第六一話 新たなオーガ
ライルが坂を駆け下りて行ったが直ぐに立ち止まり大声を張り上げた。
「引け~~~~~~」
耳をつんざくほどの大声が響き渡り、騎士達は戦闘を止め坂を駆け上がってくる。
(どうしたんだ? 不味いなこのままでは)
追いかける事はせずに息を整えているオーガ達を狙い撃ちをしようと思たが、射線上にライルが立ち撃たなくていいと叫んできた。
「まだ温存するんだ。奥を見てみろ」
すっかりと忘れていたが、川の向こうに引き返していた1組が再び此方に向かって来ている。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そのオーガが地鳴りのような咆哮を上げると、立っていたオーガは直立不動になり、瀕死のオーガもゆっくりと立ち上がり始めた。
「ライルさん、魔力は大丈夫ですから下の連中を撃っても良いですか」
「隊長、どうしたんですか私達はまだ戦えます」
俺も一番に上がって来た騎士もライルに詰め寄るが、その顔色はどことなく青白くなっている。
「分からないのか、他のオーガなどどうでもいい、あの一体に集中するんだ」
話している間にゆっくりと地上に降りて来たその赤黒いオーガは先程まで戦っていたオーガを次々と殴り飛ばし始めた。
その後ろでは魔石に変わっていく魔人達をそのハーピーが顔を上に向けながら悲痛な鳴き声を上げている。
「君は今の内に準備をしてくれ、いいか広範囲ではなくあの一体だけを狙うんだぞ」
「分かりました。合図をくれたら直ぐに撃ちます」
その赤黒いオーガは此方の事をまるで気にしていないように丘の下を歩き回り、落ちているオーガやハーピーの魔石を拾い集めるとその手の中で握りつぶして行く。
「何してんのよあいつは、仲間の魔石を砕くなんて信じられないんだけど」
ライルからの合図はまだなく、騎士達も黙ったまま構えていると、そのオーガはようやく此方に視線を向けてくるが、その目を見ただけで思わず持っていた杖を落としてしまう程に暗く、そして怒りに満ちている。
「ア~オマエラ、コドバガワカルカ」
「「「んんんんんんんっ」」」
誰もがその言葉で息を飲み込んだが、俺だけはその意味がその時は分かっていなかった。
魔族は独特の言葉を使用しているので会話を成立させるには特殊な魔道具が必須となっている。だがこの国では少数の人間が魔族語を使えるが、魔族が此方の言葉を話すなど前例のない事だった。
「オイ、ダマッテナイデコタエロ、キ・コ・エ・テ・ル・ノ・カ」
「聞こえているさ、私は王家直属…………」
「ワカンネ~ヨ」
ライルの言葉を遮り、一体だけで登って来るので騎士達はしっかりと武器を握り締め、俺は杖を構えたが副長が黙ったまま杖の上に手を置いたので止めろと言う事だろう。
「何処から来たんだ。その先は帝国じゃないのか」
「シラナイノカ、モウワレワレノクニナンダヨ、ナァ」
てっきりこのまま話し合いが行われるのかと思ったが、そのオーガは棍棒を振り上げてライルに攻撃しようとしている。
「雷瞬」
指示など待っていられずライルとオーガの間に割って入り、ゆっくり迫って来るように見えるオーガに対して杖の先を向けて魔力を流して行く。
【雷剣】が出来上がるのも遅く感じてしまうが、その剣先が伸びていきその胸に吸い込まれる寸前でオーガの身体がずれ胸ではなく右肩に突き刺さっていった。
そのまま棍棒を雷剣に叩きつけると剣に変わっていた部分は消えてしまったが、その熱は棍棒を通して手に伝わったようでオーガは棍棒から手を放す。
(こっちはまた作ればいいだけさ)
再び杖に魔力を注ごうとほんの一瞬だけ目を杖に向け、次にまたオーガを見ようとしたがそこからオーガは消えていた。
「伏せ……」
ジールの言葉が頭に響き始めた瞬間に条件反射のように身をかがめると、頭の上にオーガの拳が通過してその風圧で吹き飛ばされてしまう。
転がりながらも距離をとると同時に【雷瞬】の効果も消えていた。
(不味いな、これ以上使うと)
「スバヤイナ、ナンデヒカルノヲヤメタンダ」
「余計なお世話だよ、それよりまだやるのかい」
「アタリマエダ」
話しながらも杖に魔力を流して【雷剣】で構えをとる。
「それを拾えばいいだろ」
「イランサ」
「あっ」
オーガの身体を見ると、さっきまで右肩から青い血が流れていたのに今は全く流れていない。
「ドウシタ、ソンナニケガガキニナルカ」
嫌な予感がしたので直ぐに【雷瞬】で距離をとりたかったが、俺とほぼ同じ速度で迫ってきて拳で殴りかかって来た。
片手でガードしたのが失敗だった様で簡単に骨を砕かれながらそのまま後方に吹きとばされてしまう。
飛ばされながらもマジックバックに手を入れて回復薬を瓶ごと噛み砕く。




