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第五十三話 嫌になって来た

「それは一体なんだね」


 馬車の中から主人ともう一人の男が飛び出してきて、まだ流し続けている【雷流】を見ながら言ってくる。


「ちょっとした魔法ですよ、ただ思った以上に威力が無かったので少し残酷な気もしますが」


 新しく作った【雷流】は見た目は合格なのだが、ずっと耳障りな音が続くし威力が弱いので残念で仕方がない。


「助けて下さい、奥さまが~」


 馬車の方から護衛ではなく御者の顔を出して叫んでいる。慌てて馬車の中を覗き込むと夫人と子供が苦痛の表情をして意識を失っていた。


「どうした、魔獣にやられたのか」


「違うに決まっているでしょ、あんたの魔法のせいよ、あんな音が聞こえたから怖かったんじゃないの」


「音だけでか~、音ね、そろそろ向き合わないといけないのかな」


 おばば様も俺が魔法を使うたびに効果音の様な音を不思議がっていたが、どうやら俺は心の奥で勝手にイメージを付与しているせいらしい。


 それをあまり意識しすぎると魔法が発動しなくなってしまうので、それからは気にしないようにしていたがもう一度考え直さないといけない時が来たようだ。


 前回の経験を生かして俺は夫人や子供に触れる事はせず、ジールもあえて動かなかったので主人だけが助けているのを見守っている。


 何もできないまま一時間程経過するとまず最初に夫人が目を覚ました。


「ううっ何ですの、私は死んでしまったのかしら」


「いや、大丈夫だ。あれは魔獣のせいではなくて彼の魔法の音だそうだ」


「あの男の魔法のせいですって……」


 一瞬だけ俺の事を睨んだが直ぐに子供達の方に駆け寄り軽く頬を叩いて起こして始めた。


(絶対に怒ってるよな、何か嫌だな)


 ジールに助けを求めるように視線を送ると、その意味を分かってくれたのかちょっとだけ肩をすくめて見せてくれた。


 子供達の意識が戻ると、主人を差し置いて夫人が俺の前にやって来た、


「あなたは何をしたのです。ちゃんと説明して頂戴」


 そんな金切り声を上げなければ上品な人のように見えるのだが、今の夫人の顔からは気品の欠片も感じられない。


 もうその話は済んでいるのでこれ以上話す事は無いので面倒ではあったが、仕方がないのでもう一度話す事にする。


「あ~だから広範囲魔法という分類になるのかな? 異音がするのは仕方がない事なんでこればかりはどうも……あっいっけね、ジール手伝ってくれ」


 すっかり忘れていたが、ワードックを倒したというのに討伐部位である牙の回収を忘れていた。それに魔獣なのだから魔石も取り出さないといけない。


「え~ワードックなんてたかがしれているじゃない、ワイバーンの報酬があるんだから止めようよ、それにあの肉は美味しくないしさ」


「いいから回収するんだよ、ジールは今回の事でD級に上がれたからいいかも知れないけど俺は駄目だったんだぜ、実績は充分だったのに仕事をそんなにやっていないのが理由なんだよ、だから少しでも討伐した事の証明を持って行かないとC級に上がれないからさ」


 少し前までは階級にこだわりは無かったが、冒険者を暫く続けるのであればある程度の地位は必要だ。


 ジールは期間が決まっているので良いのかも知れないが、討伐隊に参加する為に集まったあの時にD級というだけであんな目をされたのは決して忘れない。


 しぶしぶジールは回収をやってくれ、御者の老人も手伝ってくれた。


「魔石って心臓の辺りだよな……何だかないんだけど」


「よく見てごらんよ、あんたの魔法のせいで砕けてるんだよ、ねぇどうしてあんたは魔石を狙うのかな」


「わざとじゃ無いんだけど……」


 毛皮は当たり前のように焦げていて、回収できたのは倒した分の牙と魔石が三つだけだった。


 ワードックの牙は大した金にならないが討伐証明になるので金が目的ではなかったと自分に言い聞かせるしかない。


 全ての解体が終わるとそれまで手伝ってくれた老人が申し訳なさそうに言ってきた。


「これで満足ですよね、だったら夫人の所に行ってくれないかな、あの人は一度機嫌を悪くすると面倒何で頼むよ」


「悪いけど嫌だね、何だか本当に此処に下りてきた事を後悔しているんだ。怪我もしていないようだし、これからの事は好きにやって下さい」


 馬車の中からは夫人の金切り声が聞こえて来たので、それ以上は聞く気になれず急勾配の坂を登り始めた。


 少しだけ登った時に主人が下から大声を張り上げて俺達に向かって声を張り上げた。


「ちょっと待ってくれないか、確かにこの中には私の財宝も入っているがそれよりもイレイガの民にとって大事な書物があるんだよ」


 主人の名はノアと言って、イレイガの街では筆頭文官をしていたそうで、ワイバーンのせいで街が混乱していた時に領主の不正を暴く資料を持ち出したそうだ。


 それを見せてもらうと書物と言うより紙を束ねたものが多く、これでは手で運ぶには難儀な物となっているし、あまり人の目に触れていい物では無いらしい。


(やっぱり面倒な事になったな)


 

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