その七 勇者?領主?
「すまんの勇者殿、まさか我が帝国にためにニックスヒリア王国が勇者を寄越すとは思わなかったわい」
「ん~皇帝さんよ、何か勘違いしていないか」
レストル帝国の皇帝を目の前にしているにもかかわらず平井は薄笑いを浮かべている。それだと王国の立場が悪くなるような無礼な態度を取っているにもかかわらず王国の兵士は誰も諫めようともしない。
ベヒモスを討伐した六宝星は第一王子と共に凱旋しようとしたが国王からそのまま帝国に向かうように命令が下されてしまう。
その命令を国王が出した理由は、魔国と帝国が休戦なった事を知った国王達は情勢がどうなっているのかを知る為に偵察部隊を帝国内部に送ると予定の時間になっても3つの部隊が戻って来なかった。
不思議に思った国王ではあったがゴルゴダに向かわせていた騎馬兵団から新たな情報を知る事になる。
更に情報を集めると帝国内部の戦力が大幅に下がっているのを知ったので隣国や魔国に取られるぐらいなら早めに支配してしまおうと国王が判断を下した。
その結果。六宝星と近くに待機させていた3つの中隊が帝国との戦争の先遣隊として派遣された。
帝国側は弱り切った国力を回復させるために王国に協力要請を出してしまったので早いとは思いながらも歓迎をする為に王都にむざむざ案内をしてしまう。
「貴様、ここで儂を殺しても生きて出れると思うなよ」
「それ以上馬鹿な事を言うなよ、何を勘違いしたか知らね~けどよ何処の街に行っても喜んで歓迎してくれたんだ。まぁそいつらは今頃毒で死んでいるけどな」
今村は平井が話している内に身体強化をして皇帝に剣を突きつけている。直ぐ後ろにいたこの国の勇者の男は魔王との戦いのせいでまともに動く事は出来なかった。
「貴様ら、我が皇帝様に何てことをするんだ。それでも勇者なのか」
「ん~……そうかあんたはこの国の勇者なんだな、随分と魔力が乱れているじゃねぇか、それに何だよその身体は、どうやら随分とこっぴどく魔王にやられたんだな」
勇者の男は怒りで顔を赤く染めながら腰に差してある剣に手を掛けたがその手には殆ど力が入っていない。
身体の至る所に魔道具を埋めて何とか生きている状態なのでまともに戦える状態では無かった。
「愚弄するな、私の命を投げ出せばお前ら如き……ぐわっ」
魔力を身体に集め始めた勇者ではあったが、その前に中尾によって簡単に押さえ込まれてしまう。
「おいおい、そいつは俺達の中でも一番弱いんだぜ、おいっ腕を落としてから捨ててしまえ、もう元には戻れねぇだろ、呪いに掛かっている様だしな」
「ぐわぁぁぁぁ」
中尾は何の躊躇もなく勇者の右腕を斬り落としそのまま窓から投げ捨ててしまった。
(徐々に体力を奪う呪いとは随分と魔族は酷い真似をするんだな、あっ捨てたら駄目だな後で拾いに行かせよう)
「それでは王子様、これで宜しいでしょうか」
「良いだろ、それでは皇帝殿話し合いをしようじゃないか、ただ少しでも馬鹿な発言をしたらその剣で命を失う事になるけど良いよな」
六宝星に守られるようにいた王子はようやく前に出てきて話し合いと言う名目の命令を次々と告げていく。
皇帝を守るためにいた兵士達は圧倒的な力を目の前にして何も出来なかったし、少しでも反抗的な態度を見せた者は簡単に殺されてしまった。
ほんの僅かな時間に皇帝はその地位を失い、僅かな兵と共に辺境の地へ送られる事が決まった。名目としては皇帝自らが魔族を恐れ逃げ出したことになっている。
窓から投げ捨てられた勇者は牢獄に入れられたが数日後に死んでしまったと平井は報告を受けたが、もうすでに興味を失っていたので確認すらしなかった。
◇◇◇
「何でこの俺がお飾りの領主にならなくちゃいけねぇんだ。このクソ腕輪さえなければ嬉しいんだけどよ」
皇帝が住んでいた都で名ばかりの領主となった平井は無言で食事をしている今村達を見ながらいら立ちを隠せないでいる。
(まさか俺達の身体に魂が無いとはな、クソがっ腕輪を外しただけじゃダメじゃねぇかよ、元帝国の魔術師を信じるなら先ずは魂の隠し場所を見つけないと駄目だと言うじゃんねぇか……あの野郎に伝えたいんだが一体何処で何をやっているんだ)
平井はあれから一度王都に戻る事が出来たのでその時に北村と言う男の意識を元に戻して置いた。津崎が王都に現れたら此方に来るように教えるためだが未だに連絡が入らない。
元帝国領の反乱分子は既に粛清が終わっているのでまた暇な一日が始まるのかと平井はいら立ちを感じていたがその予想は直ぐに裏切られることになる。
「勇者様緊急事態です。魔王が攻めて来ました」
「はぁっ、何を言っているんだ? 魔国との境には警備隊がいるだろうが」
「それが、もうすぐ此処にやって来るとのことです」
「何やってんだよ、どうして簡単に通過させたんだ」
「連絡が無いので全滅したと思われます」
急いでバルコニーに出て見ると空には広範囲に渡って黒い物体が迫って来ているのが辛うじて見える。
「勇者様、いかがいたしましょうか」
(何だよあの数は、俺達だけでどうにかなるのか)
◇◇◇
眼前に迫って来ている竜の部隊に対してありったけのバリスタを準備させて城壁の上で待っているとその中でもかなりの大きさを持つ黒竜が平井の前に下りて来た。
いきなり攻撃する事も考えたが千以上の竜とその上に乗っている倍以上の魔族に恐怖を感じている平井は少しでも対話を試みようと考え攻撃はまだ控えている。
「貴様が魔王なのか、一体何の用なんだ」
一匹だけで城壁の上に下りて来た黒竜は長い首を回して何かを探している。
「おいっあいつは何処にいるんだ? 俺はなぁ奴と戦いに来たんだがよ」
「あいつって帝国の勇者だった男か、残念ながら死んだんだよ、今は俺が勇者だ」
「はぁお前が勇者だと……雑魚じゃねぇか、あ~つまらんぞ」
いきなりブレスを放つと空の上で待機していた竜たちも一斉に城下に向かってブレスを放ち始めた。




