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その六 名ばかりの勇者

「クソがっ、何でこの俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。その原因がまさか冒険者だと、あんな屑共が余計な事をしやがって」


 六宝星と王子であるメティアスが意気揚々と王都に凱旋したのだが、国王から浴びせられた言葉は褒め言葉ではなく呆れたような侮蔑の言葉だった。


「メティアスよ、お前はどうしてそんなに自慢気に帰って来れるんだ」


「父上、お言葉ですが」


「ああん、この場で父上だと」


「申し訳ございません国王様、しかしながら我々は立派にワイバーン討伐をやり遂げたのでそのお言葉の真意が分かりません」


 メティアスは初討伐で立派な戦果を出したのにもかかわらずどうして国王がここまで機嫌が悪いのか分からなかった。


 ただ平伏しながら額から汗が滴り落ちている。


「報告はちゃんと儂の耳に入ってるんだ。お前らが討伐したのはたったの2匹で冒険者の連中の半分にも満たないじゃないか、そうだろ」


「数はそうかもしれませんが個体の大きさが違うので……」


「あのなぁそれはお前に気を使っただけなんだよ、実際は大きさは変わらんそうじゃないか……もういい、この汚名を返上するには別の事が必要だな、いいか、帝国と魔国との戦争で戻る場所を間違えた馬鹿なベヒモスが南の地で暴れているそうだ、いいか、今度こそは綺麗に討伐するんだぞ」


「たった今帰って来たばかりじゃないですか」


「ならいいさ、お前は王位はいらないんだな」


「……直ぐ出発致します」



 ◇◇◇



 メティアス直属の近衛兵団隊長のミハイルを先頭に馬を何頭も乗り換えてベヒモスを討伐する為に六宝星は高速移動をしている。


 王子は他の近衛兵と共に通常の速度で向かい、ベヒモスが出現している近くの街でいい結果だけを待つことにした。


 本来ならば六宝星に同行するのは近衛兵でも若い兵士があてがわれればいいのだが、王子はこれ以上問題をおこすと王位継承争いから除外される事を恐れ、一番信頼できる初老のミハイルを同行させた。


 殆ど眠る事が出来ない辛いこの移動にミハイルはあからさまに疲弊しているが、王子が国王になる事が出来れば更なる高みへ登れることが確実に決まるのでそれだけを楽しみに気力を奮い立たせている。


 いくつかの村を襲って好き放題しているベヒモスは今は満足げに森の中で熟睡をしている。此処では誰からにも縛られず好き勝手に生きる事が出来るので魔国に帰るのは止めようかとも考えていた。



 ◇◇◇



「早く討伐していい報告を王子に持って帰るぞ」


「分かってますよ、危ないですから下がって下さい」


(クソがっ、どうみても5m以上はある化け物じゃねぇかお前がやればいいだろ)


 木に寄りかかって寝ているように見えるベヒモスに対して平井は先制攻撃を仕掛けるべく石井歩美と今村に詠唱を唱えさせていた。


「いいか中尾は俺の盾になれ、そして二木は土壁を出して防御壁を作るんだ、春奈はいつでもヒールを掛けられるようにしていていろよ」


 ある程度の道筋をきめてしまえばそれからはその指示が最優先されながら勝手に動いてくれる。それに咄嗟に動かしたいときもイメージを送るだけで動かせるようになっているのでゲームよりも簡単な操作だ。


「詠唱が終わったようだな、じゃあ始めるか」


 歩美の業火の魔法と今村の石の矢の魔法が重なり合いながらベヒモスに降り注いでいく。


 森は燃え始め、地面はえぐられ土埃が舞い上がり視界が悪くなってしまったが、ベヒモスを中心とした半径100m以内に生存する生物は全て死に絶えてしまったであろう。


「まぁ安全に倒すにはこれでいいだろ、さて死体はと……おいおいおいおい」


 平井の目の前を血だらけの二木が右から左に飛んで行き、二木のいた場所には傷一つ無いベヒモスが鼻息を荒くして立っていた。


(いつの間に、中尾行けっ、今村はブーストだっ)


 中尾が捨て身でベヒモスを抑えている間に勇者だけが使用できる【ブースト】の詠唱を唱え始めた。


 身体能力が一気に10倍以上になるが、解除してきっかり1時間が過ぎると使用時間によってかなりの反動による激痛が襲ってくるが、平井には関係の無い事だ。


「ひぃぃぃぃ何だあれは、おい、その勇者には俺を守らせろ」


 遥か後ろにいて安全なはずのミハイルが平井に向けて怒鳴った。


(そんなことしたら俺がやらなくちゃいけなくなるだろ)



「お前~無視して良いと思っているのか、私が死んだらお前ら全員が死ぬんだぞ、それにな早く傀儡を寄越さんと後で後悔する事になるからな」


(くっ行けっ)


 平井はベヒモスの攻撃を躱しながら詠唱を始め、更には今村をミハイルの元に送った。


 ここまで平井が命令に忠実なのは、王都に帰ったその日に平井だけの腕輪に新たな効果が付け加えられ簡単に苦痛を与えるという物だった。


 ほんの数秒しか経験していないが平井にとっては地獄の苦しみだったので命令に逆らう事は完全にできなくなってしまった。


(クソ王子め、俺に対して此処迄するとはな、いつか必ず殺してやる……ブースト)


 平井の身体が赤い光に包まれると、ベヒモスは危険を察知したのかいきなり逃走を図る。


 だが、後から走って追いついた平井は剣ではなくただその拳で後頭部を貫いた。


(ったくよ、これで良いんだろ、あ~またあの地獄がやって来るのか)


 この戦いが正式な六宝星の初陣と記録された。


 

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