第七話 魔力暴走?
クラウジーの表情は真剣そのものなので冗談を言っているようには見えないが、オルガもドロフェイも何も聞こえなかったかのようにクラウジーを無視してオルガが持ってきてくれたパンや野菜を並べ始めた。
「急いで持ってきたからこんな物しかないけどいいよね」
「何だよ、肉が無いじゃないか」
「あの、クラウジーさんが睨んでいるんですけど」
「気にしなくていいのよ、言葉数が少ないのは仕方がないけど、はっきり言わないこいつが馬鹿なんだから」
「こいつ魔力が異常なんだ」
クラウジーは今度は指を差してきて言ってきたが、俺にはその意味が分からないし、オルガ達もどうやらあまり理解をしていないようだ。
「あのなぁ、一応かりそめの勇者候補だったんだから魔力は高いだろうよ、それがどうかしたのか」
「お前らは分からんのか、こいつは倒れていた時は殆ど無かったんだぞ、それにさっきもちょっと高い位だったんだ。それが……なぁ」
「なぁって言われてもねぇ、たまたま増えただけじゃないの、あんたは気にし過ぎなんだよ」
俺は何も言えずただ事の成り行きを見守るだけだが、いきなりドロフェイが口に中に入っている物を吐き出しながら大声を上げた。
「あ~~~~もしかして魔力の暴走の事か、里の中でそんな事が起こったらどうなっちまうんだ」
「えっ本当にそうなの? それだったら大変じゃない」
「だからさっきから言っているだろ、高濃度の魔素の中に入れたのが間違いだったんだ」
オルガのその顔にはドロフェイが吐き出した物が少しついてしまっているが、それも気にならない位に興奮している。
「もしそうなら急いで浄化するしかねぇよな、俺はユウを連れて滝に向かうからおばば様を早く連れて来てくれ」
「そうね、おばば様が行くまで死ぬんじゃないよ」
(えっ死ぬって俺が? それともドロフェイ?)
ドロフェイによって担ぎあげられるとそのまま連れ去られいく。視界は地面しか見えないがその速度は車にでも乗っているのかと思うぐらいに早かった。
いきなりの事で理解が出来なかったが、ドロフェイは走りながら魔力暴走について話しを聞かせてくれた。
◇◇◇
「お~い、体に異常はないか」
「大丈夫だけどさ、この死体はどうにかなんないのかな」
「我慢しておけ~」
ドロフェイはかなり離れた場所にいて、俺は滝つぼの中にある一枚岩の上に座っている。目の前にある死体はついさっきこの俺を食べようとした大蛇が横たえている。
その時俺は全く反応出来なかったが、大蛇が大きく口を開けて襲い掛かってきたところをドロフェイが瞬殺してまた元の位置に戻って行った。
こんな大蛇がまた来るかもしれないと思うと気が気では無いが、またドロフェイが助けてくれると信じるしかない。
(参ったな、魔力が暴走すると異形の者になるか爆発して死んでしまうんだろ、本来の許容範囲こえて一気に魔素を身体に入れるとこうなるなんて聞いていないよ)
いつ身体に変化が来るのか分からないが、この聖なる滝が症状を抑えるとドロフェイ達は信じている。
「けっこう魔力が伸びたじゃないか、やはり普通の人間とは違うの」
いきなり背後から声を掛けて来たのはクラウジーに背負われたおばば様だった。驚きはしたもののどこかホッとする俺がいる。
「この急激な上昇は危険ですよね」
「ユウよ、儂に背中を向けてゆっくりと深呼吸するんじゃ」
背中に置かれた手はどんどん暖かくなりそこから体の中に何かが入って来るが、嫌な感じはしないどころかどんどん気分が落ち着いて来る。
「どうなんですか」
「悪くはないの……いや、それどころか面白いかも知れん……いや、怖くもあるの」
ブツブツとおばば様は呟いているので俺もクラウジーも黙ってただ聞いている。
「あっ何だか熱くなってきました。これは不味いんでしょうか」
「落ち着くんじゃ、これは暴走なんかじゃなくお主の成長じゃよ」
「えっ、こんな強い魔力を人間が持つという事なんでしょうか」
クラウジーが驚いたように声をあげると、そこにオルガとドロフェイもやって来る。
「やっぱりあんたの騒ぎ過ぎなんじゃない」
「お前なぁ、魔力の強弱が分かるからって変事言い出すなよな」
「仕方が無いだろ、いいかこいつはもう俺を超えてるしもうすぐおばば様も凌駕するんだぞ」
「そんな訳ないでしょ、だってかりそめの勇者の素質がないから弾き飛ばされたんでしょ、そうですよねおばば様」
「勇者の素質は魔力の強さだけじゃ無いからの。ただこやつは魔力だけは勇者に匹敵するんじゃなかろうか、まぁ儂が勇者と会ったのは随分と前じゃから忘れたわい」
詳しい事はおばば様でも分からない事が多いらしいが、兎に角俺は魔力の暴走とやらでは無い事が分かったので良しとしよう。
それに、クラウジーが慌てるほど俺の魔力が強いのであれば、この世界で全くの無力と言う訳では無いらしい。
(もしかして希望の光が差したんじゃないか)