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SIDE7 さようなら

 所長の話は最初の頃は同情をしてしまうが、後半になってくるとまともに聞いてはいられなくなった。


「あんたさ、狂ったんだな」


「狂っただと、随分と生意気な事を言うじゃねぇか、いいかこの世界は力が全てだろうが、おめぇは気が付かねぇのか、魔道具なんて便利なものがあるのによ、作るのは殆ど戦いに使う物ばかりじゃねぇか、暮らしを豊かにするなんざそんな余裕はこの世界にはねぇんだよ」


 確かにその考えは少しだけ理解出来るが、だからと言って盗賊行為が許される道理は全くない。


「あんたの言葉はただの言い訳なんだよ、それよりもなぁあんたはゴルゴダとイレイガを繋ぐ街道で若い女性を殺したのか、額にやけどの跡がある子だ、どうなんだ」


「いきなり何だ、良く分かんねぇが、そんな事を覚えている訳ねぇだろ、まぁ若い女だったら殺すだけじゃ勿体ねぇよな」


 その言葉に目の前が真っ赤に染まり、テーブルを蹴り上げてその勢いで黒刀で顔面を貫こうとしたが、頬の皮膚から先に剣先は入って行かない。


「話を聞けよな、俺に通用するかよ、それよりその女はお前のだったのか? だったら悪いことしちまったな、お詫びによ気に入った女を攫って来てやるからそれで手を打たねぇか」


「ふざけろよ、あんたどうしちまったんだよ、狂い過ぎなんだよ」


「あ~青くせぇな」


 所長は素手で黒刀を掴むとそのまま握りしめて砕いてしまった。


「あぁぁぁぁぁぁっ」


 怒りのままにその砕かれた黒刀で今度は首を刎ねようとするが、首に当たった瞬間に折れてしまう。


「しつこい野郎だな」


 動揺しているエドの右頬に所長の拳が吸い込まれていってそのまま顎の骨を砕きながら身体ごと吹き飛ばした。


「ごっがっ」


「諦めろって、いいか俺に従うか嫌なら死ぬしかねぇよな」


 今度はつま先がエドのみぞおちに入り、そのまま地面を転がされた。


(くっそ~何だよこの力の差は)


 転がりながらも素早く懐から回復薬を取り出して口の中に流し込むと痛みが全て消えていく。


「お前なぁそんなのを飲んでも同じ事だぞ」


(どうしたらいいんだ。何か、何か)


 にやけて顔をしながら近づいて来る所長を見ながら黒刀を持った手に必要以上に力が入る。すると震えが一瞬だけ起こり力が抜けていった。


「お前、何をしているんだ」


「はぁ?」


(どうして驚いているんだ? 何があった?)


 所長の視線の先にある黒刀を見ると失った刃の部分が薄っすらと青い刃が付いている。意味が分からないが構えをしている振りをしながら顔に近づけるとその刃から冷気が伝わって来た。


(これは何だ? 冷気なのは分かったが斬れるのか?)


「無駄な事をやるつもりなのかよ」

 

 またしても殴りかかって来たので今度はその拳を躱し、背後に回ってその刀で背中を突き刺すとすんなりと体の中に入って行った。


「どうだっ」


「残念だけど痛くもねぇんだがっがが、ちょっと待てよ何をしたんだ。止めろって仲間だったじゃねぇか」


 刀が刺さった部分から徐々に所長の身体が氷細工のように半透明に変化していく。


 そしてその身体は全て凍りついてしまったので刃を抜いてそのまま袈裟斬りをするといとも簡単に粉々に砕け散った。


「頭~」


 今まで動かなかった盗賊達が一斉に飛び掛かって来るがその新たな刃で斬りつけると瞬時に凍り付き切り離されて地面に落ちた部分は砕け散って行く。


「家の旦那に何をした~元に戻しやがれ~」


 髪を振り乱しながら三人の女が短剣を片手に襲いかかってくるが、エドは剣を使わずにその腹に拳を当てて意識を奪うだけにする。


 他の女は向かってはこないのだが怒りをあらわにし、その中で一人の中年の女が怒鳴り声を上げて来た。


「ちょっと待ちなよ、ここまで殺したんだったら私達も殺したらどうなんだい」


「………………」


「何か言えよよ、あんたは稼ぎ手を全て殺したんだ。あたい達はどうやって生きて行けばいいのか言えよ」


 泣きながらその女はその場に座り込んだがエドは視線こそ向けたが黙ったまま出口を目指して行く。


 するとまだ10歳にも満たない少年がエドの前に立って、流れる涙をそのままにしながら憎しみの籠った目を向けた。


「お前の顔は覚えたぞ、いつか必ずお前を殺してやるからな、覚悟しておけよ」


 エドはその少年の横を取り過ぎようとしたが立ち止まり少年の視線に合わせるように片膝をついて話し掛けた。


「構わない。その時お前、盗賊、殺す」



 ◇◇◇



「アニキ、本当にあのままにするんですか」


「終わった、隊長に言え、もう何もない」


 街に戻ったエドはそのままドゴンの店に向かい刃の無い黒刀を預けるとその日から自分の家からは出て来なくなった。


 エドは目を瞑っていてもあの女達や少年の姿が浮かんできてまともに眠れなくなてしまった。 


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