その五 平井の実験
「くっそ~どうすりゃいい、何でこいつらは戦闘になると動きが鈍くなるんだ」
平井以外の者が自我を失ってから一ヶ月も経つというのに、未だに上手く操る事が出来ていない。
「そりゃよ、こいつらは心の奥では戦いたくねぇからだろ、だからちゃんと魔力を込めて命令しねぇと駄目なんだよ、おめぇはのんびりとやっている場合じゃねぇぞ、魔道具がありゃ俺の方が上手く操れるんじゃねぇか、あぁそうしたらお前もこいつらと同じにした方が良いかもな」
(クソがっ、あれだって今の俺とそんなに変わらないじゃねぇか、見ていろ、もっと上手く扱ってやるからよ)
「もう少しだけ時間を下さい……そうだっ出来れば魔獣ではなく兵士で模擬戦闘をしてくれませんか。もっと死の恐怖を本能に悟らせた方が良いかも知れません」
「そんな単純にいくかね」
◇◇◇
翌日になると転移者12名と兵士三十人とで模擬戦闘が行われることになったが、転移者は木剣のみでしかも一人は最初に殺される事が決まっている。
それで恐怖を染み込ませる事になっているが、平井には別の目的もあった。
「そろそろ始めようじゃないか」
「お願いします」
天然の自然を利用したサバイバルゲームの会場の様になっているが、兵士は武器も武具も本物で圧倒的に転移者に不利な状況になっている。勝敗の条件はない。ただ兵士が止めるまで戦うそれだけだ。
模擬試合が始まると直ぐに渡会という男を敵陣に突撃させる。打ち合わせ通りに矢の雨が渡会に降り注ぎ命が消えるまでただひたすら走り続けた。
すると操る為に繋いでいた魔力の管から恐怖の感情ともとれる何かが逆流してくる。
「どうやら理解出来たようだな、いいか、油断していると殺されるぞ、ただな向こうに攻撃したらそれだけで殺されるからな、お前らに許されるのは防御だけだ。まぁ心配するな、あいつらの動きなんて遅すぎる位だからな、それとだな命令するまで奴らの武器を壊すなよ」
模擬試合が始まると今回はちゃんと平井のイメージ通りに動いて行く。決して兵士には攻撃はしないで躱したり防いだりしている。
「さて、如月と狩野にはやって貰う事があるんだ。先ず如月は誰でもいいから一人殺せ、そして狩野は魔法を使ってアズールを攫うんだ。お前の魔法なら誰にも分からずに出来るだろ」
如月は直ぐに飛び出していき、最初に出会った兵士の顔に木剣を突き刺した。周りの兵士が呆気にとられる中で如月は口から血を流して簡単に死んでしまう。
その死を確認した後で近くにあるエサ小屋の中に入って行くと、中には猿轡をされて柱に縛られているアズールがいて、その隣には無表情の狩野が立っている。
「いやぁ騎士団長ともあろうお方がこんなに簡単に捕まってしまうとはね、情けないなぁ」
「ぐぐぐぐぐっ」
「いいかい、それを外してあげるけど、魔法障壁を張っているから外には声も聞こえないぜ」
怒りの表情をにじませたアズールの猿轡を外すが、縛ってある手足はそのままにしておく。
「お前、こんな真似をして只で済むと思っているのか、今なら許してやるから早く外すんだな」
「それが出来るならとっくに狩野を殺してるでしょ、まぁいいか、ちょっと実験に付き合ってよ」
狩野に命令を出してアズールの顔を何度も殴らせる。腕も足も折らしてみたが狩野には何の変化も無い。
「頼む、止めてくれ、その腕輪の秘密を教えるから」
「良いよそんなのは、どうせまた嘘をつくんだろ、だからさこれは実験なんだよ」
アズールは折れているのも関わらず何とか逃げ出そうとして暴れまわるが、どうしても平井には幼虫にしか見えなくなってきた。
「いい加減にしろよな、いいか俺が死んだらお前ら全員一緒に死ぬんだぞそれでも良いのか、それにな俺を殺したことがバレたら自らが死にたいと願う程の拷問が待ってるんだぞ、今なら許してやるさぁほどきやがれ」
「あのさぁ言ってることが無茶苦茶なんだよね、何で全員に変わってるんだい……やれ」
狩野がその首に手を掛けるとアズールはあやゆる場所から体液を流して死んで逝った。そのまま狩野に詠唱を唱えさせ、空間に現れた黒い穴にアズールの死体を投げ込んだ。
「……殺してもまだ生きているのか、如月は直ぐに死んだのにな」
◇◇◇
平井の実験が終わると傀儡達は兵士の武器を壊し始め、ものの数秒で模擬戦闘は終了となった。
副長にはアズールが勝手に帰ったと精神魔法を掛けたので捜査すら行われなかった。
翌日に狩野には心が壊れた演技をさせ、二人で歩いていた兵士の内の一人を殺させると、今度はかなり時間が掛かったが如月と同じように口から血を流して死んでしまう。
平井はこの実験で死ぬ条件はつかめたが、死を防ぐ方法が見つからないので一年経っても実行できないでいた。
(くそっやはり腕輪を外す方法が分からねぇと駄目だな)
やけになって一人の男に無理やり腕輪を外させてたが、やはり死んでしまったのでそれからは自嘲する事にした。
この時点で転移者の生き残りは9人になっていて、国王から任命された王子がその中から六人を選び部隊名を六宝星となる。
「おいっお前らの初陣が決まったぞ、今からワイバーンの討伐に行くからな、いいか、派手に討伐するんだぞ」




