第八十話 さぁ実験の始まりだ
「さて、上手くいけば良いんだけどな」
階段から一歩だけ出た場所に立って耳栓を嵌めて杖の先に雷の玉を出現させる。
(これだけじゃ意味無いかな? だったらもう少し出してみようかな)
更に5つほど増やして息を整える。
「意味が無かったら終わりかもな、さぁ好きなだけ暴れて来い」
耳栓をしていても工事現場の中にいるような音を残し、目標をあえて定めていない【雷銃】は木々を倒しながら自由に飛んで行った。
出来れば当たった場所に火がついて欲しいと願ったが火種はあるけれどもくすぶってしまっているようだ。
(そうだよな、ダンジョンの木も地上にある物と変わらないって事か)
上の階でたまにあった木は水を吸って生えているようには見えなかったのでもしかしたら燃えやすいかもと思ったが実際はそうにはならなかった。
(こうなると正攻法で行くしか無いのか……無理だろ……あっ)
手前の方の木は燃える事は無かったのだが、何故か辛うじて見える奥の方から火柱が上がっているのが見える。
(ちゃんと燃えているんだよな?)
じっと見ていると確かに森の木に火は燃え移っているようだがその火の中に明らかにおかしく見える場所が存在した。
(もしかしてトレントが燃えているのか? 動き回るから余計に火が燃え移ったと考えて良いのかな?)
「まぁいいか、さぁもっと暴れろ雷銃」
トレントは燃えると言うのが正解なのかどうか分からないが、あの程度では足りないので今度は10個ほどの【雷銃】をまたしても無差別に放った。
(本当だったらトレントを狙い撃ちにした方が良いんだろうけど、この中に入るのは怖いからな、うわぁ)
目の前を【雷銃】が通過しもう少しで当たりそうになったので一度階段の中に避難をする。特に扉やカーテンのような物がある訳では無いのだがその間には何かがあるようで先程まで感じていたほんの少しの熱気が全く感じられなくなった。
「結界があるんだろうな、だったら安心だな」
階段から見ていると目の前が赤い炎で包まれ始めたが階段には全く影響はない。ただこの階段い逃げ込んでくる魔物がいるかも知れないので少し上に登って階段を上がって来る物音に集中する。
(下の様子が分からないけど、仕方がないよな)
階段に座っているとかなりの魔力を使ってしまったので疲れてしまったせいかいつの間にか眠りに落ちてしまった。
「うわぁっ、何で俺は此処で眠っているんだよ、予断しすぎだぞ」
目が覚めた途端に自分の愚かさに冷や汗が大量に流れ一気に目が覚めた。馬鹿な事をしてしまったがそのおかげか魔力も殆ど回復したのでもう一度43層に下りていくとそこは前と違った風景が広がっていた。
(嘘だろ、もしかして木もダンジョンに吸収されたということなのか?)
何も無い只のダンジョンが広がっているのでそのまま進んで行くと壁の端には少し枝や幹が燃えただけの木はその場に残っている。
魔力感知をしても何も感じないので恐怖より好奇心が勝ち、一人だと言うのに更に先に進んで行くと直角に曲がる道が見え、その道はかなりの急坂となっていてその下には先程とは比べ物にならない密集したジャングルが再び広がっているしその面積は此処からでは見渡せることが出来ない程広い。
(何だよ、俺が燃やしたのはほんの一部じゃないか、その一部すらこれまでの冒険者は抜けられなかったという事か)
どう見てもかなり上から下のジャングルを見下ろしているのでもしかしたら坂のしたは44層かも知れないがそれを判断する事は出来ない。
「まぁいいか、これだけの広さだったらあれを試してみよう」
杖を天井に向けると100m程先の場所にぶ厚い雲の形をした競技場程の大きさの雷を形成していく。これだけ魔力を注いでも全然消費している感覚が無いのはかなり調子が良いのだろう。そこからイメージを乗せていくと一気に魔力が減っていくのを感じた。
重低音の嫌な音がこの階層中に広がり始め、これだけ離れているのに身体に痺れを感じて来た。
「さて、イメージ通りに動いている奴を狙うんだぞ、雷撃」
形容しがたい破裂音が響き、【雷撃】が落ちていくと同時に何かの力で身体が吹き飛ばされてしまう。
「いってぇ~、何だよ今のは」
身体はかなり痛むが砂埃を払って普段は使えない【雷撃】の結果を見に行く為に立ち上がりながら上を見ると、天井付近にあった雷の雲は消えていたので全ての雷は降り注いだようだ。
「嘘だろ、あんなに魔力を使ったにしてはいまいちだな」
確かにいろんな場所から火柱が上がっているし、その火が燃え広がってはいるが期待していた結果とはまるで違っている。
(ちゃんと動く物体を狙うようにイメージしたんだけどな、そんなに上手くいく訳じゃないか、それにミノタウロスもいるしな、そう簡単に魔物を自動追尾で倒せる訳はないって事ね)
諦めて戻ろうかと思った時になってようやく所々で火が大きくなっていく。このままいけば先程と同じようにジャングルが消えてなくなるかも知れない。
(だとすると風を送った方がいいかな……しかし風魔法は苦手なんだよね、そうなると爆風でいいのか?)
何処がこの下の中心だか分からないが大型トラック程の大きさの雷の玉を魔力を注ぎながら飛ばしていく注ぐ度にバイクのエンジン音が聞こえ光も強くなっていく。
雷の玉が大きいのでしばらく魔力を注いでも大丈夫だろうと思っていたがいきなり音が闇が止み、輝きすら失った。
「やばっやり過ぎた、雷瞬」
直ぐにこの場から逃げ出すと後ろから渇いた破裂音が聞こえて来たが、その時には階段に滑り込む事に成功している。
「あっぶな、えっ何」
後ろを振り向き階段の先には全てが青い光に包まれているが、この階段にはその光は全く入って来ないし熱すらも感じられない。
「すげぇな、本当に安全地帯なんだな」




