャンと伸ばしている。


「常磐少年……いえ、常磐くんは今も変わらず私の配下志望で間違いない?」

「はい! 初めてなのです。こんな執着心を抱くほどに心を揺さぶられたのは! 拙者はどこまでも殿についていく所存です!」


 目がキラキラだ。新たな執着症状を出している吸血鬼に、藤堂は苦い顔である。

 記憶の彼方に忘却したいイカれたヴァインと違って、月斗も七助さんも、そして常磐くんも忠誠心に執着してもらっているから至って健全な方だと思うけれどね。


「そう、それなら、あくまで私を守るという忠誠心に執着するように。これが一番従うべきことよ。わかるわね?」

「はい、当然です」

「よし。それなら、今日からあなたは私の配下よ」

「……殿の配下……!!」


 感動でいっぱいの顔をしては、ゴクリと喉を鳴らして胸を押さえる常磐くん。

 本当に執着症状が出たのだなぁ、としみじみ思いつつも、話を続ける。


「常磐くんの他にも、一人、吸血鬼が配下に加わったから、今日はお礼もかねての歓迎会をするわ。予定は大丈夫よね?」

「もちろんです!」

「じゃあ行こう」


 常磐くんも燃太くんも車に乗せて、家に帰ることになった。



 家にはすでに、七助さんは住むことになっているので、引っ越し作業中でいる。

 徹くんにも『黒蝶』に加わる新しいメンバーの話は通しておいたので、家で七助さんといた。


「こちらが、灰原七助さん。車の中で話した通りの吸血鬼。そして、橘ね。今日はご馳走を作ってくれたよ。それで、七助さん、橘。こちらが常磐ノアくん」

「よろしく頼む」

「よろしく」

「殿からご紹介いただきました、拙者は常磐ノアです。誠心誠意、殿に仕えます。よろしくお願いいたします」


 美味しそうな匂いが飽和するリビングで、対面。お互いを紹介をしておく。

 常磐くんは、腰を曲げてぺこりと頭を下げた。


 ピクリと反応した七助さんは、向き直ると。


「俺も舞蝶に忠誠を誓い、誠心誠意で仕えていく。舞蝶は、俺の希望だ」


 真剣な表情で告げる。


「拙者も、忠誠を誓いました」


 またもやキリッとした表情で、常磐くんは張り合うように言う。


 二人の相性はどうだろう、と首を傾げて見守っているが、仲間だなと言わんばかりの雰囲気で握手をしているので大丈夫そうだ。


「俺は公安の風間徹だよ、よろしくね。君が、常磐くんか。今日は歓迎会だけど、次は予定合わせて連携が取れるかどうか、確認のための戦闘訓練をしよう」

「わかりました。よろしくお願いいたします、風間殿」


 お手洗いから戻ってきた徹くんも、常磐くんと笑顔で挨拶をした。


 徹くんらしくフレンドリーだけれど、目は警戒するように常磐くんを観察していることがわかる。

 子どもだとしても、常磐くんは吸血鬼だ。執着心が暴走をしないように警戒しておきたいのだろう。月斗のように信用出来るほど、常磐くんをまだ知らないのだから無理もない。私もよく知らないけれど、まぁ大丈夫だろうとは楽観視している。


「常磐くんには、キーちゃんとサーくんのことも紹介するね。希龍とサスケ、私の『式神』だよ」


 私に巻き付くように浮いていたキーちゃんと、七助さんの肩に乗っていたサーくんのことも紹介。

 今まで見えていなかったのに急に現れたことに驚く常磐くんは、眼鏡の奥で目を真ん丸にした。


「サーくんは臆病だから迂闊に触らないようにね。精神攻撃を受けるよ」と注意しておく。


 歓迎会というだけあってパーティーのメニューだ。ポテトフライや唐揚げ、そして色んな味のディップ。

 橘は、ディップ作りに凝っているなぁ。美味しい。


「七助さん、美味しい?」

「ああ、美味しい」


 本来食事は必要ない七助さんも、口に合ったようだ。


「これからは橘の料理でいっぱい美味しい物食べてね」

「責任重大っすねぇ……頑張ります」


 他力本願ではあるが、橘の担当なのでお任せである。任された橘は、苦笑しながらも頷いた。

 帰りの車の中で、常磐くんには七助さんの事情は話しておいたので、特に聞いてこない。口いっぱいに唐揚げを詰めている。彼もお気に召したようだ。


「好きな料理が出来たらいつでも言ってくれよな」

「わかった」


 橘はニカッと笑って見せて、七助さんはしっかりと頷いた。

 会話は知り合うために、互いの好きな食べ物の話題から始まり、得意な戦闘の話で盛り上がった。


「七助さんも、何か武器を持つ?」

「武器か……」


 ポテトフライをちまちまと食べていた七助さんは、私の質問に考え込んだ。


「銃、お勧めだよ。私の術式道具の弾丸があるからね」

「俺もお勧めするぜ」

「なんで藤堂がドヤ顔なの?」

「俺だって手伝ってるからですよ!」


 銃だと私の特製の術式道具の弾丸を使わせてあげられるから勧めた。

 藤堂も製作を手伝ってくれてはいるので、これ以上は言わないでおこう。


「銃か……腕前が不安だ」

「弾丸は真っ直ぐ飛ぶから、銃口をしっかり向ければいいだけだよ」

「灰原、ちゃんと射撃場で練習しような」


 苦笑する七助さんに、私のあとにフォローするように言う徹くんは、優しい眼差しだった。

 何故か優先生達もだった。なんで。


「僕も練習したい」

「燃太くんも腕前はいいけれど、練習は必要だよね。常磐くんと連携確認するために訓練場に行こう」

「徹くんの予定は、大丈夫?」

「うん、ノープロブレムだよ。舞蝶ちゃん」


 燃太くんも練習したいと言い出すから、徹くんは訓練場を押さえてくれるそうだ。今のところ、お仕事の方は余裕が出来ているらしい。

 七助さん発見の件で忙しくしていたけれど、一段落ついたということだろう。あとは七助さんやサーくんの目で『トカゲ』の追跡を続けていきたいが、今のところ手掛かりはなし。公安から割り振られる仕事をしつつ、気を張っておかなくてはいけないだろう。


「常磐くんは刀だから、接近戦でしょ? キーちゃんの術式無効化の鳴き声を浴びさせるために、守りながら立ち回ってもらうのもアリかもね」

殿(との)の命令であれば!」

「本当に殿呼びなんだね……」


 常磐くんの気合いは十分のようだ。初めて聞く徹くんは、殿呼びにやや戸惑っている。


「キーちゃんの無効化は、百パーセント『トカゲ』の術に使えるとは限らないけれど、大抵は行けると思うから重宝するよ。無論、『トカゲ』以外の術式なら効果的」

「希龍殿は、優秀なのですね」

「サーくんもだよ。七助さんにはバレバレだけれど、惑わしたり姿を消すなら十八番だから」

「サスケ殿は……どこです???」


 キーちゃんはそのままだけれど、紹介したあとからサーくんは人見知りを発揮して、常磐くんの目から隠れてしまったようだ。常磐くんがキョロキョロしているが、目の前の七助さんの頭の上にいる。


「そっとしておいてあげて」と、言っておく。構いすぎては死んじゃう。

 多分常磐くんの方が。吸血鬼なら大丈夫かもしれないけれど。


「常磐くんは、やっぱり刀を使うんでしょ? ……刀に付与する術式を作ったら使う?」

「殿から力を授かれるなら喜んで!」


 常磐くんはすんなり頷いたが、大人達は動揺していた。


「サラリと言い出したけれど、出たよ天才肌」

「戦闘面の術式も開発しまくる、だと……!?」

「お嬢様、もう構想は練れているのですか!? どうなんですか!?」


 優先生は、グイグイと問い詰めてくる。必死か。


「いや、常磐くんの戦闘見たことないから、見てから決めたいな」

「すぐ予定を決めないとね」


 徹くんは、すぐさま予定を確認するためにスマホを開いた。


「唐揚げ追加ですよ~」

「はい、お嬢。熱々の揚げたてですよ」


 橘が持ってきてくれた追加の唐揚げを取ると、私のお皿に盛りつけてくれる月斗はニッコニコである。


 そんな感じで、新しいメンバーである二人の吸血鬼の歓迎会をワイワイと楽しんだ。



 


明日5章完結です!


2025/03/12

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