第六十四話 さよなら
ザシャは数分経ってもいまだに腹を抱えて笑っているが、馬鹿にされたからと言って短気を起こすと命の危険があるので我慢するしかない。
「あのさ、勇者じゃないし俺の魔法がお粗末なんだだったらもう帰ってくれないかな」
「……はぁはぁ、あぁすまんな、悪いな笑ったりしてよ、馬鹿にした訳じゃないんだ。ただよお前が勇者で実力をわざと隠していると思った俺が馬鹿みたいに思えてな」
手加減など一切していなかったし、かりそめとはいえ今村さん達の勇者よりもワイバーン討伐では成果を出したのだからもしかしたら俺の方が強いのかもと思ったがその自信が揺らいでくる。
「勇者ってそんなに強いのか」
「そうじゃねぇの、帝国との戦いでは勇者とは別の戦場でいたからこの目で見た訳じゃねぇけど、魔王の奴をあれほど追い詰めたんだから俺以上に強いのは間違いねぇな」
「だったら俺とは別次元だな」
「そうでもねぇぞ、俺がお前を勇者だと思ったのはその魔力を感じたからだ。ただなあれで本気だとしたら使い方が違うんだろうな、あれじゃまるで子供の魔法じゃねぇか」
そこまで言われると流石に腹が立ってきたが、目の前のオーガには勝てそうもないので必死にその気持ちを押さえ込むが、嫌味ぐらい言いたくなってきた。
「その子供の魔法にあんたの部下はやられたんだぜ」
「おいおい俺を挑発するなよ、もしかして俺と戦いたくなったのか?」
「いや、そう言う訳じゃないけど」
「まぁいいさ、お前は何だか知らんが早く魔法を撃つ事に拘り過ぎているんじゃねぇか、だから軽いんだよ、もっと魔力を込めねぇと俺には通用しねぇぜ」
「魔力を込めるってどういう事?」
「あのなぁ一応俺は敵なんだぞ、そこから先は俺じゃなくてその魔法を教えたエルフの奴に聞けよ、いいか、次に戦う時はしっかりとした魔法でこいよ、じゃねぇとつまらねぇからな」
何となくザシャの性格が見えてきたような気がするが、だからと言って敵であることを忘れてはいけないし、どうせなら他の情報を引き出したい。
「あのさ、帝国を滅ぼしたって事は次はこの国を魔国は狙っているのか」
「あ~ん、帝国は滅んじゃいねぇぞ、ただな形が変わっただけさ、それにな……」
今度は気分が良くなったようで、ザシャがスラスラと話始めたお陰である程度良い情報が取れたと思っている。
どうやら帝国は領土を切り取られこの先の南側の一部は魔国の領土となってしまった。戦いが終わった理由は勇者と魔王が戦ってお互いに重傷を負ってしまったせいらしい。
ザシャは休戦状態になってしまった帝国には手を出す事は許されていなく、新たな領地を治めているそうだ。
「あとな、言い忘れたけど先にちょっかい出したのはこの国の連中だからな、まぁその連中は殺しちまったけどな、だからワイバーンやコボルトをこの国に送ってよ、ちょっとした仕返しがしたかったんだよ、それで俺達はその結果を見に来ただけなんだ。まぁ余りにも簡単にコボルトがやられちまったからちょっとだけ戦おうと思ったんだがな」
「それは本当なのか」
「嘘を言うかよ、こっちは住みやすいように村を作ってるのに邪魔しやがってよ、俺達が帝国との戦いで疲弊したとでも思ったんじゃぇか、まぁそんなこった。元から本気で戦うつもりじゃねぇんだよ……そろそろ行くかな」
ザシャは唐突に立ち上がり帰ろうしたので思わず呼び止めてしまった。
「そっちが話があるんじゃなかったのか」
「ん~そうだな、お前が勇者だったらもっと聞きたい事があったんだけど違うからもういいや、ただな、お前は見込みはありそうだからもっと腕を磨いておけよ、今のままで戦ってもつまらねぇからな」
軽く手を挙げたザシャはそのまま坂を下り、項垂れているハーピーを無理やり起こすとその足に掴まって飛んで行ってしまった。
◇◇◇
ザシャの姿をずっと目で追っていると、ライル達が近づいて来たので会話の内容を全て話した。
「そうか、まさかこの先が魔国になっているとはな、そうなるとあの部隊はゴルゴダに……」
「隊長、それだとあの部隊は……」
難しい顔をしながらライルと副長が話しをしているが、その内容で何となくこの国がやろうとした事を察したのでそれ以上は聞いていられず、ジールを連れてそっと離れることにした。
「ねぇどういう事なの」
「この国が卑怯な国だって事だよ」
やはり世界で禁止されている勇者召喚をやろうとした国だけあって碌な事をやらないようだ。そんな国の思惑に捕まってしまっている皆を早く救わなくてはいけない。
「良く分かんないけどさ、もういいんじゃない。先ずはゴルゴダを目指すんでしょ」
「そうだな、何だか話が長そうだから先に行っちゃおうか」
騎士達の話合いは終わりそうも無いので勝手に此処から離れることにした。当初の目的であるコボルトは討伐出来たのだからもういいだろう。
(かりそめかも知れないけど勇者なんだし大丈夫だと思うしかないよな……それにしても魔力を込めるねぇ)




