第八十五話 まだまだ続くのかい
別の場所ではヘンリクが盾ごとミノタウロスを壁に叩きつけ命を刈り取ると、直ぐにヨモギ戦っているミノタウロスに向かって盾をフリスビーのように投げると背中に突き刺さりその隙を狙ってヨモギがハンマーを打ち下ろした。
「やはりヘンリクって凄いんだな」
「そりゃそうでしょ、一人でもミノタウロスを倒せるのに私とヨモギを鍛える為にあぁしていたんだからね」
俺はヘンリクの動きに見とれていたが、ハルとヨモギはせっせと魔石を拾い集めていた。
「旦那、さっきの事は許すから魔石を拾うのを手伝って下さいな、まぁいい状態の魔石は少ないようですがね」
ミノタウロスの魔石は緑色に光っているので見つけやすいのだが、やはり俺のやり方が悪かったのか魔石は欠けている物が多い。
「お前よぉ一体何やったんだ? 天井や壁まで削れているじゃなぇか」
「それはね……」
みんなを集めて俺がやった事を聞かせるとジール以外は呆れたような表情を向けてくる。
「何だよそれは、適当に撃っただけだって言うのか」
「だからそうだって、最初に説明しただろ」
「旦那、そりゃ魔力の無駄使いじゃねぇですか、ちゃんと狙えばもっと魔力を節約できただろうし楽に倒せたんじゃねぇですかい」
「それはどうかな、狙いをつけるって事は姿をちゃんと見なくちゃいけないだろ、そしたら向こうにも俺の姿が見えるじゃないか、一斉に襲ってきたら対処が出来ないかも知れないからね、まぁこの中だと魔力の回復が早いから出来たようなもんだけどな」
「それならまた階段でお前を休めせたら最後の階層に行くか」
この時までは誰もがこの広場の奥には下に向かう階段がある物だと勝手に思っていたのだが、奥にあったのは階段では無くてまだ先に延びていく通路だった。
「おいおい、終わりじゃねぇのかよ、やけに広くねぇか」
ヘンリクはため息交じりに言ったが、ゲルトは通路を眺めながらヘンリクの肩をそっと叩いた。
「もしかしたらよぉ、通路が狭かった理由がこれなんじゃないですかね、考えたくはねぇけどこの広場が中間地点だとしたら参ったなぁ」
ゲルトの予想は的中しそう簡単にこの階層を突破する事は出来なかったどころか今度はもっと複雑な迷路になっているし、またしてもミノタウロスに襲われる羽目になってしまった。
「おっ雷銃」
後ろからにじり寄って来たミノタウロスに向かって魔法を放って倒すが、決して喜ばれる行動では無かったようだ。
「ってぇ~、いきなり撃つんじゃねぇよ、障壁が待てねぇなら俺を早めに呼べよな」
「何時そんな暇があるんだよ、だったら最後尾は俺じゃなくてヨモギか誰かにすればいいだろ」
「いきなり現れたら俺には無理ですって、武器がこれなんだから考えて貰わないと」
ヨモギの武器は大きすぎる程のハンマーなのでそれで攻撃をするにはある程度の距離と時間が必要になってしまう。誰かに動きを止めて貰えば圧倒的な攻撃力だがひとりで対処出来る程の実力はヨモギには無く、それはジールもほぼ同様だ。
こんな狭い通路が待ち受けているとは誰も想像しなかった事がかなり裏目に出てしまっている。
「あのよぉ、魔法剣で対処するのはどうだ、あの音ならまぁ許せるんだがな」
「絶対に嫌だね、俺が剣でミノタウロスに勝てると思うのかよ、簡単に殺されて終わりなんだよ」
「あんな事が出来る奴が情けねぇ事言うなよな」
そんな事ぐらい言われなくても理解しているが俺はズルいかも知れないがなるべく敵から離れて攻撃しないと生存率がかなり下がる。
「そんな事を言っても無駄でしょ、だったら後ろから攻撃されないように早く行くしか無いんじゃない」
「少しアブねぇけどそっちの方がマシって奴か」
誰もが多少の危険よりも音の方を嫌がったので小走りでこの階層を走り抜ける事を選択した。
◇◇◇
「ねぇまだなの? この階層に入ってからもう三日だよ、どれだけ広いのよ」
「広いと言うか迷路が複雑なんですよ、時間によって壁が出来たり消えたりするからややこしいんですよ」
ハルはずっと地図を作りながら移動をしていたおかげでこの階層の秘密に気が付いたのだが、まだ攻略までは至っていない。
「あ~もう面倒くせぇなぁ、頭は痛くなるしよ」
「悪かったな、五月蠅い魔法でよ」
「ちょっと先頭と最後尾で喧嘩しないでよ」
「分かっているがよ、あのよぉもっと障壁が早く出来ねぇもんかね」
「あのねぇ旦那、そんなのは魔法省の連中でも無理なんだよ、何でも魔法で解決できると思ったら大間違いなんだぜ」
「あんた達男のくせにさっきから五月蠅いんだよ」
「「「………………」」」
こんな場所でまともに休憩など取れる訳もなく、誰もが寝不足と疲れがたまってきてちょっとしたことでもいさかいの原因になってしまっている
せめてこの階層に現れる魔物がミノタウロスでなかったらもっと楽が出来たのだが……パーティの数を最低限にしてしまったのが失敗だった。
ほとんど会話も無くなりこの階層だけで6日が過ぎようとしていた頃にようやく下に向かう階段を発見し誰もが心の底から安堵した瞬間だった。




