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第七十三話 鉱石ダンジョンにて

「何かズルいよな」


「何がよ」


「だってさ、今ダンジョンに入っているのは4人だけじゃないか」


「仕方ねぇだろ、初めて入るダンジョンなんだからよ」


 鉱石ダンジョンに入って先ずは40層を目指しているのは俺とジールとヘンリク、そして案内人としてイケメンドワーフのベルンハルトの四人だけだ。


 ベルンハルトはアキムから紹介された武具店の店員で顔だけではなく名前まで恰好がいいのだが少し長い名前なのでハルと呼んでいる。


 ダンジョンは5層降りるごとに上級種の魔物がいてそれを倒すと転移魔道具に加工が出来る魔石が手に入る。それを使えばその上級種の影響がある層の何処にでも転移する事が出来て更に一度倒してしまえば二度と上級種は現れない。


 ただしその転移魔道具を使用する為には一度は自分でそこまでに行って転移魔道具に触れなければ飛ぶことは出来なくなっている。


 その為にハルを除く俺達は自分の足で40層迄降りなくてはいけなかった。


「今日はどこまで目指しましょうか、一応食料は3日分持ってきましたのでなるべく下まで目指しましょう。40層迄は遅くとも3週間以内に到着したいですからね」


「えっそんなにかかるの……いや何でもない。先ずは2層に行こうか」


(そんな顔で睨まないでくれよな、仕方が無いんだって元の世界にはダンジョンなんて無いんだからさ)


 ジールの冷たい視線に気が付いた俺は最後尾を歩いているとやはり近づいてきて俺だけに聞こえる低い声で話し掛けてくる。


「あのさぁ質問は私にしなって何度も言ったよね、それともまた記憶喪失を理由に嘘をつくつもりなの」


「悪かったって、だったらさあれは何をしているか知っているかい」


 ダンジョンの中はかなり広い通路が広がっていて所々に広場の様な場所があってそこで鉱石を発掘しているのは分かるのだがその後ろでは重装備の冒険者が武器を構えて立っている。


「犯罪奴隷じゃないから只の護衛じゃない? 鉱石ダンジョンは初めてだから良く知らないよ」


(そんな知識で良く質問しろとかいうよな、まぁ言葉に出せないけど)

「魔物なんてここまで一度もみなかったけどな、ダンジョンって上級種を倒すといなくなるのか」


「普通のダンジョンならそんな事は無いんだけどね」


 今は二層を歩いているのだが先頭を歩くハルはちゃんと武器を構えて慎重に歩いている、ただし魔物の姿は一度も見ていないしそれは3層に入っても同じだった。


「今は出て来てはいないけど油断しないで下さいね、それに見つけてもあえて倒す必要が無いので逃げちゃいましょう」


 ハルの声掛けがあってからようやく魔物を見かけるようなったのだが、現れる魔物は昆虫のような魔物なので見つけるたびにジールは小刻みに震えている。


「あ~もうやだな、何であんな魔物しかいないのよ」


「5層迄はあんなもんですよ、6層から10層にかけては蜘蛛型の魔物が出てきますよ」


 10層の上級種は女郎蜘蛛のアウラネだったそうでその影響が出ているそうだ。


(上級種は出てこないのにその影響だけは残るのか? 何か変な感じだな)


 暫く大した問題も無く進んで行ったのだが、5層に足を踏み入れるとそれまでとはまるで違って空気が何故か重く纏わりついてくる。


「何だか嫌な感じがするんだが、どうなっているんだ?」


「そうですね、この感じだと1ヶ月以上はどのパーティも掘っていないようですね、まぁ5層は休養期間に入っているという事でしょう……どうしました、理解出来ませんか?」


 ヘンリクも鉱石ダンジョンは初めてだったようでハルによる鉱石ダンジョンの講義が歩きながら始めってしまった。


 だがそもそも鉱石ダンジョン専門の冒険者にはなるつもりがないので中々頭の中に入ってこない。


「あ~誰もいないせいか群れが出来ているじゃないですか、みなさん見えますかあそこにいますよ、あんなのを相手にしても豆粒ほどの魔石しか生まれませんのでここも逃げちゃいましょう」


 ハルは反対側の壁に沿って突っ切るつもりだがそろそろ魔法を試してみたくなった。


「ちょっと待ってくれよ、この階層には誰もいないんだったらやらしてくれないかな」


 マッドスパイダーの30匹ほどの群れは俺達を見つけたのか塊のまま迫って来る。一匹一匹は原付バイクのタイヤ程でしか無いがそれが群れでしかも薄暗いこの中だと少しだけ恐怖に感じる。


「さて、この魔法は効くのかな?」


 杖の先に細長い雷で出来た短い針を40本ほど浮かべてみる。地上でなら「ジジジ」という俺の魔法にしては静かな部類に入るのだがこの中だと反響しているせいかかなり音が五月蠅く聞こえる。


(普通の土の壁じゃ無いんだな、何なんだよ)


 俺の方は自分で出した魔法の音にうんざりしているのにマッドスパイダーには耳が無いのか速度を変えることなく迫って来ている。


「さぁ行って来い雷針」


 一本一本がシンバルを叩いたような音と共に魔物に向かって飛んで行く。音を気にしなければ薄暗いダンジョンの中で光を放ちながら飛んで行く【雷針】は美しく軌道を描き、マッドスパイダーに刺さると花火のように光が飛び散った。


「身体が弾け飛んだのは見えないから良かったな、良い出来じゃないか……うんっ何? ちょっと聞こえないんだけど」


 魔法を準備する前に耳栓をしていたので肩を叩かれるまで分からなかったが、振り返ってみたジールの表情はあのオーガであるザシャと同じような恐怖を与えてくれた。


(そういや耳栓を渡していなかったよな)


 

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