第九話 初めての魔法?
「ほれっ早く魔力を制御せんとまた魔力切れを起こすぞ、それともあの状態に慣れたとでもいうのかい」
「がはっそんな……訳無いじゃ無いですか……ぐぅごっ」
おばば様の指導もかなり強引で、強制的に俺の中にある魔力と言う物を放出させてから俺自身の力で制御するという訓練がもう一ヶ月以上も続いている。
体の中の魔力を出し尽くすと、言葉に出来ない程の苦しみが待っているので早く魔力の制御を覚えないとそろそろ気が狂うかも知れない。
今まではずっと二人だけで指導を受けていたが、今日はドロフェイとオルガが暇つぶしに見学に来ている。
「おばば様、この訓練はちょっとやり過ぎじゃないでしょうか、本当にこんな事を続けていたのですか」
「そうじゃ、早く次の段階に行くにはこれしか無いだろ、異世界人なら何とかなるんじゃないかのぉ」
簡単に言ってくれるが、そもそも勇者としての力が無いから弾かれて此処にいると言う事を忘れているように思える。
「ほれっいい加減制御してみろ。今日で制御出来んかったら森に放り出すからの」
「おばば様、この状態で森に出したら死にますよ」
「そうだぜ、これを聖獣様が知ったらどう思うか」
「五月蠅いわい、今日中に身に付ければ良いだけじゃ」
心配そうな二人の顔を見ると魔力を制御したいし、それに魔力切れで森に置かれたら俺は簡単に魔獣のエサになってしまう。
もうすぐ陽が落ち始めてきて、いよいよその時が近づいてきたと思うと恐怖が身体を包んでくる。
(ここで終わってたまるかよ……あれっ」
「あのっ何時からか分かりませんけど、もしかして出来てます?」
「何じゃ今頃気が付いたのか、お主は随分と前に制御出来とるぞ、そもそもいつもだったらとっくに意識を失っとるじゃないか、それが分かったのなら早よぉ魔力を形にしてみせい」
だったらもっと早く行って欲しかったが身体の中に魔力らしきものが流れているので、それを掌の上に出現させるようにイメージしてみる。
すると掌から揺らめく光が立ち上り、それが段々と集まってボーリングの玉ぐらいの球体が掌の上に出来上がった。
「お前の属性は雷なのか? 随分と珍しい属性を持ってるな」
「いいかい、それを森に向かって投げて見るんじゃ」
「やってみます」
雷と聞いたので決して触りたくなく、更にはバチバチと音が大きくなり始めたので思わず顔をそむけたくなった。
触れないようにしながら前に手を振ると球体も同じように等間隔で動き出すが、それ以上離れる事は無い。
「早くするんじゃ」
「分かりました」
振りかぶってボールを投げるようにして見るが、全く飛ぶ気配は無い。
「何をしとるんじゃ、それは魔力なんじゃぞ、力ではどうにもならんわい」
「あぁそうですよね」
視線を森に向け飛んで行くように強く念じると、ますます激しい音が鳴り響く。
バチバチバチバチバチバチ
音を置き去りにその球体は次の瞬間には木の幹に大きな穴をあけ、その先の木々も次々と倒したり穴を開けたり燃やしたりと何だが酷い状況を生んでいる。
「早く解除せんか、何処まで被害を出すつもりなんじゃ」
「えっどうすればいいんですかね」
球体が通過した跡の地面は黒焦げになっていて、もうそれが何処まで続いているか分からないし、身体からどんどん力が抜けてく。
「あ~もう、ごめんね」
オルガの声が聞こえたと同時に頭部に衝撃が走り、俺の視界が暗くなっていった。
◇◇◇
(う~んなんだよ、オルガめ絶対に殴ったよな)
ゆっくり目を開けるとおばば様から与えられた部屋の中なので、どうやら森に捨てられた訳では無かったようだ。
窓から入って来る日差しはあの時より確実に強いので、どうやらあのまま夜を超えてしまったように思える。
おばば様を探したが見つからず、いつもならのんびりと畑仕事をしているエルフの姿も見えない。まるで誰もいなくなってしまったようだ。
「ユウ君、みんなに食事を運ばなきゃいけないから手伝ってくれよ」
「それは良いですけど、みなさんは何処にいるんですか」
後から声を掛けてきたのはおばば様に家にいつも食事を運んできてくれる中年のエルフの女性が声を掛けてくれたので話を聞くと、原因は全て俺にあったようだ。
かなり広範囲に森林火災が起こってしまったので総出で対処しているそうだが、その場所に到着するといつもと変わらない風景が広がっている。
「なんだ、冗談だったのか」
「何にが冗談なんじゃ、今はもっと先を元通りにしているんじゃよ、後で全員に謝っておくんじゃぞ」
いきなり後ろからおばば様が頭を叩いてきたが、森林火災は冗談ではなく実際に起こった事だが、里のエルフが【自然魔法】で森を再生しているそうだ。
(よく見ると森が綺麗になっている様な気がするな)
「あの……すみませんでした」
「まぁ、ちゃんと操作方法を教えなかった儂も悪いんじゃがな、それにしてもやはりお主の魔力は恐ろしいの、オルガが止めなかったら何処まで被害を出したのかの」
「俺でも見えない位の早さでしたからね、森を超えたんですかね」
「んっそうでもないぞ」
「えっ」
俺の頭が思い浮かべたのは遥か彼方まであの球体が飛んで行った光景なのだが、実際は距離が離れるにつれ速度も威力も弱まったそうだ。
球体がぶつかった被害よりも副産物の火災による被害の方が何倍も影響を出したらしい。
「これからはそんな被害を出さんように覚えなくてはの、儂らの魔法は人間の魔法と違ってイメージでどうにでもなるからの」
「儂らの魔法ってどういうことですか?」
「最初に言ったじゃろうが、お主が教わっているのはエルフの魔法の使い方であって、人間の魔法の使い方とは違うんじゃ、忘れたのか」
「あぁそうでしたね、すみません」
絶対にそんな説明はおばば様からも誰からも聞いた事はない。そもそも人間が使用する魔法の使い方ならもっと早く使えるようになったんじゃないかと思うが、今更だし口に出してこれで終わりにされるよりかは謝った方がましだ。