第六十二話 人質の意味って知ってるのかい
「何を見ているんだ、戦え」
騎士達が一斉に動き出すがオーガが咆哮を上げると馬が怯えて全く動かなくなる。
「ジャマスルトコロスゾ」
オーガがよそ見をしている内に杖の先に魔力を集めていると、気色の悪い金切り声が聞こえてくる。
「クッシャーーーー」
その声の方向に顔を向けると唯一生きのこっているハーピーが長い髪をなびかせながら低空飛行で迫って来る。
「お前じゃないんだよ、あ~もう」
ハーピーの伸ばした手の先に光る太く長い爪が俺の身体に刺さる瞬間、地面から雷の網が飛び出し、その身体を包み込みながら坂の下へと転がり落としていく。
「ぐぎゃーーー」
ハーピーの悲痛な叫びと【雷網】の缶を握りつぶしたような音が重なり耳を塞ぎたくなるが、その間にも【雷網】はハーピーの身体に食い込みその肉体を焦がして行く。
「オーイ、ソコマデニシナ、コイツガドウナッテモイノカ」
いつの間にかオーガが一人の騎士の首を持ち上げている。だがその手にそれ程力が入っていないのか騎士は苦しそうにはしているがその顔色は正常のままだ。
「隊長、今の内に倒して下さい」
「ウルサイナ、ヒネリツブスゾ」
騎士達は近くにいるもののどうしていいのか分からずただ剣を構えてライルの指示を待っているようだ。
(どうしたらいいんだ。先ずはハーピーを殺さないように威力を変えるしか無いな)
ライルが一歩足を踏み出すとオーガその手に力を入れた様で騎士は力を失いぐったりとし始めた。
「すまん」
ライルが叫ぶと馬から降りた騎士が一斉に斬りかかるが、オーガは手に持っていた騎士を向かってくる騎士達に投げつけ、今度はライルを人質にとった。
「私は構わんからこいつを殺すんだ」
「ダマレ、オマエハヒトジチダ」
その間に【雷網】は只の光る網へと変化して音もなくなったのでもしかしたらハーピーに引きちぎれるかとも思ったが、既に瀕死のハーピーはただもだえ苦しんでいる。
ライルは口を押さえつけられながら持ち上がられているので、言葉を発する事は出来ずにただ暴れているがその動きはオーガにとっては何の意味もなしていない。
「魔法を解除したらライルさんを解放するんだな」
「ソウサ」
「それでその後はどうするんだ」
その後の事を何も考えていなかったのかそのオーガは首をかしげながら下を見るが、その下にいるオーガは直立不動のまま何も言葉を話さない。
「マタタタカエバイインジャナイカ」
「それじゃ同じだろ、だったらライルさんには悪いけどこのままハーピーを殺させて貰う」
俺の言葉に騎士達は睨みつけてくるが、ライルはハンドサインでそれでいいと言ってくれているようだ。
「ソレダトカエリガメンドクサインダ」
「だったらもう止めて帰ってくれよ」
人質交換などまともにやってくれないだろうと思っていたが、もしかしたらこのオーガなら交渉が出来るかも知れないと思い始めてくる。
(それでも、完全には信用など出来る訳ないけどな)
「ソレナラ、オマエトダケタタカイタイ」
「えっ俺と戦うのかよ」
「アタリマエダロ、ドウセマダイロイロアルンダロ」
ライルさんを離した瞬間に【雷網】がオーガを包むように地中に隠してあるが、音が聞こえないように深く仕込んであるのでそれが通用するかも分からないし、そもそも【雷瞬】でも逃げれ無いような奴とは戦いたくはない。
すると副長が馬から降りてオーガの間に立ちはだかった。
「それは認められない。何故なら彼は騎士じゃないからだ。戦うというのなら我々がやってやる。隊長、申し訳ございません」
涙を流しながら剣を構える副長は格好良く見えたが、それを目の前で見ているオーガはつまらなそうな顔で見ている。
「ナンダカイヤニナッテキタナ……コイツヲハナスカヤツヲカイホウシロ」
俺がハーピーを解放していないのにいきなりライルを副長の方に投げつけると、そのままオーガは両手を上げた。
「きさま~」
「待て、動くんじゃない」
ライルは顎を抑えながら手を広げ騎士達の行動を押さえつけながらゆっくりと立ちあがった。
「タタカワナケレバイインダロ」
「出来れば此処にいる理由を話して欲しいんだがな」
「ソレハドウカナ、ソレヨリカイホウシロ」
「分かった。ハーピーを解放する」
ライルの言葉と同時に【雷網】を解除したが、随分前から痛めつける威力はないので只消えただけだ。
「ハナスノハイイダロ」
「んっ」
オーガがいきなり走り出したので【雷網】は間に合わず直ぐ目の前に立って俺の肩を両手で掴んできた。
その顔は笑っているようだがそれが余計に怖い。




