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第五十四話 これからの魔法

 民の為と言われてしまったら断りにくくなってしまったので、仕方が無いが二頭の馬に書類の山を乗せ急斜面を下まで降りてから森を突き抜ける事にした。


 そうなると、かなり歩かなくてはいけないので夫人や子供の体力が心配になって来るが、そこは頑張ってもらうしか無いだろう。


「その方法でどれぐらいでイレイガに戻れるんだ」


「そうですね、通常ならば明日の昼前には到着しますが、ただ……」


(そうだよな、普通の大人ならばって事か)


 魔獣の襲撃も心配ではあったが、あの音が影響したのか気配はするものの近づいて来る事は一度もないまま夜を迎える。


 野営の見張を最初にする事になったが、こういった森の中での野営は久し振りで魔法を覚えたての頃が思い出される。


(んっそういや覚えたての頃はあそこ迄五月蠅くなかったよな、それがどうして……)


 仮定でしかないがもしかしたら威力と比例して音が大きくなっているのだと思う。ただ不思議なのはおばば様ヤクラウジーは別に魔法に効果音などは無い。


「ちょっとやってみるか」


 無音をイメージして雷の弾を慎重に出現させ。そのままゆっくりと遠くにある大木に当てて見ると倒す事はしなかったがちゃんと穴は開けたようだ。


(まぁ最初はこれぐらいで良いか、次は何時もみたいな速度で当ててみよう)


 またしても杖の先に慎重に雷の弾を出現させると、先程と同じように無音のまま佇んでいる。


「よしっ、雷銃」


 飛び出して行く音も無音のままだったが木に当たった途端にストレスを発散したかったのか、乾いた破裂音が鳴り響き遠くにあるその木は燃え始めた。


 嫌な予感しかしないが案の定、寝ていた者達が一斉に起き出してくる。


「どうした、何かあったのか」


「あぁ……魔獣がいたんで倒したんだ。もう安全だから休んでいていいよ」


「本当かしら、そもそもあんなに遠い場所なら倒さなくても良かったんじゃないですの」


 夫人は痛い所を突いて来るが、俺達を確実に狙っていたと言って誤魔化す。


 それでも今後の魔法の方向性は決まったのでこれからは音を意識して魔法を使えば何とかなりそうだ。


 再び他の人達は眠りに入って行くが、ジールはそっと近づいて来て耳元でそっと呟いて来る。


(少しは音が抑えられたようだね、たださぁその練習はまたにしなよ)


(あぁそうだな)



 ◇◇◇


「ほらっあっちから来るぞ」


「えっ何処よ……見えた、行ってくるね」


「今度はこっちからだぞ」


「任せて」


 ワイバーンの討伐では活躍できなかったがジールが、ここでは元気よく討伐に走り回っている。元の世界の女性に比べたら遥かに強いのだが、この世界の冒険者と比べるとまだまだ実力的には物足りない。


 ジールはもっと強くなりたいようだが、俺にはランスの使い方を教える事は出来ないので実戦で覚えてもらうしかない。


 それにいざとなったらいつでも手助けをする準備はしているので余裕があるうちにどんどんと腕を磨いて欲しい。


「どうだい。そろそろ疲れたんじゃないか、だったら次は俺がやろうか」


「止めてよ、あんたが魔法を使ったらまた昨日みたいに出て来なくなるじゃない。折角この辺りにいる魔獣はそんなに強くないんだから私に任せてよ」


 俺達にとっては良い訓練のつもりだったが、主人や執事達にはどうして魔法を使わないのか不思議に思っていたらしい。


「君はどうして今日は魔法を使わないんだ。もしかしてその杖が壊れてしまったのか」


「いや、壊れてはいないんですけどね」


「けどあんな音がするぐらいだから魔石がおかしなことになっているんだろう、イレイガに着いたらいい店を紹介してやろう、まぁ店主が戻っているか保証はないけどな」


「魔石で、うぐぐ」


 疑問を口に出そうとするとジールが俺の足をそっと踏みつけてきたし、冷たい視線を投げかけてくる。


「あんたはただその杖に慣れていないだけでしょ、そうだよね、詠唱を簡略化する杖だから扱いが難しいんでしょ」


「……あぁそうだな、扱いづらいんだよな」


 もう良く分からなくなってきたが、ジールの言葉に合わせないと後が怖そうなので合わせるしかない。


 今迄だったらエルフから魔法を教わったで済ませていたのだが、これで下手に名が広まってしまうと勇者召喚をした者達に弾かれた異世界人と気づかれてしまう可能性が少なからずある。


(面倒だけど仕方がないよな、今度からは詠唱をしている振りをするしか無いな)


 昼頃になってようやく森を抜け出す事が出来て、陽が落ちる前になんとかイレイガの姿を目にする事が出来た。


 

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