第八十二話 43層の変化
あれから数時間だけ休ませて貰うと体力は通常通りの回復だと思うが、魔力は完全に元に戻っているように思う。
「どう?よく眠ってけど」
「あのさ、完全に回復しているんだけど、変だよな」
「普通じゃありえないと思うけど、あんたはあれだからじゃない」
ジールは俺の秘密を知っているから納得したようだし、ヘンリクやドワーフの二人も回復したのならそれでいいと思っているようだがゲルトはまだ怪しんでいる。
「信じてくれよ、あんまり言いたくなかったんだけどさ、この杖の中には俺も知らない秘密があるんだよ、もしかしたらだけどある一定の魔力を失ったら補充するようになっているんじゃないかな」
「魔力回復の魔石あると? それが自動で補充をしたとおっしゃるのかい、にわかには信じられねぇですけど本当に回復したんでしょうね。もし嘘だったらどうなるか分かりますよな旦那」
「あぁ命が掛かっているんだ。そんな嘘はつかないさ」
胡散臭い嘘ではあるが本音では戻りたくないゲルトは信じようとしてくれた。そしてそのまま43層に入って行くと数時間前とはまるで違う世界に変化している。
「何だここは、地図だと森になっているんだぞ」
「ねぇさっきもこんな感じだったの」
「いや、確かに森だったしまるで違っているよ」
目の前には焼け焦げた森も無ければ最初の空間から左に急坂を下りると更に森が広がっていたのだが今はただの広い部屋の様になってしまっている。
「旦那が想定以上のダメージをダンジョンに与えたから形が変わったのかも知れないね、まぁ確かな事は此処では分からんけど、油断しないで進むこったね」
「あぁおっさんの言う通りだな」
ヘンリクはいつもと同じように先頭を歩いて行くが、どんなに歩いてもミノタウロスどころか小さな魔物すら出てこないのでそれが余計に警戒心を強め速度が遅くなる。
それに加えて今のこの階層は進めば進むほど暗くなってきていて今では3m先が辛うじて見えるようになってしまっている。
するといきなりヘンリクが立ち止まったのでその大きな背中にぶつかり、後にいたゲルトもぶつかって来た。
「旦那ぁいきなり止まらねぇで下さいよ、こんな場所で遊んでどうするんですか」
「俺じゃないよ、ヘンリクが急に止まるから悪いんだ。どうしたんだよ」
「どうしたじゃねぇよ、あれが見えるか」
ヘンリクは奥を指さしたが暗闇が見えるばかりで何を言っているのか分からない。
「ちょっといいから進んでよ、あんたみたいな野人じゃないから見えないよ」
後ろからジールが怒鳴ってきたのでヘンリクは再び歩き出すと、10mも歩かない内に下に伸びている階段が見えて来た。
「どうだ、俺が驚いたのはこれだよ」
「まさかもう終わりなのか、俺が見たのはかなり広い森があったんだぞ?」
「ちょっと直ぐに階段に入らねぇでくだせぇよ、いくら何でもおかしすぎるので慎重に調べないといけねぇや」
ゲルトは荷物の中から適当なもの投げ入れたり慎重に壁や階段を叩いたりして1時間程調べたが不審な点は何一つ見つける事が出来なかった。
そうなると広さ迄変わってしまい歩いた感覚で行くと500mも歩かない内に43層は終わってしまっている。
「どんな罠かも知れんが降りてみましょうか」
「そうだな」
結局何も問題なく下に下りる事が出来て、今度の44層は天井が高いが横幅が二人が肩を並べるのがやっとの道が見えている。
そのまま入って行くのかと思ったがゲルトは階段の上を振り返りながら呟いた。
「あっしはね鉱石ダンジョンの中は10年以上毎日のように入っているですが、こんな事は初めて聞きましたぜ、もしかしたら43層だけが壊れてしまったのかもしれやせんな」
「そんな事あるの?」
「だから分かりませんって、まぁこの事は」
「良い事思いついたぞ」
ゲルトの言葉を遮るようにしてヘンリクは興奮したように大声を上げたのでジールは思いきり舌打ちをした。
「ちょっと大声を出さないでよ、此処にはミノタウロスがいるかも知れないんだよ」
「あぁすまんすまん。ただな本当に楽な方法が閃いたんだ。いいかユウにこの階層も同じように壊せば良いんじゃねぇか」
無茶苦茶な方法かもしれないけど俺もその意見には賛成だったが、ハルとヨモギは大反対をしている。
43層の地面を調べた訳ではないが本当に壊れてしまったのなら鉱石が取れなくなる可能性があるかも知れないからだ。
「そんなに怒るなって普通にいくから安心しろよ、なぁユウ」
「そうだね、上では森があったし、もしかしたら何かの鉱石が反応したからああなったと思うんだ。普通に考えて俺の魔法だけじゃいくらなんでもああはならないはずだよ」
「だとすると爆発を起こす鉱石があった可能性があるんですよね、それが……」
「二人とも落ち込むなって、この階層にもあるかも知れないし、そもそもそれが正しいかどうかも分からないんだからさ」
ちょっとだけ面倒なドワーフ達だなとは思ったが、顔に出さず軽く顔の前で手を合わせて謝る事にした。




