第七十二話 意外な人物
イケメンドワーフから紹介状をひったくった店主のドワーフは面倒くさそうにそれを読み始め、読み終わるといぶかしんだ表情で俺達を見てきた。
「お前達がワイバーンを討伐したじゃと、本当なのか」
「二人だけじゃないけどその中にいたことは確かだよ」
店主は鼻息を鳴らすと俺達から視線を逸らしてイケメンドワーフに言葉を投げ捨てるかのように言い放つ。
「こいつらがあそこに行くんだとよ、お前はどうする?」
「本当ですか? それなら勿論行きますよ、ミノタウロスが守っているって事はかなりの上質な鉱石があるはずですからね」
「そうかも知れんがそんなのは冒険者に任せればいいだろ、それにお前は戦えるのか?」
「C級程度の冒険者よりかは戦えると思いますよ、それに待っていても全然攻略出来ないじゃないですか、この街の冒険者なんてそんな連中なんですよ、ギルド長が紹介状を寄越したって事は攻略出来る人物だからじゃないですか、そうですよね」
イケメンが言う「そうですよね」は俺達に向けてだったが、絶対に攻略すると誓えるほど思いいれがある訳では無く無理なら直ぐにでも逃げるつもりだ。
「俺達が確実に攻略出来るかどうかははっきり言って分からないよ、それより此処に来たのは防具が欲しいからで仲間を探しに来たわけじゃないんだ」
「そういやそうじゃったな、魔法使いに合う防具とそれに杖も必要なのか」
「防具だけで良いです、それと……」
店主がお勧めしてきたのは魔法使いらしくいわゆるローブという物だったが、この世界では魔法使いはローブを着なくてはいけないと言う理由があるのだろうか。
魔物と対決するのにどうしてローブを装備しなくてはいけないのかどうしても理解が出来なかったが、店主の説明によるとローブには身体の魔力を円滑にする効果があるそうだ。
試しに着てみるとその効果を感じる事が出来たが、はっきり言ってしまえば誤差程度しか感じられないので却下した。
色々見せて貰ったが購入を決めたのは心臓を守る胸当てとそれと同じ素材のズボン、そしてゴムに近い素材で出来ている耳栓だ。
「その装備で本当に良いのか、それに耳栓なんてダンジョンには必要なかろうに」
「まぁいいじゃないですか、それにしてもこの装備の素材は何ですか」
「火龍じゃ、まぁ全部合わせて大金貨10枚と言ったところだな」
「えっ……あぁそうですよね、あの、申し訳ないんですけどもう少し安いのにしようかな」
「そうだと思ったぞ、まぁいい条件次第を飲んでくれたら大金貨1枚でいいぞ」
大金貨10枚だと気の遠くなる金額だったが条件を達成すれば価格は10分の1になる。ただし未達成の場合は正規の価格で買い取りとなってしまう。
(そうなると犯罪奴隷にまっしぐらか)
「あの、条件は何ですか」
「攻略出来なくても構わんがこいつが本当に行くのなら決して死なせん事だ、それにな他のドワーフが入ったとしたらそいつらもだ」
(う~ん、ジールと二人で逃げる事は出来ないって事か、だったら早めに撤退を考えないとな)
◇◇◇
店を後にしてアキムによってあてがわれた部屋で休んでいると神妙な顔をしたジールが中に入って来た。
「ねぇ下で情報を集めたけどやはり厳しそうだよ、オルガさん達がいれば良かったんだけど……やはりギルド長に言った方が良いんじゃない」
「まだ試してもいないのに諦めるなよ、いいかい、一度魔法をミノタウロスに撃って見て駄目だったらその場で諦めようぜ」
「それって格好悪くない?」
「どうせこの街に長くいる訳じゃないから気にしなければいいさ、それに行けば条件達成だからな」
消極的な考えではあったがプライドを捨てさえすればこれが最適だと思う。始めは渋っていたがジールも渋々諦めてきた時にギルドの職員が部屋を訪れ一時間後にギルド長の部屋に集まるように告げて来た。
(何だか怖くなってきたんだけど、大丈夫かな)
新し装備に着替えてジールと共にギルド長の部屋を尋ねると、緊張した顔ぶれの中に一人だけにやけた顔をしてこっちを見ている男がいる。
(あれっあの人は誰だっけな、何処かで会ったような気がするんだけど)
「いよぉ出稼ぎにきたらここは面白れぇ事になってんじゃねぇか、俺はB級だがまさか駄目だとは言わねぇよな、この前のお礼を兼ねて手伝ってやりてぇんだよ」
思い出したその男はワイバーン討伐の時に一緒に戦った盾師のヘンリクであの時はほんの少ししか話さなかったけど知っている顔がいる事で少し肩が軽くなったような気がしてくる。
「有難うございます。本当に助かるよ」
「おめぇも無茶するよな、まぁあの魔法を知っているから参加するんだがよ、もしも無理だと判断したら撤退を勧めるぞ」
「ええ、その判断はお任せするよ」
「彼の事はやはり知っている様だな、じゃあ他の者も紹介するぞ」
「あっはい」
ギルド長が集めたのは俺達を含めて10人のパーティとなり、その中にはドワーフ族もヘンリクもいるので当初の予定であったジールと二人だけで逃げると言う訳にはいかなくなってしまった。
「どうするよ、もっと人数を集めた方が良いなら此処に呼んでやるぞ」
「いえっ試しにこれで行ってみます」
ヘンリクがいる事で少しだけだが適当に入って逃げ帰るのではなく攻略がして見たくなった。ただこれ以上の数を増やされてもやりにくくなってしまう。




