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第八話 この里で

 この状態になるまでおばば様は暫く里で暮らして良いとは言っていたが、それはただ聖獣様のいる前のだけの話で二日か三日たったら人間の国に送らせるつもりだったそうだ。


 だが今は俺と言う素材に興味が湧いたのかこの里で魔法を覚えてみないかと言ってきた。


「魔法ですか、確かに興味はありますけど、のんびりしていいものか……」


「お主達を召喚した者は近くの人間の国では無いかも知れんのだぞ、それにな召喚したのは何処かの団体かもしくは国そのものかも知れんのだ。そしてそ奴らが使い物になるまで隠しておるじゃろうな、それまでどうするんじゃ」


(どうするって言われても……魔法かぁ)


「あの、やはり魔法を覚えた方が良いですよね、けど魔法ってどれぐらいで身に付くんですか」


「魔力が多くてもそれをちゃんと使いこなせるかは別の才能じゃ、それにな魔法の習得には終わりが無いんじゃ、どこで満足するかはお主次第じゃな」


 そうなると自分でゴールを決めなくてはいけないのだろうが、魔法の事を何も知らない俺にとっては今は判断する事が出来ない。


「ねぇ今はそんなに悩まなくても良いんじゃないの、このまま人間の国に入ったらあんたはかなり苦労すると思うよ、仲間を探す余裕なんてなくなるかもね、それにさ、おばば様が魔法を教えるなんて珍しいんだよ、人間になんて初めてじゃないかな、いいチャンスだと思うけどな」


 オルガの表情は無表情に近いが言葉口調は柔らかくなっているので、そんなに怖い女性では無いのかも知れない。


(食事も持ってきてくれたしな)


「お前はよぉ同じ世界の奴らの事が気になっているんだろ、俺達は冒険者としてたまにギルドに仕事をしに行くからその時に気にしといてやるよ、どうせかりそめの勇者としてではなくただの勇者として表に出てくるだろうからその判断は難しいがな」


「貴様は俺の弟弟子になるな」


 ドロフェイもクラウジーも俺がこの里で魔法を覚える事に賛成のようだ。もうこうなったら決めるしかない。


「おばば様、ここで俺に魔法を教えて下さい」


「…………ん~すまんの、さっき迄はつい興奮してしまったがの、よく考えるとその年齢から魔法の基礎じゃろ、いくら魔力があってもな……そうじゃ兄弟子であるお主がこやつに基礎を教えるんじゃ、儂の次に魔法が得意なんじゃから出来るだろ」


「私がですか」


 魔法の基礎を教えるのがどれほど面倒なのか分からないが、おばば様は俺の指導をクラウジーに丸投げし、俺はもうドロフェイの家からクラウジーの家へと居候先が変更する事になった。


(片付けを頑張ったんだけどな……まぁいいか)


 クラウジーに案内されて家に向かっているが、先程からいくら話し掛けても会話がまるで成り立たない。


 今は帰る方向が一緒のオルガがいるからいいが、これから二人だけになった時はどんな空気になってしまうのだろう。


「あんたさぁ兄弟子なんだよ、もう少し会話をしたらどうなの」


「いつもと変わらないだろ」


「はぁ~馬鹿だね、だからあんたは何時まで経っても神官に成れないんだよ、それでいいの」


「いやだ」


 どうやら俺が嫌われているのでは無いようだが、こんなのでちゃんと指導してくれるのだろうか。



 ◇◇◇



 あの日から十日ほど過ぎ、クラウジーと修業が始まったが、昔ながらの職人の世界と同じで見て覚えろと言うのが教育方針らしい。


 古い考えだと思うのでどうにかして欲しいと少しは思うが、こんな最初から文句を言う訳にはいかないので同じ動きを真似するだけだ。


 今日も川の畔でクラウジーの動きを真似ていると、様子を見に来たオルガがいきなりクラウジーを殴り飛ばした。


「あんた何やってんのよ、今までずっとこうだったの」


「痛いぞ、俺達もやったじゃないか」


「これだと何年掛かるか分からないでしょ、それを省略させる方法を教えるのがあんたの役目でなんだよ、あんたが優秀な魔法使いだとは認めていたけどこんなに馬鹿だとは思わなかったわよ、いいそれにね…………」


 俺はどうしたら良いのか分からずにそのまま胡坐をかいて瞑想しているが、もう一時間以上もクラウジーはオルガに怒鳴られ続けている。


(参ったな、もう止めてもいいのかな)


 説教が終わるとオルガはこの事をおばば様に報告をし、またもやおばば様から説教を受けたクラウジーはその場で解任され、たまたまその場にいたドロフェイが俺を教える事になったのだがそのせいで俺は生死を彷徨う羽目になった。


 何をしたのかと言うとドロフェイは魔法の出し方を簡単に説明した後でいきなり俺を魔獣の住処に放り投げ、恐怖によって魔法の発動をさせようと試みたが結果は最悪だった。


 ドロフェイが助けに入った時には片目と両手は無くなっており、おばば様の回復魔法が無ければ命は無かっただろう。


「お前は馬鹿なのか、もういいわいこやつの面倒は儂が見る」


「最初からやればこんな事にならなかったじゃねぇか」


「何じゃと、今何と言ったんじゃ」


「いえ、すみません」


 二週間後になって目を覚ますとおばば様が指導するという事が告げられた。



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